第10話 クリスマスプレゼント
「先輩、そろそろクリスマスですけど、欲しいものは決まりましたか?」
「欲しいものかぁ」
そうだ。まひるちゃんに聞かれたままだったんだ。何にするかな。
「一ノ瀬先輩はまひるのこと、びっくりさせてくれるんですよね?」
「ハードル上げるなよ。そうだ。念のためだけど指のサイズ、聞いてもいい?」
「一ノ瀬先輩……それじゃサプライズになりませんよ……」
「だから念のためだって。他にも色々考えてるから」
本当はなにも考えていなかった。頭に浮かんだのは指輪をあげて喜んでいた凛ちゃんの笑顔。あんな笑顔をまひるちゃんからも貰えたらって思ったんだよね。
「なぁ、香織。女の子ってクリスマスプレゼントなにを貰ったらびっくりするんだ?」
僕の家での夕食中に香織に聞く。
「まひるちゃんへのクリスマスプレゼント?高校生なんだしあまり高価なものは避けた方が良いわよ。そうね。一万円以内、って感じじゃないかしら」
「それもそうだな。で、なにを貰ったらびっくりするんだ?」
「そうねぇ……」
香織からは、私が考えたら私からのプレゼントになっちゃうでしょ、と至極真っ当なことを言われてしまったので一人頭をひねる。
「指輪はサイズ聞いちゃったしなぁ。でもサイズ違ったら困るものだし。一緒に買いに行けば良かったのかな。あ、そうだ、ネックレスとかならサイズ関係ないな。あ、でも学校にネックレスは無いよなぁ……」
そう思ってネットで色々調べる。
「そうか。化粧品とかもあるのか。僕が絶対に買わなそうだしびっくりさせられるかな」
先輩へのクリスマスプレゼントかぁ。欲しいものは特になさそうだし、マフラーとか手袋は定番過ぎて先輩と被ったりしたらつまんないしなぁ。何にしようかな……。
クラスの友達にも聞いてみたけども、大学生の彼氏にあげるものなんだからそれなりの値段のものでもいいんじゃない?と言われて財布とか考えたけども。そんなに高いものをあげたら重い女って思われてもなぁ。ホント難しい。
クリスマスまであと二週間。今年のクリスマスは土日と最高の日程だ。イヴも一緒に居られる。今度は私の家にお泊まりなんていうのもありかなぁ。でも一ノ瀬先輩あんな感じだし、またダメって言われそう。だったら当日に無理矢理にでも。お母さんの了解を貰わないと。にしても私のお母さん、なんで一ノ瀬先輩のことそんなに信頼してるんだろ。町内会の懇親会で一ノ瀬先輩のご両親と仲良くなったって言ってたけども。まぁ、なんにしても両親の繋がりが出来るのは私にとって強い味方だ。
「彼女さんへのプレゼントですか?」
「あ、はい。でもどういうのを選んだら良いのか分からなくて」
僕は池所デパートの化粧品売り場に来ている。女子高生にプレゼントを探してるなんてお店の人に言えないけど、今さっき彼女さんへのプレゼントですか?って質問に「はい」って応えちゃったしな。どうしたものか。
「彼女さんは年上ですか?年下ですか?」
「あ、年下です」
「でしたらこちらのような商品が人気ですので……」
商売うまいなぁ。おかげでこっちは助かるけども。
僕はまひるちゃんへのクリスマスプレゼントを買ってから池所の街をブラブラすることにした。
「ここの食パン、美味しいんですよ」
「ここのパフェも美味しいんですよ」
そういえば、そんなこともあったな。食パン、帰りに買っていくか。それにしてもダメだなぁ。忘れるとかいって池所の街に来ると凛ちゃんの笑顔を思い出してしまう。今はまひるちゃんという彼女がいるのに。
「そうだな。思いだしついでにセンシャイン水族館も寄って帰るか。それでおしまい。来年のお墓参りまでは」
僕は一人分のチケットを買って水族館を回る。何もかも懐かしい。
「あれ?もしかしてまひるの彼氏さんですか?」
不意に声を掛けられて面食らってしまった。この子誰だろう。なんで僕のこと知ってるんだろう?
「あ、びっくりしまたよね。私、井上詩と申します。まひるといつも一緒に居てまして。彼氏の写真、見せて貰っていましたので、もしかしてって思いまして」
「ああ、そういうことか。びっくりしたよ。井上さんは?彼氏同伴?」
「彼氏、居たら良いんですけどねぇ……残念ながら一人です。今日も一人で水族館に来てます。そちらはまひるも一緒じゃないんですか?」
「ああ、今日は一人。まひるちゃんへのクリスマスプレゼントを買ってさ。なんか水族館行きたくなっちゃって来たんだ」
「え?クリスマスプレゼントですか?まひるいーなー。何を買われたんです?まひるには内緒にしておきますので」
「内緒だよ?ティオールのカラーリップ。といってもデパートの店員さんお勧め商品を買ったんだけどね。そうだ。同じ女子高生的にはそういうのってどうなのかな?あり?なし?」
「色次第だと思いますけど、学校に着けていっても違和感ない感じなら喜ぶと思いますよ」
「そっか。良かった。ありがとう。井上さんはこの後も一人水族館を堪能するの?折角だから一緒に回らない?」
「まひるの彼氏さんと一緒に回るなんて、まひるにバレたら怒られちゃいますよ」
「じゃあ、ちょっと聞いてみるね」
僕はメッセージで事情を説明したら「手を出したら分かってますよね?」と釘を刺されたものの親友だし大丈夫という回答が帰ってきた。
「大丈夫だって」
「そうですか。じゃあ一緒に。ところでなんて呼べば良いですか?まひるにはなんて呼ばれてるんですか?」
「一ノ瀬先輩、かな」
「じゃあ私もそれで。ところで、こんなところで話す内容じゃないかも知れないんですけど陽葵のこと、聞いてますよね?」
「ああ。まひるちゃんから聞いてる」
「あの子の図書館での友人って私の事なんですよね。だから例の事件、私にも責任があると思うんです。だから謝らせて下さい。本当に申し訳ありませんでした」
「いいよ、いいよ井上さんが謝らなくても」
そうか。図書館友達の話もしてたっけな。何にしてもあれはもう終わったことだ。陽葵ちゃんはもう僕と関わり合うことは無いだろう。
僕は井上さんと一緒に水族館を回ってから食パンが美味しいと凛ちゃんが言っていたお店の前で別れた。
「カカセか。スイートブレッドとレーズンブレッドか。こういうときはプレーンな方が美味しいと決まってる」
僕はスイートブレッドを買って家路についた。
「何この食パン。いつものと全然違う!」
「お。分かる?池所のカカセってところの食パン。有名なんだって」
「へぇ。ところで池所なんて何しに行ったの?」
「ああ、まひるちゃんへのクリスマスプレゼントを買いに。その後にセンシャイン水族館に行ってきた。でさ、そこでまひるちゃんの友達と会ってさ」
「まさか一緒に遊んだりした?」
「ちゃんとまひるちゃんの許可は取ったよ。親友って言ってたし」
「それで?まひるちゃんへのクリスマスプレゼントはなにを買ったの?」
「ティオールのカラーリップ」
「あ、良いかもねそういうの。ちゃんと学校に着けていけるような色にした?」
「当然。ピンク。一番プレーンなやつだって。店員さんに聞いた」
「ふぅーん。色くらい自分で決めなさいよ」
「だって流石に分かんないよそんなの」
いつもの朝。こうして香織さんと悠仁君と一緒に朝ご飯を食べる。この暮らしにも慣れて何の違和感も無い。最初はすごい違和感あったけども。すっかり家族みたいな感じなってしまった。
「まひるはさぁ、彼氏へのクリスマスプレゼント、もう決めたの?」
詩が聞いてくる。そういえば先週末にセンシャイン水族館で、一ノ瀬先輩と会ったって言ってたっけ。一ノ瀬先輩、池所でクリスマスプレゼントでも選んでたのかな。
「もしかして詩、私へのクリスマスプレゼント、何か聞いたりした?」
「えー、なんですっごいなんで分かったの?これが彼氏彼女のテレパシーってやつ?聞いたけど内緒って約束だよ。まひるもその方が楽しみでしょ」
「そうね。というより詩はなんでセンシャイン水族館に一人で行ってたのよ」
「なんとなく?ああいう静かなところってたまに行きたくなるのよねー。でも今回は二人で回ってちょっと楽しかった。一ノ瀬先輩、私も声かけちゃおうかなー」
「ちょっとやめてよー」
「大丈夫、大丈夫だって。そんなことしないから」
一ノ瀬先輩はもうクリスマスプレゼント買ったのかぁ。私はホント何にしようかな。
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