第3話 突然の来客

「一樹ー……」 

 まひるちゃんのことだろうな。慰めてやるか。

「ダメだったのか?」

「なんか合わないから、やっぱり別れましょうって言われた」

 そうか。一応のけじめはちゃんとつけたんだな。

「後藤はそれで納得したのか?」

「してない」

 してないのかよ。まだまひるちゃんの事を追いかけるのか?

「後藤……ストーカーだけはやめろよ……」

 スタートラインか。でも女子高生と大学生なんて接点がないぞ。と、思っていたら。

「あ!一樹先輩‼」

「あ。来た来た。一樹今回はお花屋さんでの待ち合わせとかそういう設定なの?」

「香織、実はさ」

「一樹せーんぱい」

 いきなり、まひるちゃんが僕の腕に絡んでくる。

「そういうのはお店の前でやられるのはちょっと困るかな」

「なんでですかー。いいじゃないですか。私は一樹先輩が大好きなんです。これくらい普通です!」

 香織さんが怪訝な顔をしている。

「なに?なんか設定変わった?」

 香織さんにそう言われて私はどうするか迷ったけどもここははっきりと。

「お芝居はもうお仕舞いです‼今日は香織先輩にお願いに来ました。一樹先輩、私に下さい!」

「下さいって……この前も言ったけど、私と一樹は何もないわよ?一樹がどう思ってるのかは知らないけど」

「どうなんですか?一樹先輩?」

「あ、いや。香織は腐れ縁というかそういう?」

 なんとも歯切れの悪い答えをしてしまった。でも考えてみると実際そんな感じだし。

「ふーん」

 まひるちゃんは僕の顔を覗き込んで来た。

「いいんじゃない?付き合ってみれば。仮とはいえ結構一緒にいたんでしょ?そのままの延長線上で付き合っちゃえば」

「そうですよ。香織先輩の言うとおりです。このままお付き合いするのがいいと思います」

 なんか外堀を埋められた様な感じがする。

「いや。後藤にも悪いし。いきなりお付き合いというのはちょっと」

「じゃあ、また仮、から始めましょうよ」

 この前は出会ったことから始めましょうって言ってたのに、一気に仮カレかよ。

 

「後藤」

「何だ一樹。今日も慰めてくれるのか?それはそうとまひるちゃんの連絡先、教えてくれ」

「え?知ってるんじゃないのか?」

「まだ聞いてないぞ」

「夜に電話したりメッセージでやりとりしたりしてたんじゃないのか?」

 そう聞いていたが。

「そんなのまださきのはなしだったんだよ。で、連絡先を……」

「勝手に教えるわけにはいかないだろ。自分で聞けよ」

「いつ?どうやって?校門の前で待ち伏せとかストーカーみたいじゃん。あ、そうだ。この前の海に行ったみたいに、みんなで遊びに行こうぜ!」

 ああ。後藤になんて言えばいいんだ。それにしてもまひるちゃん、本当に後藤のことはなにも思ってなかったんだな……。不憫なやつよ……。でも、ま。交流の場くらいは作ってやるか。

 

「……って言うわけ」

「グループデートですか」

「デートって言うかみんなで遊びに行くって感じで」

 僕はメッセージでまひるちゃんに連絡した。返事はノー。後藤よ……すまん。

「でも先輩と香織先輩の三人ならいいですよ」

 ますますもって後藤が不憫でならない。

「なぁ、後藤はそんなにダメなのか?」

「なんかいやらしいんですよ。後藤先輩。だからなんかちょっと苦手で……」

 あいつ……。これは自業自得というわけか。

「そんなことより仮カレという設定なんですから私とデートに行きましょう」

「あの仮カレって話、まだ了承してないぞ」

「香織先輩はいいって言ってたじゃないですか」

「なんでここで香織が出て来るんだよ」

「だって。一樹先輩、何かあると香織先輩にお伺い立てるじゃないですか」

「別にそういうわけじゃないけど。なんて言うか一応報告。みたいな?」

 多分。というより確実に一樹先輩は香織先輩のことが好き、というより気になっている、が正しいかな。ここは一気に押さないと。

「だったら報告して了解を貰ったら良いんですか?デート。今から聞いてみますね」

 しばしの沈黙。僕はスマホを置いてお風呂に入った。出て来て髪を乾かしてる時に来客のインターホンが鳴った。こんな時間に来客なんて香織しかいない。

「はいはい。今出ますよ」

 僕はタオルを首に掛けて玄関に向かって開けながら「なんだ香織こんな時間に」と言ったら目の前にいたのはまひるちゃん。

「一樹先輩、香織先輩と本当に何もないんですか?こんな時間にそんな格好で出て来るなんて」

「あ、いや。弟の悠仁君が遊びに来ることが多くてさ」

「こんな時間にですか?」

 時間は夜二十時。確かにこんな時間に小学生が一人で遊びに来るなんてことは無い。

「ま、まぁ何だ。こんな時間だし家に送って……」

「お邪魔します」

「え⁉」

 まひるちゃんが僕の横をすり抜けて玄関に入ってしまった。幸いにして今晩は町内会の懇親会で両親はいないが……。居たら制服の女子高生がこんな時間に家に来るなんて何をしてるのか‼って言われただろうな。なんてそんなことを考えてる場合じゃ‼

「ちょ、ちょっとまひるちゃん!」

「ご両親は外出ですか?」

 リビングを除きながらそんなことをサラッと言っている。

「先輩の部屋ってここですか?お邪魔します」

「だから待って‼まひるちゃん!」

 僕は頭を抱えてしまった。どうするんだよこれ……。なんとか言って家に帰って貰わないと。

「まひるちゃん。おうちの人はこんな時間に居なくなっても大丈夫なの?」

「大丈夫です。私、今塾に行ってることになってますから。二十一時までは大丈夫です」

「あ、いや、こっちが大丈夫じゃないというか」

「あれ?先輩ゲーム好きなんですか?」

 部屋に散らかったゲームソフト。昨日悠仁君と遊んだものだ。

「じゃあ、そのゲーム一戦やったら帰る。それでいい?」

「分かりました。でも私が負けるまで居ますからね」

 いつもやってるゲームだ。初戦でキメてみせる!

「はい。先輩の負けです」

 ぐおぉ……。まひるちゃんめちゃくちゃ強い。これ二十一時まで続けるのかよ!町内会の会合も二十一時までだったよな。マズい。マズいぞ……!

 

 ピンポーン

 

「先輩。お客さんです。出なくても良いんですか?」

 ああ‼手遅れか‼なんて言えば良いんだ?こんな時間に制服の女子高生が僕の部屋にいるなんて!

 ガチャガチャ。

「お邪魔するわね」

 え?

「一樹にーちゃん‼今日こそ負けないからね‼」

「あ、ああ」

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