第5話 彼氏と彼女
凛先輩の誕生日。先輩はだから今日だけはって言ってたんだ。私も凛先輩にご挨拶って来たんだけど、一ノ瀬先輩も香織先輩も後藤先輩も来てるし。なんだか顔を出しづらくてお堂の影でそれを見ていた。
そして先輩達が帰ったのを見届けてから、凛先輩のお墓に行って報告をした。
「凛先輩、一ノ瀬先輩は私が責任を持って貰います!きちんと実力で臨むので恨みっこなしです!」
きっと凛先輩ならやれるものならやってみなさい、って言ってくるんだろうな。負けないから。私。
「ところで指定校推薦枠の話、どうなったの?確か十一月くらいって言ってなかったっけ?」
「ふふーん」
そう言って私はVサインをして見せた。
「おお。おめでとう。これで来年は晴れて本物の後輩になるわけだな」
「一ノ瀬先輩は就職とかどうするんですか?」
完全に忘れてた。色々な事がありすぎて。小説家になりたいなんて思ってたこともあったけど、陽葵ちゃんの一件があってから全く書いてない。というよりは書くのが怖い。これは実家のマンション経営が現実的なところかな。
「実家を継ぐことになると思うよ」
「それって香織先輩と一緒に働くって事ですか?」
卒業後もウチで働くと香織からはそう言われている。そのまま伝えるか迷うところだ。
「さあ、どうだろうな。香織がどうするかによるんじゃないのかな」
「そうですよね。流石に」
なんだかんだ言って僕はまひるちゃんと一緒に居る時間が多くなってきた。指定校推薦枠を取ってから受験勉強も無くなって、更に僕との時間が取りやすくなったようだ。
「先輩。一ノ瀬先輩」
如月公園のベンチで話をしている時にまひるちゃんは改まって僕の方に向き直ってこう宣言した。
「私、やっぱり一ノ瀬先輩の彼女になりたいです。こうやって会ってくれたりするのはとても嬉しいですけど、やっぱりちゃんとした彼女になりたいです」
そうだな。ここは僕もきちんと答えるべきだろう。
「いいよ」
「え?」
「だから。いいよって。付き合っても」
「本当ですか⁉嘘じゃないですよね?からかったりしてないですよね⁉」
「そんなこと言わないよ。本当だって。僕の負けかな。正直」
そう。根比べ。彼女の押しに僕がどこまで耐えられるか。僕の彼女になる人は、どうしてこんなに押しが強い人ばかりなのか。たまには僕の方から告白もしてみたいけどな。まぁ、それは贅沢というものか。
「ありがとうございます‼一生懸命頑張ります‼」
「彼女で頑張るってなにをさ」
僕が軽く笑うと、まひるちゃんも笑い始めた。一年経ったし、良いよね?凛ちゃん。
「それにしても彼女かぁ。彼氏って何をするんだっけな。忘れちゃったよ」
「何もしなくていいです。こうやって私のこと、見てくれていれば」
そう。私の事だけを見ていて欲しい。香織先輩のことは物理的に見ないことは出来ないけど、心と心で見つめ合わないで欲しい。私はそう願った。一ノ瀬先輩は私色に染めてあげるんだから!
「付き合うことになった」
「それが今日の報告?」
「そんな感じかな」
食後に悠仁君も一緒にゲームタイム。
「じゃあ、私たちもこうして遊ぶのもやめた方がいいんじゃないかしら」
「かもなぁ。悠仁君はどうするの?」
「どうしても遊びたかったら悠仁だけ置いていくわよ。だからそのときはよろしくね」
「ああ。で?なんか感想は無いのか?」
「またそれ?私の感想なんて聞いてどうするのよ」
「まぁ、一応?こういう関係だし。ちょっと気になったというか。あ、一般的な感想だよ?」
「んー、そうねぇ。一樹、押しに弱いなぁって思ったかな。仮に私が横から押し込んできたらどうするわけ?」
「やるのか?」
「仮にの話よ。馬鹿ね」
「それは大丈夫じゃ無いかな。そもそも二股かける勇気も器用さもないよ」
「そうね一樹、単細胞だから」
「そこまで言うかよ普通。まぁ、なんだ。これからもよろしくな」
「なにを?」
「お店の手伝い」
「あ、ああ。そっちね。分かってるわよ。でもまひるちゃんにはちゃんと説明しておくのよ?あくまでお店の従業員だって」
「分かってるよ」
そう。私はお店の従業員。それ以上でも以下でも無い。一樹が誰と付き合おうと私には関係の無いこと。むしろ邪魔になる存在。
「場合によっては就職先、変えた方が良いのかも知れないわね」
一樹の家を出て自宅に戻りながらそんなことを考えた。
「おねーちゃん、今日は一樹にーちゃんと遊ばないの?」
「ちょっと用事があってね。悠仁はそのまま遊んでていいから。一樹、悠仁頼むわね」
「ああ」
あれから香織は夕飯の後に僕の部屋で遊ぶことはぱったりと無くなった。まひるちゃんには僕の家のマンションに香織が住んでることはちゃんと説明した。理由を色々と聞かれたけどもたまたまだ、と押し切った。
そして、僕はまひるちゃんのご両親にもきちんと挨拶をしに行った。女子高生に大学生。しかも四歳も年上の彼氏なんだ。きちんとご挨拶するのが筋だろう。心配もするだろうし。幸いにして僕の両親と町内会同士の懇親会で話す機会があったらしくて、あそこの息子さんなら安心して任せられる、なんて言われて少し安心した。
「はぁ、疲れた」
「なんでですか。お墨付きですよ?」
「女子高生の両親に挨拶なんて緊張しないやつがいるかよ。ウチの娘に何するんだ‼とか言われたらどうしようかと思ったよ……」
「ウチのお父さんはそんなひとじゃないですよ。だってお母さんと十歳も年離れてますし。先輩に当てはめたら大学生が小学生に手を出したのと同じですよ?」
「いや。社会人になってからなら分かるけどさ。ってか十歳差ってすごいな」
「でしょ⁉しかもお母さんの方から押したんだって」
「娘は親に似るって本当なんだな……」
「なにそれ、ひどいです。でもそうですね!グイグイ押しちゃいました。結果オーライですけどね!」
かくして、僕らは両親公認の仲になった。僕の両親は、僕に騙されてないか?とか失礼な事を言っていたけども。
「一ノ瀬先輩。クリスマスって何か欲しいものありますか?」
「なんだ?まだ十一月だぞ?」
そう言って周りを見回すと既にイルミネーションがバッチリ点灯している。最近どんどん早くなってないか。
「そうだなぁ。でもそう言うのってびっくりさせるような感じなんじゃ無いの?」
「じゃあ、一ノ瀬先輩は私をびっくりさせて下さい。私は先輩の欲しいものを用意します」
「欲しいものなぁ……」
なんだろ。物理的に欲しいもの?スマホが古くなったから年末のセールがあれば買い替えたいとか思ってたけどもクリスマスプレゼントにスマホってどうなのよ……高いし。じゃあ、手編みのマフラーとか?いや、自分から言うの恥ずかしいでしょ。
「僕はまひるちゃんが居ればそれで良いよ」
「え?プレゼントは私、って事ですか?ちょっとそれは流石に早いというか何というか……心の準備というか何というか……」
「え⁉違うよ!違うからね⁉」
「分かってますよ。でも一ノ瀬先輩はそういうこと考えたりしないんですか?」
だって女子高生だよ?犯罪だよ?
「いや、僕だってその……でもなんだ。まひるちゃん、まだ高校生だろ?そういうのは……」
「じゃあ、大学生になったらいいんですか?」
「大学生になったら……って!これ誘導尋問だろ‼」
「へへ。バレました?でも大学生になっても一緒にいれたらいいですね‼」
「一緒にいれたらってあと数ヶ月だろ?心配しなくても一緒に居るって」
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