第9話 自問自答

「ここは……」

 見覚えのある景色だ。視点はちょっと違うけど。

「病院?」

 僕は何故か病院のベッドに寝転がっていた。

「いっつつ……」

 脇腹に痛みが走る。なんだ?状況が飲み込めない。とりあえず僕はナースコールのボタンを押した。駆けつけた看護師の人から事の経緯を聞く。

「刺された?」

「はい。幸いにして失血は多かったものの致命傷は避けられましたので、こうして……」

「失礼。一ノ瀬一樹さん、ですね?私こういうものです」

 見せられたのは警察手帳。

「詳しい話は私から。一ノ瀬さん。あなた刺されたんですよ」

「誰にですか?」

「それをお聞きしに参りました。見ていないのですか?犯人の顔とか」

「はい。連続して脇腹に衝撃が走ったあとすぐに倒れてしまいまして。誰か何かを持って立っているのは見えたんですが……」

「そうですか。誰か心当たりのある人は居ますか?」

 あのときのことを思い出す。「嘘つき」あの声は……。桜さん⁉

「あ、あの。確証は全くないのですが、知り合いの女子高生の声が聞こえた気がします」

「何という方ですか?」

「桜陽葵さん、という子です」

「そうですか……」

 もう一人いた刑事らしき人に目線を送るとその人は病室を出て行った。そのあと、刺されるような事情に思い当たることは無いか?とか色々聞かれたけども質問自体が信じられないものばかりだった。要するに僕が桜さんに刺されたということらしい。そしてその桜さんを警察が捜していると。

 

「ちょっと。本当に大丈夫なの?」

「大丈夫に見えるか?」

「見えないわね。でも本当に死ななくて良かったわね」

「軽く言うなぁ。もっと心配してくれても良いじゃないか」

 病室には香織さんと後藤が来ていた。香織さんはいつもの調子で話しかけてくるが後藤はオロオロしていてなんだか可笑しかった。

「で?なんか聞くところによると陽葵ちゃんに刺されたんだって?あなた何したのよ」

「それが何もしてないんだよ」

「もしかしたら私が書いてって言った小説が原因かも知れない。もしそうならごめんなさい」

「いや。まだそうと決まったわけじゃないから……」

「でも、でも……私……」

「あ、や。」

 さっきまであんなことを言ってた香織さんが泣き始めてしまった。後藤はまだオロオロしている。

 そこに刑事の人がやってきて桜さんを見失っていると教えてくれた。そしてすぐに僕を刺した凶器だけが見つかったことだった。それで何か心当たりはあるのか再び聞きに来た、ということだった。

「この辺のやりとりで何かわかりますか……」

 僕は今までの桜さんとの出会いややりとり、ツブヤッキのダイレクトメールの内容を刑事さんに話した。

「逆恨み、ですかな。被害妄想をしていたとして、そのイジメの主犯格と決めつけた相手と一緒に話していた。その腹いせに……とそんな感じですかな」

 あの桜さんが。そんな……。


 その後、彼女は失踪し行方がわからないとのことだった。

 

 一体どうすれば良かったのだろうか。自問自答を繰り返すけど答えは見つからない。

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