年下のカノジョ編

第1話 年上の彼氏

「申し訳ありませんでした」

「いや、なんで藤堂さんが謝るの。アレは僕のしたことが原因で……」

「いえ、私がもっと声を掛けてあげていればこんなことには……あの子、私の幼馴染みなんです。でも高校二年に入ってから人が変わったように話しかけてくれなくて……。それでこっちも話しかけにくくなってどんどん疎遠になっていっちゃって……だから私の所為なんです。ほんとうに申し訳ありませんでした」

 わざわざ菓子折まで持ってきて僕に謝ってくる藤堂さん。気圧されて菓子折を受け取ったけども、藤堂さんはなにも悪いことをしていないよ、と繰り返し伝えた。反対に僕はまた自分の所為で人の人生を狂わせたのかと自責の念に囚われていた。

 

「それにしても一樹は色々な事に巻き込まれるな本当に」

「人脈が広いと言ってくれ」

「殺されそうになったんだぞ。そんなこと言ってる場合かよ」

「まぁ、そんな風にでも考えないとやってられん」

「そうなぁ……。でもあんなことがあってから、藤堂さんとはどうなんだよ。なんだかんだ言ってお前の周りには女の子が集まるからな。また変なことに巻き込まれるなよ?」

 そう。藤堂さんはあれから不安定な状況が続いていたので、僕がフォローしていた。今日も学校帰りに待ち合わせだ。

 

「最近は落ち着いた?」

「はい。大丈夫です。一ノ瀬さんも大丈夫ですか?それと、ちょっとお願いがあるんですけど良いですか?」

「ん?なんだい?」

「彼氏役、やってくれませんか?」

「え?」

「私、舞台女優を目指してるんですけど、今度のお芝居、年上の彼氏がいる役柄なんです。でも私、彼氏なんていたことがないので……」

 僕は正直迷った。この前、桜さんの仮カレをやってあんなことがあったばかりだ。ちょっと思い出しちゃうというか。

「ダメ……ですよね」

「そんなことない」

 また出てしまった。人助け。こんな時なのに。

 

「で?受けちゃったの?その話」

「うん。まぁ。困ってたみたいだし……」

「ホントなんでも受けるのね。私も何かお願い事出してみようかしら」

「出来ることならやるよ?」

 香織さんは何かあったときは頼むわ、といって自分の家に悠仁君と一緒に帰って行った。

「情けは人のためならず、かぁ」

 

「その彼氏役ってなにをすれば良いの?」

「台本通りにやりたいんですけど……こんな感じです。見せられたのはリスト形式にまとめられたノート」

 思わず凛ちゃんのやりたいことリストを思い出してしまった。

「どうかしたんですか?」

「あ、いや、なんでもない」

「じゃあ、始めようか」

 台本の内容は出会ってから最終的にはハッピーエンド。

「まずは出会いの部分からだね」

「それはもうこうやって出会ってますから大丈夫です」

「そうか。じゃあ、次のこの遊びに行くってやつか」

「そうですね。どこか行きたいところありますか?」

「そうだな。演劇を見たことがないから見てみたいかな」

 

「意外と疲れる」

「女子高生の流行について行けないとかそういうのですか?」

 大学の講義が終わって駅からの帰り道。後ろから藤堂さんに話しかけられた。

「もしかして彼女さんですか?」

「いえ違います」

 香織さんが一瞬で答える。そんなに否定されるとちょっとへこむ。

「やぁ、藤堂さん」

「違います。今はまひるって言ってくれないとダメです」

「ああ、そうだったな、まひる」

「なに?役柄の設定?」

「そう。一応名前で呼び合う仲に進展した、というところまで進んでるんです。ね?一樹」

「一樹、ねぇ……女子高生にそんな風に呼ばれるのってどうなの?どんな感じ?」

 香織がさっきのキッパリした感じとは違って食いついてくる。

「そうだなぁ。やっぱり少し照れるかな。そもそも一樹、なんて呼んでくるのは後藤くらいだし」

 香織さんの顔がにやける。これは何かやってくるぞ……。

「じゃあ、私も一樹。って呼ぶわね、これから。だから一樹も私の事、香織って呼んでね?」

「え?」

「練習練習。私で恥ずかしがってたら、まひるちゃんのこと呼び捨てになってできないでしょ」

「まぁ……」

「じゃ、呼んでみて」

「香織」

「なに?なんか用事?」

「お前が呼んでみろって……」

「あ、お前だって。香織、でしょ?」

 藤堂さん、もとい、まひるがクスクス笑っている。

「お二人、本当に何の関係もないんですか?」

「ないわ」

 香織さんがまたしてもキッパリした感じで答える。

「じゃあ、香織さん、引き続き一樹を借りますね?」

「うん。いいわよ。いくらでも引っ張り回して」

「じゃ、早速借りますね!」

 借りて行かれる僕。って言うか、貸し借りってまるで僕が香織さんのものみたいじゃないか。

 

「でも本当に良いんですか?香織さん」

「なんで?」

「さっき貸してあげるって言ってたじゃないですか。あれってやっぱり一樹のこと取られたくないんじゃないかと思って」

「香織さんがかぁ?それはないと思うぞ?」

「香織、なんじゃないんですか」

「あ、ああ、そういえば。もう呼び慣れちゃってるからなぁ」

「今日はここに行きます」

 

 しかし、役柄にしてもこんなに沢山の事ってあるのかなぁ……。最近なんかプライベートな感じのことが多い気がする。

「そういえば、講義が終わったら最近もすぐにいなくなるけど、まひるちゃんの彼氏役、まだ続いてるの?」

 香織さんが聞いてくる

「まだ。今度は越川神社に行くらしい」

「何それ、たのしそう。私もいっしょにいっていいかな?」

「聞いてみるよ」

 

「え?香織さんも一緒にですか?」

「そう。でもまひるの邪魔になるならそう言うから」

「うーん……」

 しばし考え込むまひるちゃん。

「別にいいですけど。一樹からのお願いなら」

 最近は下の名を呼び捨てにするのにも慣れてきた。香織さんを呼び捨てにするのにはまだ慣れないけど。

 

 今年ももう夏が迫っている。前期のテストがあるから彼氏役はちょっとお休みを貰って、八月。夏期休暇が今年もやってきた。

「今年も夏が来たな」

「後藤はなにを期待しているんだ?」

「海とか⁉まひるちゃんのお友達とか?」

「何言ってんだ。高校三年生の夏期休暇だぞ。受験勉強の真っ最中になるぞ」

「だってお前はまひるちゃんの彼氏役、まだ続けてるんだろ?」

「そうだけどさ……確か海に行くような設定があったから行くと思うから、友達誘う設定なら呼ぶから」

 後藤はすっかり女子高生との海‼とか舞い上がってるけど設定はどうなってたかな

 

「そういえば、お芝居っていつなの?」

「十一月の文化祭……です!」

 どうも煮え切らない。そもそも十一月の文化祭で舞台があるなら練習はいつからなんだ?台本があんな先に出来上がってて練習もまだ開始されていないのか?それに舞台女優なんて行ってたから劇団かなにかかと思ってたけども……。

 

「一樹は越川神社がなんの神様か知ってる?」

「香織は知ってるのか?」

「やっぱりこの呼び方ムズムズするわね……」

「やめるか?」

「やめない。あと越川神社の神様は縁結びね」

「そうなのか。それじゃ僕とまひるの縁結びってことになるのか。あ、でも香織も来るんだっけ?二股縁結びとかありなのかな」

「馬鹿ね。そんなのないわよ。多分。というよりあなたがどちらにお願いするかじゃないの?」

「香織、お願いして欲しいか?」

「お願います」

 完全にからかいに来てる顔だ。

「この‼」

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