第4話 作家

 僕はしばらくの間、学園ものの作品をアップしないでファンタジーもの。SFものとかをアップしていった。我ながら結構な本数を上げているものだ。ネットで小説について調べるとまずは完結させることが第一の目標と書かれていることが多い。僕は結論からネタを考えるからベタな内容が多いかも知れない。かわりに完結し無いことは希だ。相変わらすアクセス数は数百件がいいところだけど。

「今回も感想ありがとう」

 『ヘラルド』さん、もとい桜さんは今回の作品も感想を寄越してくれた。相変わらず結構手厳しい。

 

 私は今日も独り図書館に居る。ここは静かだし誰も話しかけてこないし。下校時間までここに居るのが私の日課になっている。図書館の本を読むこともあれば、投稿小説を読むこともある。とにかく活字が好きなのだ。ツブヤッキも活字だけでコミュニケーションを取るところが気に入っている。この前のオフ会では、あまりちゃんと話せなかったけどもツブヤッキなら話せる。そんな時、一ノ瀬さん、『イッキ』さんから感想についての返信があった。

「『ヘラルド』さんも小説、書いてみたら?的確な指摘だし、いいものが書けると思う」

 私が小説を書く?書けるのだろうか。私が書いても、どうせ根暗な小説に……。そうだ。小説の中ではツブヤッキと同じ。なりたい私を書けば良いのかも知れない。そう思ったらいても立っても居られなくて荷物をまとめて家に帰った。

 

「うー……」

 タブレットとキーボードを出してから、かれこれ一時間。なにも思いつかない。なにを書けばいいのか。私はベッドに身体を放り投げて天井を見上げた。

 なりたい私か……私は何になりたいんだろう。クラスの人気者?いや違う。『イッキ』さんの小説みたいな仲の良い数人の世界。そう。その中で私の居所があるような……。そう思って再びキーボードに向かった。

「二万文字、か」

 なんとなく勢いで書いてみたらいつの間にかそのくらいの長さのお話が完成していた。根暗な少女が人前に出ても話が出来るようになって友達が出来てその中で好きな人が出来て……。自分で読み返すと、こんな都合の良い話はないよね……。と思ったけども、仮の話だし。

「でもこうなったらいいな……」

 

 私はロム専アカウントから作家側に移ることになった。初めての投稿。『イッキ』さんにその報告。でも感想はすぐにくれなかった。

「やっぱり私には小説なんて……」

 ツブヤッキを閉じて投稿小説の好きなジャンルの海を泳ぎだした。自分で書いてみると、その難しさが分かって書いてる人たちってすごいなって言う感想が生まれてきた。

 ポコン

 ツブヤッキの通知音だ。

「読んだよ」

 それだけが『イッキ』さんから返信があった。どうだったのか聞きたかったけど、そんな勇気はとても出なくて聞き出せずにいた。

 

「香織さんも読んだ?『ヘラルド』さんの小説」

「ん?陽葵ちゃんの?読んだわよ。アレって多分なりたい自分について書いてあると思うわよ。感想書くならその辺、考えた方がいいと思うわよ。あの子の人生観に対しての感想なんだから」

「プレッシャー掛けてくるなよ……」

 僕は、何の反応も返さないのもアレなので「読んだよ」とだけとりあえず送っておいた。人生観か。実際読んでみて感想は内容はありきたりだし、感動する部分というより、書き方の部分が気になる。僕も同じようなことを言われてるけど。

「なりたい自分かぁ」

 『ヘラルド』さん、桜さんは学校では真逆の境遇である。そういうことなのかな。だとしたらどんな感想が良いのだろうか。幸いにして僕は男友達には苦労していなかった。唯一話をしていたのが例の三宅涼花だったわけだけど。高校で一人きりか。なんて悩んでいたら後藤のやつがストレートに聞いてしまった。

「『ヘラルド』さんって学校でそんな感じなの」

 学校とか書いちゃってるし。ルール違反でしょそんなの。僕はすぐに後藤のやつにダイレクトメールを送って投稿を削除させた。

 

 そう。そんな感じ。私は一人。

 ポコン

 またツブヤッキの通知音だ。

「あなたはもう一人じゃないわよ。だってもう私たちがいるじゃない」

 『おりりん』さんからのダイレクトメールだった。その短い文章を読んだだけで目がかすんでしまった。それからというもの、なにかあったら、みんなに相談するようになった。人生の先輩達だけあって的確な返事をくれる。いつも図書館に来ている女の子に勇気を出して声を掛けて友達も出来た。井上詩さん。私と同じ高校三年生だった。ツブヤッキをやっているか聞いてみたけどもやっていないとのことで少し残念だったけど、リア友が出来てそれだけで嬉しくて。

 ただ、リア友が消えるのは想像以上にショックが大きかった。井上詩さん、文化祭からクラスで友人が出来たらしく、図書館には来なくなってしまった。図書館の友達。井上さんは私の事をそのくらいにしか思っていなかったのか。そう考えたら涙が出てしまった。

「結局、私に友達なんて出来ないんだな」

 そう呟いて『おりりん』さんのダイレクトメールを見直す。「私たちがいるじゃない」か。

「そうだ。『おりりん』さんに直接会って相談すればいいんだ」

 ツブヤッキで聞いても良かったんだけど、実際に会う方が表情も分かるし話の内容も濃くなるに違いない。私は『おりりん』さんに連絡して約束を取り付けた。

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