第7話 一夜の夢

「一ノ瀬先輩、おーそーいー!」

 家に帰ると僕部屋にはまひるちゃんが一人ゲームをやっていた。

「何やってるのまひるちゃん。もう二十二時だよ⁉」

「今日はお泊まりです」

「はい?」

「聞こえませんでしたか?今日はお泊まりです。一ノ瀬先輩の家にお泊まりです。大丈夫ですよ。ちゃんと許可は取ってありますから」

「許可って……」

 うちの親は何を考えてるんだ。女子高生だぞ⁉ 

「本当に許可取ってあるの?よく許してくれたね……」

「一ノ瀬先輩のご両親も在宅ならいいよって。で、一ノ瀬先輩のご両親にもお話ししたらいいですよって」

「マジか」

 これが両家公認の仲ってやつなのか。

「で?香織先輩とのお買い物。何を買ったんですか?」

「え?」

「お買い物に行ったんですよね?なんか香織先輩がクリスマス、誰かにプレゼントあげるとかで。それを選びに行ったんですよね?」

「ん?ああ。そうだけど。そう、買い物ね。万年筆を買った。なんか相手が小説家を目指してるとかなんとか言ってたから」

「小説家ですかぁ」

「まひるちゃんは小説とか読まないの?」

「読みますよ?こう言うのとか」

 見せられたのは小説投稿サイト。以前僕もアップしていたサイトだ。

「この一位の作品とか超面白くて。先輩も読んでみて下さいよ。面白いですから」

「ああ、そうだな」

 びっくりした。僕の作品を探して読んでるのかと思った。でもあの件があってからツブヤッキもやめたし、投稿小説もやってない。僕の小説を見つけるなんてあり得ない。

「それにしても、買い物だけでなんでこんなに遅くなったんですか?」

「ああ、デートコースの下見も兼ねてたらしくてな。ちょっと色々と」

「ふぅん。そうなんですか。で、いい感じのコースだったんですか?」

「まぁね」

「あ、ちょっとおトイレお借りしますね」

「おう」

 

 あの匂い。香織先輩の匂いだ。なんで先輩の上着から香織先輩の匂いが?一緒に歩いてただけだよね?そんなのであんなに匂いが付く?

 

「あースッキリした」 

「女子がそんなこと言わないの」

「先輩の前でだけですって。そんなことより、またこのゲーム。勝負しませんか?」

 この前コテンパンにされた格闘ゲームだ。あれから僕も練習したからいい勝負が出来るに違いない。

「はい。先輩の負けー。まだやります?時間はあることですし」

「もう十一時半だし、そろそろ寝ようか。お風呂は入ってるの?」

「はい、先に頂きました」

「え?ウチで入ったの?何時から来てたの?」

「夕食にお呼ばれしてたんで十九時頃からですね。だから待ちぼうけだったんですよ?」

「そりゃ悪かったな。それじゃ、僕はお風呂入ってくるから。先に寝ててもいいからね」

 

「一樹はさ、私の事、どう思ってるの?」かぁ……。

 今日香織に言われたこと。どう思ってるか。いつもは僕が香織に聞いていること。先に僕が聞いていたら香織はなんて答えてきたのかな。同じく雇い主と従業員の関係?それとも大学の腐れ縁?とにかく今の僕には、まひるちゃんという彼女がいるんだ。香織がどう思っていても僕には……。

 

「って、まひるちゃん?」

 まひるちゃんが僕のベッドに入って寝息を立てている。ご丁寧に端っこに寄って。半分僕のためにスペースを空けているのか。ってかマズいっしょ。一緒の布団なんて。ってか、布団。僕の布団はどこなの。仕方ない。リビングのソファで寝るか……。

 僕は毛布を出してきてリビングのソファに横になった。今日の香織はまるで僕の彼女みたいだったな。そんなことを考えていたらいつの間にか僕も眠りに落ちていた。

 

「…ぱい。先輩。一ノ瀬先輩」

 名前を呼ばれて起きた。なんだもう朝か?いや夜だ。

「あ、やっと起きてくれた。一ノ瀬先輩、なんで来てくれなかったんですか?」

「なんでって、マズいでしょ。一緒に同じ布団なんて」

「私が良いって言っても?」

「ダメでしょ」

「じゃあ、こうしましょ?」

 まひるちゃんが僕の上に乗ってきた。

「なに、なにをする気⁉」

「一ノ瀬先輩がその気にならないならぁ、こうしちゃうんですから……」

 まひるちゃんの上半身がゆっくりと倒れ込んできた。そして僕の頬に右手を添えて顔が近づいてくる。

「え、ちょ!まひるちゃん?」

 引き剥がそうとしたけど、まひるちゃんの方が早かった。


「ん……」

 

「ぷは、まひる……」

 

 二度目。今度は両手で頬を押さえつけられて。まひるちゃんの舌が僕の口の中に入ってくる。抗えないその感触に僕もそれに応える。

「先輩……一ノ瀬先輩……好き……」

 そう言ってまひるちゃんはキスの雨を僕に降らせた。

「一ノ瀬先輩……?まひるはいいんですよ?先輩も無理しなくても」

 まひるちゃんが跨がったそこには僕の……。

「いや、それはマズいって」

「だって。一ノ瀬先輩のこれ……」

 まひるちゃんの右手が僕の頬を離れて指先が胸をつたう。そのまま下に下がっていって……。「まひるちゃん、それ以上は、その!」

 僕はまひるちゃんの両肩を掴んで起き上がった。

「ひゃっ!」

 まひるちゃんのところに僕が触れた様だ。いっそこのまま押し倒してしまいたい。そんな衝動に駆られながらも理性を取り戻す。

「まひるちゃん、こういうことはもうちょっとしてからね?ね?」

「分かりました……」

 はぁーーーーー。分かってくれたか。と、立ち上がったまひるちゃんは下を履いていなかった。だぁぁぁぁ‼見てない見てない僕は見ていない。僕は毛布をまひるちゃんに投げかけて隠すようにジェスチャーした。渋々といった感じでそれに従ってくれたから良かったものの。今のは危なかった。まひるちゃんを僕の部屋に押しやってドアを背に腰を下ろした。

「まひるちゃん、焦りすぎだって」

 

 僕は再びまひるちゃんがやってくるんじゃ無いかと思って深夜のつまらないテレビ番組を見て夜を明かした。

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