(n+)1周目

第2話 残されたメモ

 目を覚ますと、真っ白い天井が見えた。見知らぬ景色に俺はすぐに飛び起き、周囲を見渡した。


 そこは六畳くらいの小さな部屋だった。真新しい壁紙は不自然なほど白く、新築物件のような綺麗さだ。しかし、窓は一つも無く、出入り口らしきものは頑丈そうな木の扉一つあるだけで、勝手に逃げ出す事は許してくれそうにない閉鎖的な圧迫感があった。天井についている監視カメラの威圧感も心を落ち着かせてはくれない。壁に掛けられたアナログ時計の針は3時を指しているが、昼か夜かは分からない。


 俺はまず、記憶を辿った。直前の記憶は、アパートの部屋に置かれた奇妙な手紙と目の前が真っ暗になる感覚。


(俺、襲われたのか)


 不幸中の幸いか、体のどこにも怪我や異常は無いようだった。俺がベッドから降りようとすると、親切にも靴が揃えて置いてあった。


(土足ってことね)


 手紙には『新感覚サバイバルゲーム』と書いてあった。強制連行するような運営がまともだとは思えないが、とりあえず俺はこの部屋を調べる事にした。


 とはいっても、調べる所は多くない。まず軽く壁を叩いたが、予想通り硬くて壊せそうにない材質だ。たぶん壁紙の向こうはコンクリートとかだろう。

 置かれている家具は俺が寝かされていたベッドと、部屋の角にきっちりと置かれた机と椅子くらいだ。どれも、木製のようだが、一見して安っぽい量産品だと分かる。

 机に近づいた俺の目に止まったのは、黒い表紙のメモ帳だった。メモ帳から不自然に紙がはみ出していたから表紙を捲ると、そこには一枚のメモの切れ端が挟まれていた。しかし、大部分が破かれて失われていて、読めるのは最後の一行だけだった。


『いいか、絶対に諦めるな』


 メモの切れ端の隅についている赤いシミからは不穏な気配を感じて、俺の胸をざわつかせた。


(相当に難しいゲームって事か?)


 仮に前にも同じようなゲームが行われたとして、その前回の参加者が残したメモの可能性はある。しかしそれだと、使用された形跡の無いこの部屋の綺麗さが気になる。新しく壁紙を貼り直したのだとしたら、それも説明がつくけれど、それだとこのメモが残っているのが奇妙だ。


 前に何があったのか、これから何が行われるのか、俺の不安は募るばかりだった。しかし、いつまでもこの部屋に留まっていても仕方がない。俺は部屋唯一の扉の前まで歩いて行った。扉は内側から施錠できるようになっているようだが、鍵は部屋には見当たらなかった。


 俺は扉の前で、立ち止まっていた。この扉の先に何が待ち受けているのかは分からない。しかし、アパートの自室で襲われて、無理やり連れてこられたのは事実だ。俺は最大限の警戒心を抱きつつ、ドアノブに手をかけた。


 その時、扉の外から大きな音が聞こえた。耳に届いたのは小さな爆発のように大きく、短く響く音。運動会でよく聞く音に似ているそれは、

 

 だった。




 

 

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