第14話 お正月の出来事

 それからと言うもの、年末まで僕たちは毎日のように会って色々と遊んだ。そんなに一緒に居なくてもいいんじゃないかと言うくらいに。

「一ノ瀬先輩。初詣なんですけど、年越し詣でにするんですか?」

「うーん。どうしようか。正月の深夜なんてめちゃくちゃ寒そうだけど」

「初詣終わったら電車で帰れば良いんですよ。お正月は電車、確か動いてますし」

「そうするかぁ。多分ウチの家族も元旦に初詣に行くだろうからそれにも付き合いたいし」

「じゃあ、決まりです」

 

「一樹は初詣どうするの?」

「まひるちゃんと年越し詣でかな。へしみ稲荷に」

「また有名所に行くわね。混むんじゃ無いの?」

「その方が賑やかでいいじゃないか。誰もいない穴場とかに行っても出店とか出てないだろうし」  

 香織と夕飯をテーブルに並べながらそんな会話をしていたら、母さんがウチもへしみ稲荷に元旦初詣に行くけど、また行くのか?と聞いてきたので、家族と一緒に行くのは毎年の行事みたいなものなので行くと答えた。


「一ノ瀬先輩、すごい人ですね」

「ああ、流石有名所だな。でも賑やかでいいじゃないか。お。あっちで甘酒売ってるぞ。買ってくるか。ちょっと待ってて」

 そう言って私を赤い布の敷かれたベンチに座らせて列に並びに行った。

「あれ?まひるじゃん」

「あ。詩ちゃんも年越し詣で?」

「そう。ウチは家族で毎年」

「彼氏でも出来たのかと思ったのに」

「彼氏かぁ。いいなぁ、まひる。彼氏が居て」

「へへ」

「それじゃ、私はこれで」

 詩はそれだけ言って家族に合流してお参りの列に戻っていった・

「お待たせ。今のって高校の同級生だっけ?確か井上さん」

「そうです。一ノ瀬先輩がセンシャイン水族館で一緒だった子ですよ」

「へぇ。着物着てたからちょっと分からなかった」

「私も着物の方が良かったですか?」

「うーん。着物のまひるちゃんも見たかったけど、あれって寒くないのかな」

「女の子は寒さよりも見た目です!」

「前もそんなこと言ってたな」

 僕たちは何気ない会話をしてから参拝の列に加わった。

 

「そういえば、例の件あったじゃないですか」

「何の件?」

「ええと。陽葵ちゃんの件。逮捕された」

「ああ。アレか」

「先輩はもう傷、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ」

 私はあのとき陽葵ちゃんが言ったことを聞くか迷っていた。

 「一ノ瀬先輩に井ノ島で何してたんですか?って聞いてごらん?面白いから」

 ここで聞いてなにかあったら台無しになっちゃうし。でも気になるし。

「い、一ノ瀬先輩。井ノ島の……」

「ああ。水族館残念だったよね。今度はちゃんとチケット予約して取って行こうか」

 私が言い終わる前に言葉を被せてきた。やっぱり何か井ノ島にはあるのだろうか。

 

 僕たちは一緒にカウントダウンに参加して初詣を済ませ、眠そうなまひるちゃんを家に送り届けてから部屋に戻って家族で行く初詣に備えて少しでも睡眠を取ることにした。

 

「あけましておめでとうございます!今年もよろしくおねがいします!」

「悠仁君の元気な声がして目を覚ました。玄関に行くとお重を持った香織が居た」

「お。おせち作ってきてくれたんだ」

「売ってたものを詰め合わせただけだけどね。お雑煮は後で作るから」

 いつものお正月。香織と悠仁君が来てから賑やかになった。悠仁君へのお年玉もあげることが出来てなんか大人になった気がした。

「昨晩はどうだったの?」

「どうって?」

「年越し詣で、したんでしょ?」

「ああ。特に何も無かったよ?普通に甘酒飲んだり出店で食べたりして。そのまま家に帰ってきた」

「そう。じゃあ、向こうの両親への挨拶はいつ行くの?」

「うーん。明日くらいかなぁ。今日はみんなでへしみ稲荷に行くじゃない?」

「そうね。でも両親公認って高校生でよく許して貰えたわね。私が親だったら全力で止めてると思うわ」

「人徳だ」

「そうねぇ。人徳ねぇ」

「それもあるけど、香織は彼氏とか作らないのか?」

「なにそれ。私への彼女自慢かしら?」

「いや、香織なら作ろうと思えば簡単に作れるんじゃないかと思ってさ」

「誰でも良いって訳じゃないのよ。ちゃんと考えてるから安心して」

 

 家族での初詣はいつも通りで特に変わったことはない。深夜のへしみ稲荷よりも人混みがすごいと言うのを除いて。

「悠仁君、手を離さないようにね」

「うん!おねぇちゃんも‼」

 そう言って悠仁君が香織さんの手を僕に渡してきた。

「ああ。そうだな。着物なんて着てくるから歩きにくいんだよ」

「いいじゃない。こういうときしか着られないんだから。それにおばさまが着付け出来るって言うから」

 そうは言うもののただでさえ目立つ香織が着物なんて着てるものだから周囲からの視線が集まる。まるでアウトレットパークに行ったときのような視線を感じる……。釣り合わないというか何というか。

 その日の夜は父さんに酒を勧められて翌日はちょっと気分が悪くなってしまったので、まひるちゃんに伝えたら、僕の家で遊ぶので‼と言って聞かないので、時間を聞いて待つことにした。

「十二時には来ると思うからそれまでには」

「分かってるわ。筑前煮も作ってあるからお昼、それを食べて」

「ああ。助かる」

 今日は両親共々町内会の餅つき大会に出掛けている。またまひるちゃんとふたりきりになるので、あまりエスカレートしないようにしないと。正直、今回は酔いもまだ残ってるし我慢する自信がない。

 

 私は悠仁を連れて駅前のショッピングモールに福袋を買いに出掛けた。家に居ると何かしらでまひるちゃんとバッティングしたらバツが悪いと思って。

「あ、香織さん。あけましておめでとうございます」

 駅前のショッピングモールでまひるちゃんに会う。今回は悠仁も一緒だし勘違いされることもない。

「まひるちゃんも福袋?」

「違います。先輩のお昼ご飯の材料を買いに来ました」

「そ、そう」

 筑前煮。作って来ちゃったけども大丈夫かな。ここで言うべきだろうか。でもまた変な勘ぐりだれても仕方ないし。ここは一樹に任せよう。

「何を作る予定なの?」

「筑前煮です!お正月なので!」

「そ、そうなんだ。まひるちゃん、そういうのも出来るんだ」

「勉強しました‼それじゃ。私は食材コーナーに行ってきますので!悠仁君もバイバイ」

 どうしよう。筑前煮。私は急いで一樹にメッセージを送った。が。遅かった。おじさまが餅つきで腰をやったとかで家に帰ってきて筑前煮を食べ始めている最中とのことだった。一樹からは両親が作ったことにするから」と返信が来たけども。


 先輩、喜んでくれるかな。筑前煮とか家庭的で。あ、先輩の家って圧力鍋とかあるのかな。

 そんな私の考えは脆くも崩れ去った。

 

「あら、まひるちゃん。あけましておめでとう。そうそう、香織ちゃんが作ってくれた筑前煮、あるけど食べる?」

 僕が母さんに説明する前にまひるちゃんがやってきてしまった。

 僕は頭を抱えたが、言い訳がましいかも知れないけど言った。

「去年も作ってくれてさ。美味しいからって母さんがまた作ってくれって頼んだみたいなんだ」

「そう、なんですか。それじゃ、私も頂きます!」

 なんか気まずい。まひるちゃんは僕の両親と楽しそうに会話をしている。僕はまひるちゃんがどう思っているのか気になってしまって気が気でない。それに買い物して来たものがなんなのか気になる。もしかして何か作りに来てくれてたとか?

「お腹いっぱいです。本当に美味しいですね。香織先輩の筑前煮」

「お、おう。なんか昔から作ってたらしいぞ。そのほら……」

「そうですね。それはじゃお皿は私が洗うので!」

「お。悪いな」

 

 この筑前煮はここに香織先輩が立って料理してるのかな。私はその代わりになれないのかな。

「それじゃ先輩。部屋に行きましょう。っと。お茶ありますか?」

 僕たちは部屋に入るなりコタツに入ってぬくぬくし始めた。この時期のコタツは最高だ。

「えい」

 コタツの中で僕の足をまひるちゃんが蹴ってきた。

「えい」

「どうしたの。まひるちゃん」

「なんか悔しいんです」

「何が?」

「香織先輩が一ノ瀬先輩の家の台所に立ってるのが。そりゃ理由は分かってますから、何も言えないんですけど」

「そう膨れないでくれよ」

「あ。あのマフラー」

「そ。買って貰ったやつ。手袋もあそこに置いてあるぞ。本当にありがとうな」

「いえいえ。一ノ瀬先輩が喜んでくれたので彼女冥利に尽きるってものです。

 笑顔はプライスレスです」

「そのリップは僕がプレゼントしたやつ?」

「はい!ぷるんぷるんですよ。味わいたいですか?」

「またそうやってからかう。今日は両親も居るんだし、そういうのは遠慮してくれた方が良いというか」

「一ノ瀬先輩。そっちに行って良いですか?」

「別に良いけど狭いぞ」

 一人用のコタツだ。横に並んで入るには狭い。

「一ノ瀬先輩」

「なんだ?」

「私、幸せ者です。嘘をついてまでお付き合いして本当に良かったと思います」

「あの嘘はちょっといただけなかったけどな」

 そう。舞台女優を目指すから台本の彼氏役をお願いしたい。とか。否が応でも凛ちゃんのやりたいことリストを思い出してしまって。

「あ。一ノ瀬先輩、今凛先輩のこと考えてたでしょ?」

「分かるか?」

「分かります。凛先輩の分まで私が一ノ瀬先輩のことを好きになってあげるんです」

「凛ちゃんの誕生日墓参りの日の度に怒られそうだな」

「凛先輩はそんな人じゃないです」

「そうだな」

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