第12話 決戦のクリスマス(その二)
「はぁー。なんか緊張したな。いつものデートとなんか違った。中身が濃いというか何というか」
時計を見ると二十一時四十五分。そろそろ香織が僕の部屋に悠仁君へのクリスマスプレゼントを取りに来る時間だ。悠仁君は大体このくらいの時間にはもう寝ているから、枕元にプレゼントを置く役を今年もやってあげたい。ちょっと早足で家に帰ったら、丁度僕の家のチャイムを押そうとしていた香織に玄関前で出会った。
「ああ、今帰ったのね。丁度クリスマスプレゼントを取りに来たのよ。どうする?今年もサンタクロース役をやるの?」
「ああ。あれ、癖になるよな。ちょっと待ってて」
僕はドアの鍵を開けて家の中に入っていった。
「ちょっと待っててって言ったじゃん」
「あ。ごめんなさい。つい、いつもの癖で」
悠仁君へのクリスマスプレゼントを取りに部屋に入って行くと後ろから香織が付いてきていたのだ。てっきり玄関で待っているのかと思ったのに。
「それにしても。この部屋に入るのって久しぶりね」
「そうだな。今度まひるちゃんと一緒にゲーム大会でもやるか。まひるちゃん、めっちゃ強いから」
「そうね。あ。この上着、本当に着ていかなかったんだ。偉い偉い」
そう言って香織はその上着を羽織った。
「なんか懐かしい」
「そんなに前の話じゃ無いだろ?」
「そうね。で?今年の悠仁へのクリスマスプレゼントは何にしたの?」
「これ。ほしがってた変身ベルト」
「あー。買ってくれたんだ。それ地味に高くて迷ってたのよ。ありがと」
お。久しぶりに聞いたな「ありがと」ってやつ。
「じゃあ。サンタクロースは悠仁君の枕元に行きますよ」
僕たちはそう言って悠仁君の元へ向かった。
「キッスキッスキッスミー♪」
今日の別れ際。一ノ瀬先輩のキス、貰い忘れちゃったから、貰いに行かなきゃ。プレゼントで貰ったリップも塗ったし気が付いてくれるかな。
「うそ……」
一ノ瀬先輩の家の前。
「なんで?なんで一ノ瀬先輩が香織先輩のお家に入っていくの……」
私はあまりのことに取り乱してその場から走って逃げた。どっちに走ったのか分からない。気が付くと如月公園にいた。
「悠仁君、もう寝てるよね?」
「うん。大丈夫」
「よし。サンタクロースサンタクロースやってきだぞーっと。これでよし。明日は何時くらいに起きるんだっけ?」
「目覚まし八時にかけてたわよ。あ、あとこれ。サンタクロースさんへのプレゼントだって」
そう言って香織さんは僕にお菓子を手渡してくれた。悠仁君かわいいなぁほんと。
「それじゃ。僕はこれで。おやすみ」
「おやすみなさい」
ポコン
「ん?」
部屋に帰ってまひるちゃんからのクリスマスプレゼントを嵌めたり外したりしてニヤニヤしてたらメッセージが飛んできた。
「嘘つき」
え?
「一ノ瀬先輩の嘘つき」
え?
なに?なんでまひるちゃんがそんなことを?
「まひるちゃんどうしたの?」
急いで電話を掛けてみると外に居るようだ。場所を聞くと如月公園。僕は上着を羽織って急いで如月公園に向かった。
「まひるちゃん!」
「一ノ瀬先輩……」
「どうしたの急に。嘘つきってどういうこと?」
陽葵ちゃんのメッセージも思い出してちょっと身構えてしまったけども。まひるちゃんにそんなことをされることは無いと近づいた。
「こっちに来ないで‼」
「どうしたんだよ急に。一体何があったんだよ」
心臓がバクバクする。この状況、ただ事では無いことだけはわかる。
「まひるちゃん。理由を話してくれないと分からないよ」
「自分の胸に手を当てて聞いてみて下さい!自分が今まで何をしていたのか‼」
今まで?まさか……。
「香織の家に行ってたのを見てたの?」
「……」
「やっぱりそうか。アレは誤解だよ。悠仁君へのクリスマスプレゼントを枕元に置きに行ってたんだよ。そもそも今日はウチの両親とも連絡取ってお泊まりとか言ってたんだろ?まひるちゃんが考えてるようなことがあれば、ウチの両親もなんか言うって」
「……本当ですか?」
「本当だって。今年は悠仁君の欲しがってた変身ベルト。そうだ。ちょっと朝早いけど見に来る?悠仁君がクリスマスプレゼントを開けるの。最高に喜んでくれるから楽しいよ」
僕がそこまで言うと信じてくれたのか、ゆっくりと近づいて来てくれた。
「ハグして下さい。そして私にキスして下さい」
僕はまひるちゃんの要望通りにハグをしてキスをした。
まひるちゃんは泣いていた。そんなにも悲しい思いをさせてしまったのか。僕は何度もまひるちゃんにキスをして家まで送っていった。
如月公園で待っていた私の元に、一ノ瀬先輩がやってきてくれた。すぐに来てくれた。でも香織先輩の家に入っていったのは見た。何をしてたの?やっぱり信じられない。
「こっちに来ないで‼」
私の口からはそんな言葉が出る。先輩はなにがあったのかって理由を聞いてくるけど、そんなの分かってるはずなのに。
「悠仁君へのクリスマスプレゼントを置きに行ってた」
本当なの?信じていいの?
「朝早いけど見に来る?」
本当に信じていいの?
「ハグして下さい。そして私にキスして下さい」
一ノ瀬先輩、私を安心させて。お願い。先輩の胸にゆっくりと近づいた。
先輩は私を抱き寄せてキスをしてくれた。私は涙を流した。いや、流れ出る涙を抑えきれなかった。
ああ。この匂い、香織先輩の匂いだ……。
私はどうして良いのか分からず、一ノ瀬先輩の後を追って家までたどり着いた。途中何を考えていたのか思い出せない。先輩は明日悠仁君がクリスマスプレゼントを開けるのを見に来ないかって言ってたけども。ちょっと一ノ瀬先輩の顔を見ると涙が出てしまいそうなので遠慮した。
どうして上着から香織先輩の匂いがするの?香織先輩のお家で何をしてたの?香織先輩にも同じ事を聞く?でも私の考える本当のことが起きていたら私……。
「どうだって?まひるちゃん」
家に帰ると僕の家の前に香織さんが立っていた。
「やっぱり僕が香織の家に入るのを見てたみたい」
「はぁ……そう言うこと。なんか乱暴にドアが閉まる音がしたから何かあったんじゃないかと思ったら。ちゃんとフォローしておいた?」
「ああ、なんとか。でも明日の悠仁君へのクリスマスプレゼント開封には立ち会わないって」
「そう。なんか完全には信じてくれてないのかもね。フォロー、ちゃんとしておきなさいよね。なんか私が悪者になっちゃうから」
「ああ、分かってる」
翌日、悠仁君へのクリスマスプレゼント開封に立ち会って、去年同様にものすごく喜んでくれて。やっぱりまひるにも見せたかったな、なんて思った。
「一ノ瀬先輩、今頃何をしてるのかな。昨晩言ってたことが本当なら悠仁君へのクリスマスプレゼント開封に立ち会ってるのかな。でもそれって香織先輩と一緒って事だよね」
よくよく考えたら同じ建物で住んでて何もない訳はない。一ノ瀬先輩はずっと私のことを見てくれてるみたいだけど、香織先輩はどうなんだろう。香織先輩が一ノ瀬先輩のことを好きって思ってたらどうしよう。私は香織先輩に勝てるのだろうか。お泊まりだってした。キスだってした。でも……。不安は消えない。
「一ノ瀬先輩!来ましたよ!悠仁君へのクリスマスプレゼント開封、もう終わっちゃってますよね?」
時刻は午前十時。プレゼント開封は終わって、一通り遊びに付き合ってからの遅めの朝食を取って居たところだった。
「ちょっと待ってて。もうすぐご飯食べ終わるから」
そう言って一ノ瀬先輩は家の中に消えていった。私は玄関でその帰りを待った。
「きーん‼変身!」
悠仁君が変身ベルトを見せにやってきた。プレゼントの話は本当だったらしい。少しの安堵と入り交じって昨日の不安と交差する。
「香織、今玄関にまひるちゃん来てるから出て行くなよ?」
「分かってるわよ」
僕は手早く朝の準備を終えて玄関にいるまひるちゃんを迎えに行った。
「お待たせ。じゃ。行こうか」
「はい!」
今日は二十五日の日曜日。クリスマスは今日の日没まで続く。第二弾のクリスマスデートの始まりだ。
今日はまひるちゃんのご要望のアウトレットパークへの買い物。クリスマスプレゼント交換はやったけどもセールをやってるらしいので行きたいと。
「年末年始の方がセールやってるんじゃないの?」
「年末年始は先輩と初詣です。買い物なんてしてる暇はないです」
「ああ、そっちに力を入れるのね。初詣ってどこに行くのか決めてるの?」
「へしみ稲荷です。あそこの神様、色々かなえてくれるんですよ」
「欲張りなお願いも叶えてくれるのかな?」
「先輩が欲張りであれば、じゃないですか?」
香織先輩とのなにかもお願いするのかな。いけない。今は一ノ瀬先輩とのデートを楽しむんだ。香織先輩のことは考えないんだ!
「うっわ、すごい人だな」
「今年のクリスマスは三連休でしたからねぇ。最終日もすごい人です」
「ところで買い物って何をするの?」
「洋服と靴と……あと。値段にもよりますが、一ノ瀬先輩へのクリスマスプレゼント第二弾もあるかも知れません」
「そんな無理しなくても……」
「私の自己満足なんですから。いいんです。もし何かあったら素直に受け取ってください!」
そう言って前を歩くまひるちゃんを見て、以前仮カレをやってるときも香織とここには来たな……。この靴もそのときに買ったんだよな……。とか思い出したりしてしまった。いけない。今はまひるちゃんとのデートだ。
「先輩、このお店。良いですか?」
「構わないけど、ここメンズだよ?」
「いいんです!クリスマスプレゼントは手袋でしたけど。マフラーがあって完成するんですよ?それにここのメーカー、そんなに高くないですし」
店内を見ると確かに安い。三千円位からある。好みを聞かれて素直に答えて買って貰う。女子高生にそんな二つもプレゼントを買って貰うのは気が引けたけども、まひるちゃんの嬉しい笑顔つきなら悪くないかも知れない。
「ふぅ。疲れましたね」
「休憩しようか。それにしてもまひるちゃん。そんなに買い物してお小遣い大丈夫なの?」
「今日のために貰って来たので大丈夫です。私そんなに衣装持ちじゃないので買っておいでって。先輩とのデート衣装レパートリーが増えました!」
そうか。そんなことを考えながら買っていたのか。だからいちいち僕の好みを聞いてきたんだな。
「お。向こうでクレープ売ってる。食べる?」
「はい!」
僕たちはクレープを頼んで食べた。僕はなんだか懐かしくて五百円のプレーンなやつを頼んだ。
「先輩。そんなので良いんですか?もっとゴージャスなやつにすれば良かったんじゃないですか?それともなんか節約生活中ですか?」
「ああ。僕はバイトしてないしね」
「大学生にもなって親からのお小遣いですか⁉いーなー。私、そろそろバイト始めようかとお思ってるんですよね」
「何やるの?」
「そうだ。一ノ瀬先輩のお花屋さん、バイト募集してないんですか?」
「うーん。そんなに忙しくないからなぁ。香織いるし」
「ですよね。じゃあ、定番のコンビニ店員さんとかですかねぇ」
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