第13話 冬休みへの誘い

「それにしても先輩、気が付きませんよね」

「なにに?」

「リップです。昨日一ノ瀬先輩から貰ったリップつけてるんですよ?」

「へぇ。実際につけるとそんな風になるんだ。流石にお店で試す訳にはいかなかったし初めて見るよ。良い感じじゃん」

「へへー。一ノ瀬先輩、化粧品選びのセンスアリなんじゃ無いですか?」

 本当はデパートの店員さんに聞いたなんて言えないな。

「さて。最後はあそこのお店を見てお仕舞いです!」

「あ、この店、安いんだよね」

「知ってるんですか?」

「ん、ああ、ネットとかで」

「そうですか。女性もののメーカーなんて調べるんですね」

「一応ね、クリスマスプレゼント何にしようか調べたりしたから」

 危ない。あと少しで行ったことあるなんて言いそうになった。

 その日は最寄りの駅に帰って早めの夕食を取ってから、疲れたというまひるちゃんを家まで送り届けて家に帰った。

「ただいまー」

「あら?はやかったじゃない。晩ご飯、どうするの?」

「台所から香織の声がする」

「いや。駅前のセイゼリアで食べてきた」

「そう。あ、そうだ。一応私からもクリスマスプレゼントあるから後で渡すわね」

「お。悪いね。あ、僕は何も買ってないや……。まひるちゃんへのプレゼントのことでいっぱいいっぱいだった」

「別にいいわよ。私にクリスマスプレゼントを渡したなんてまひるちゃんに知られたら大変でしょ」

「それもそうか」

 僕は皆が夕食を食べている間、自室でテレビを見ていた。クリスマスっぽい番組が流れている。

「嘘つき、か……」

 昨日の夜に送られ来たメッセージを読み返す。自分の心に嘘は無いか、そんなことも考えてしまった。

「お待たせ。それじゃ、これ。クリスマスプレゼント」

「お。なんだ?結構小さいな」 

「プレゼントは大きさじゃないのよ。心だから」

「それもそうだな」

 そう言って包みを開けると万年筆が出て来た。これが嘘から出た誠ってやつか。

「一応。ほら。小説家を目指すとかなんとか言ってたじゃない?あれってもう諦めたの?でもまぁ、今の小説家ってパソコンか」

「そうだな。パソコンで書いてインターネットにアップロードだな。でもこれ、大切に使うよ。なにかのサインとか」

「なにサインって。もう売れっ子小説家になってるの?」

 そう言って笑い合った。

「ところでまひるちゃんからのクリスマスプレゼントって何だったの?」

「これ。ペールスミスの手袋」

 そう言って香織に手渡した。

「これ、高かったんじゃないの?」

 多分。あの店そんなに安くないから。しかも、今日アウトレットパークに行ってこのマフラーまでプレゼントして貰った。それも香織に渡す。

「へぇ。いいじゃない。どう?似合う?」

「男物だぞ。でもまぁ、香織はなにを着ても似合うからなぁ。ずるいよ」

「そう?」

 そう言いながら姿見鏡の前で身体を左右に振る。

 

 クリスマスが終わって二十六日。今日が高校の修了式。高校受験のある三年生は実質これで高校生活は終了を迎える。僕は久しぶりにまひるちゃんを校門まで迎えに行った。最近ゴタゴタがあったのでそれを埋め合わせる様に。

「あ。一ノ瀬せんぱーい。あ、悪い。今日はこれで!」

「いーなー。あんな彼氏。私も欲しいなぁ」

 友人達にそんなことを言われながらも私は一ノ瀬先輩の元に小走りで向かう。

「どうしちゃったんですか?珍しい。守衛さんに不審者扱いされたらどうするんですか」

「そんなに不審者に見えたかい?」

「そりゃ世間から見たら大学生は立派な大人ですし、高校の校門前で待ってたら目立ちますって」

「それもそうか。じゃあ今度からは如月公園で待ち合わせにしようか。ってもう冬休みだし学校の授業も実質お仕舞いだっけ?」

「はい。私は無事に一ノ瀬先輩と同じ大学の指定校推薦を取ってますのでやることが何も無いです。目一杯デートしましょ?」

「そうだな。どこか行きたいところとかあるの……」

 私たちはそんな会話をしながら一ノ瀬先輩の家を目指す。店先にはいつものように香織さんがいた。

「あ。今日が修了式で明日から冬休み?」

 香織さんに質問されたので、「そうです。一ノ瀬先輩といっぱい遊ぶんです!」と一ノ瀬先輩の腕に抱きつきながら牽制を入れた。

「そんなことしなくても取らないから。大丈夫よ」

 どうだか。本当はどう思ってるのか知らないけど。

「それにしても冬休みかぁ。まひるちゃんは指定校推薦だっけ?私たちと同じ大学に」

「はい。そうです。香織先輩は来年卒業ですよね?そうなったらここのバイト、私が代わりますから安心して下さい」

 僕と香織は目線を送り合う。本当のことを言うべきか。嘘をついても仕方ないと僕は視線を送った。

「ごめんねー。ここの従業員に就職するのよ。バイトが必要になったら声かけるわね」

「え?あ、はい。おねがいします」

 どういうこと?ここの従業員になるって。卒業しても一ノ瀬先輩と一緒に居るって事?

「先輩、どういうことなんです?」

 部屋に入って一ノ瀬先輩にさっきの事を質問する。

「ああ。ウチも従業員募集してたから。バイトに入ってた人がそのまま従業員になってくれるのは助かるんだよ。それに悠仁君のこともあるし。引っ越したら学区が変わっちゃうだろ?」

「あの、そういうのは香織先輩のご両親に……」

「ああ、言ってなかったっけ?香織、両親を事故で亡くしてるんだ。だから悠仁君も一人で世話してる。それで家計が助かればって僕の家に格安で住んでるんだ」

「ああ、そういうことだったんですか。もっと早く言ってくれれば良かったのに」

「いや、悪い。それで色々心配をかけた」

「そうですよ。まったく……」

 

 僕たちは昨日出したコタツに入ってミカンを食べながら年末特番を見始めた。

「そろそろ帰った方がいいんじゃない?」

 十八時を過ぎた辺りで僕が切り出す。

「えー。もうちょっと一緒に居たいです」

「明日から十分に一緒に居られるでしょ。それに最近遅くまで付き合わせちゃってるから親御さんに悪いでしょ」

「はあい。じゃ、先輩、お家まで送って下さいね?」

「そのつもりだよ。それじゃ行こうか」

 十九時には香織が家に晩ご飯を作りに来る。またバッティングしたらなんていえばいいのか分からないから早めに帰宅させる。

「それじゃ。一ノ瀬先輩。また明日」

「明日も遊ぶのかい?」

「そうです。毎日遊ぶんです」

 香織先輩には時間はを渡さない。

「ちょっと位は休ませてくれよ?お互いに遊びすぎて風邪でも引いたら初詣に行けなくなるよ」

 そうですね。それじゃ、明日は休養日と言うことで。そう言って両手を広げてくる。またハグして下さいってやつだ。僕もそれに応えて、今日は僕から軽くキスをしてあげた。

「それじゃ、また」

 僕は挨拶をしてまひるちゃんが家の中に入るのを見届けてから家路についた。

「ただいま」

「おかえり。今日は水炊きです」

「おー、寒いから良いね」

「あ。早速そのマフラーと手袋使ってるんだ」

「そそ。実用的で助かるよ」

「なにそれ私への当てつけ?そうですよーだ。万年筆なんていつ使うのかなんてわからないですよーだ」 

「いじけないで。僕は貰ったこと自体が嬉しいんだから。あ、でも万年筆のことなんだけど、あの日、井ノ島に行った日のこと、なんだけどさ。買い物に行って万年筆を買ったことになってるからその辺、よろしくね」

「分かったわ。その辺は任せてまひるちゃんに変な心配させないようにするから。って、隠しておきなさいよ?」

「そうだな。その方が良いかな」

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