第6話 予行練習

 そして週末。なんて言えば良いんだ?時間ある?ってなにか話題をこっちが持っていることになる。女子高生に振る話題って何だ?流行とか全く知らんぞ。

「あの……」

 急いで現代女子高生の流行についてスマホで検索していて桜さんの声に気がつかなかった。

「すみません……」

「ん?ああ!ごめん!桜さん。気がつかなくて。今日は時間、ありがとう」

 だー!なにを話せば良いんだ!考えろ!考えろ!そして出て来た言葉は……。

「予行練習、しようか」

 僕はお友達の予行練習のつもりで言ったんだけど、桜さんの顔が真っ赤になっているのを見て「デートの予行練習」と伝わったのだと分かった。今から「友達の予行練習」と言い直したら桜さんに恥をかかせる事になるし。このままデートの予行練習でいいか。人助け、人助け……。にしても女子高生ってどこに行くんだぁっ‼

「桜さんはどこか行きたいところ、ある?」

 フリフリフリ。ですよねー。桜さんから積極的な答えを引き出すのは無理。分かってた。

「じゃあ、僕が行きたかったところでいいかな」

 首を縦に振る桜さん。

「大学のある駅向こうにさ。美味しいって話のパンケーキ屋さんがあってさ。男だけで行くのもアレだし行ってみたかったんだよね。パンケーキとか好き?」

 首を縦に振る桜さん。なかなか声が聞けないな。

「ここなんだけどね。あ、休日だし結構混んでるなぁ」

 ここに来るまでの二駅、さっき急いで検索した女子高生の流行らしきことについて話しかけたけども、なんだかイエス・ノーゲームのようになってしまった。

「桜さんはさ、男の人が怖いの?友達が怖いの?」

 ちょっと核心部分にいきなり触るのはアレかなって思ったけども、ここを触らないと話が進まない。

「両方……です……」

「そうかぁ。男の人が怖いのは、話したことがないからかな?」

 首を縦に振る桜さん。しばらくはこのイエス・ノーゲーム形式で話を進めよう。

「じゃあ、僕とこうやってお話するのもちょっと怖い?」

 フリフリフリ。あれ?怖くないんだ。

「この前、お話ししたからかな?」

「香織さん……の、お友達……だから」

 小さな声だけど桜さんの声が聞けた。なるほど。そういうことか。

「じゃあ、友達としての僕も怖くないね」

 首を縦に振る桜さん。良かった。嫌われてる訳じゃなさそうだ。

 重ねられて出て来たフワフワパンケーキ。これはツブヤッキに投稿すべきものだ。写真を撮っていたら、桜さんも真似をして撮影会。ツブヤッキに投稿したのかすぐに後藤から通知が来た。

「なんでお前が『ヘラルド』さんとデートしてるんだよ‼」

 ホントこいつはそう言うのに気が付くのが早いな。

「『おりりん』の差し金だ」そう返信しようとしてストップ‼このデートの予行練習は僕から誘ったもので香織さんが誘ったなんて伝わったらマズい。無難に「人間性の差だな」と返信しておいた。それを見たらしい桜さんが少しだけ笑ったように見えたけど一瞬だった。

 その日はパンケーキ屋に行って如月公園に行って小説のこととか話して。十六時頃には解散した。

 

「で?どうだったの?」

「正直、息が詰まるかと思った……」

「やっぱりそうかぁ……あの人見知り、相当だもんね。荒療治とは思ったんだけどダメでしたか」

「そういうことなら最初から行ってくれよ香織さん。あと。なんかデートの予行練習みたいな感じになっちゃって桜さんに迷惑かかっちゃったぞ」

「それはないと思うけど?デートの練習がしたいって言ってたの?」

「いや、なんて言って良いか分からずにお友達の予行練習のつもりで言ったんだけども、デートの予行練習だと勘違いしてたみたい」

「ふむ……。それじゃ予行練習じゃなくて本番もないと。練習なんだから」

「まぁそうかも知れないけど。僕にその気がなかったらただの冷やかしみたいになるじゃないか」

「陽葵ちゃんは恋愛対象外なの?」

「まだ高校生だろ?そういうのはマズいというか何というか」

 なんだか禁断の空気が漂うよな。高校生と大学生。歳はそんなに変わらないのに。どうせ歳は関係ないって香織さんは言ってるんだろうけど。そもそも友達の予行練習なら香織さんが行ってこれば良かったんだよ。そのことを香織さんに言ってみたけども「男子と話をする方がハードルが高いから練習なんでしょ」と言われてしまった。

 ツブヤッキには今日のことについて桜さん、『ヘラルド』さんはまだ何も書き込んでない。話のきっかけになればとパンケーキの話題を後藤に振ってみたけども混ざってくることもなく。

 

「はぁ……緊張した。でも男の人とあんな風に喋ったのは初めてかも知れないな……」

 そんな風に部屋で呟いたけども、実際はあまり会話せずに頷いたり首を横に振ったりする回数の方が多かった気がする。私はやっぱり変われないのかな……。でも一ノ瀬さん『イッキ』さんは怖くなかった。友達とは喧嘩をすることもあるって言ってたし、彼氏との待ち合わせに間に合わなかったって言ってた人にに謝ってみようと思った。しかし、それが全ての始まりだった。

 謝って最初は「いいからいいから」と言われたので許してくれて良かったと思った。でも次の日から私の周りの空気が変わった。誰も話しかけてこないのはいつものこと。でも、まるでクラスの中で私の存在が消された様な感覚。誰にも私の声は届かない。発言してもかき消される。日直になった日だって相手の人が率先して仕事をこなしてしまって、私のやることは何もなくなった。体育の授業は苦痛だった。二人ペアのストレッチ。誰が私と一緒にやるのか目線で押しつけ合っているのが分かる。そして私は図書館に閉じこもる時間が増えた。昼休みも放課後も。とにかく独りにならないと、と感じてしまった。誰か助けて……そう思ったけども図書館友達だった井上さんはもう図書館に来ない。私の居場所はツブヤッキの中だけになってしまった。

 翌日私はいつものように投稿したら下履きが無くなっていた。いつかは来るかと思っていたことだ。冷静に。と考えて購買に靴下のまま上履きを買い行く。教室に入ると視線を感じたけども、そっちの方を見ることは出来なかった。多分藤堂さんだろう。

 私は『イッキ』さんに助けを求めた。『おりりん』さんの方が女性だし的確な意見をくれるかと思ったけど、『イッキ』さんの方が解決策をくれると思って藁をも掴む思いでダイレクトメールを送った。

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