第5話 相談
「こんにちは」
「は、はい……こんにち……は」
実際に会えば、と思ったけども、リアルの私はこんな調子だ。
「大丈夫よ。私は」
「あの……!うう……」
「何かお話があるんでしょ?聞くわよ」
『おりりん』さんは優しくそう言ってくれた。
「『おりりん』さんは……その……」
「香織でいいわよ。もうこの前に実名で自己紹介したでしょ、陽葵ちゃん」
「じゃあ、香織……さん、で。あの!香織さん……は、どうやってそんなに誰とでも話せるんですか?お花屋さんの……店員さんもやってるって……」
「誰とでもないわよ。大学で話をするのなんてあの二人くらいだし。あとお花屋さんに来る人はみんな優しいから」
「そう……なんですか。私、勇気を出して友達……!作ったんです。でも。その子すぐにどこかに行っちゃって……」
「陽葵ちゃんがまた独りになっちゃったってわけね」
「はい……」
「こういうとき、励ます人は無責任だと私は思うから、正直に言うわね。陽葵ちゃん、お友達の事考えたことある?つまりは相手のこと。自分の立場ばかり考えてるとお友達も離れて行っちゃうものよ」
「相手の……こと……」
そうだ。私は常に自分のことを考えていた。嫌われるかもという気持ちだけで動いていた。
「そうね。例えば陽葵ちゃんにとって私ってどんな存在?」
「とても……頼れる感じが……します」
「んーっと、ちょっと言い方を変えようか」
「陽葵ちゃんにとって私は何?お友達?ただのツブヤッキの繋がりだけ?」
「そんな!こと……ない……です。繋がりだけなんて思って……ないです」
「じゃあ、お友達ね。お友達ってその程度でもいいのよ。こうやってお話しして、相手のことを考えて。ね?簡単でしょ?」
やっぱり香織さんはすごい。美人だしもっとお高くとまった人だと勝手に思っていた。でも違う。私の事をちゃんと考えてくれている。だったら。
「香織さん……は、彼氏とか……いるんです……か?」
「彼氏かぁ。要らないわけじゃないけど、今はいいかなぁ。なんで?陽葵ちゃん、誰か好きな人でも居るの?ちょっと気になっちゃう」
「そういうわけじゃ……」
実際はいる。というより憧れ?この前、待ち合わせの時に変な人から助けてくれた一ノ瀬さん。一ノ瀬さんと香織さんは雇い主と雇われ人、なんて言ってたけども、二人の距離感はもっと近く見えた。本当の友達になると、あんな感じの距離感になるのかな。
「もしかして一ノ瀬君だったりする?」
陽葵ちゃんは独りだって言ってた。だとしたら男の人の知り合いは一ノ瀬君と後藤君。後藤君のセンはないと思うから、考えられるのは一ノ瀬君。
「んんん……」
思わず息が止まるかと思った。香織さん、鋭すぎる。私は素直に首を小さく縦に振った。
「そっかぁ」
一ノ瀬君、凛ちゃんの件があってからその手の話はどうなんだろ。私も聞いたことないけど、小説では色恋沙汰な話書いてるし、案外立ち直ってるのかしらね。
「いいんじゃない?」
「いいん……です……か?」
「私は構わないわよ。本当に。でもあんなのでいいの?本当に。本気なら仲立ちするけどどうする?」
ここでお願いします!と一言だけ返事が出来れば私の人生は変わる気がした。でも言えなかった。
「まぁ、こういう話は急がない方が良いかもね。ごめんね。またいつでもお話聞くから。気軽に声かけてね。ツブヤッキでも良いし、お花屋さん。知ってるでしょ?そこにいるからいつでも声かけてね」
そう言われて香織さんは席を立った。お花屋さんのバイトの時間らしい。バイト、か。私もバイトとかすれば変われるのかな?
「今日ね、陽葵ちゃんとちょっとお話ししてきたんだけどね」
「実際に会ってか?」
「そう」
今日も食後のゲームタイム。悠仁は学校で疲れたのか一ノ瀬君のベッドで寝ている。
「何の話だったんだ?」
「んーっとね、友達のあり方?みたいな人生相談」
「で、なんて話したんだ?」
「もっと相手のことを考えましょう」
「あー……」
なんとなく分かる。僕も小説で独り主人公を描く時、コミュ障が友達を作る過程を描くのが苦手で最初から親友を登場させちゃったりしてるし。真のコミュ障が友達を作る過程が想像できない!この程度のポテンシャルだからアクセス数伸びないんだろうな。
「でね?」
「ん?まだ何かあるのか?」
「ん」
私は一ノ瀬君にスマホを寄越すようにジェスチャーで伝えた。素直に渡してくる一ノ瀬君。わざわざロックを解除して。
「ホント人のこと信用してるのね」
「なんかするのか?」
「別にしないけど。ちょっとね」
香織さんは僕のスマホをいじって何か文字を打っている。
「はい、送信……っと。ありがと」
久しぶりに聞いたなこの「ありがと」。それにしても何をやったんだ?
一ノ瀬さんからのダイレクトメール。この前の小説の感想だろうか。ちょっと期待して開くと「今度、時間ある?」と書いてある。
「え?」
これはいわゆるデートのお誘い?
「大丈夫ですけど、いつですか?」
ツブヤッキなら饒舌になれる。大丈夫だなんて。
ポコン
「ん?なんだ?」
僕のスマホからツブヤッキの通知音。香織さんからスマホを返されてすぐに鳴った。
「あ!」
「人助け、だから。行ってあげて」
香織は僕のスマホから勝手に桜さんにダイレクトメールを送った様だ。これじゃデートに誘ってるみたいじゃないか。僕は「週末に最寄りの駅前に十一時に待ち合わせ」と返信した。
「そもそも来てくれるのかなぁ」
逆にこちらが心配になる。空振り食らったらそれはそれでこっちが気まずい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます