第3話 オフ会
「オフ会をしよう」
後藤が昼飯を食いながら、いきなり話題を切り出した。
「なんの?」
「ツブヤッキの!」
「何言ってんの。既にこの昼飯がオフ会みたいなものだろ」
「『ヘラルド』さんがいないだろ?なんか最近暗めの投稿が多いから励まそうぜ!」
「おまえ、そういうところがダメなんだぞ。人のプライベートに土足で入るというか」
「そうかなぁ。でもオフ会とか楽しそうじゃね?」
確かに楽しそうではある。『ヘラルド』さんがどんな感じの人なのか気になる。後藤は女子高生と決めつけてるから、なんかやましい気持ちを持ち合わせている気がしてならないが。 その日の夜に『ヘラルド』さんに『サモンド』がオフ会をやらないかと言い始めるかも知れない、とダイレクトメールを送っておいた。いきなり参加を迫るよりも心の準備が出来るだろうと思って。
「カラオケカラオケ♪」
「後藤、なにをそんなに期待してるんだ?」
「香織さんの歌声」
「私、そんなに歌、上手じゃないわよ。期待しないで」
僕たちは池所のカラオケショップの前で待ち合わせをしている。香織さんと後藤はもちろん既に僕と一緒だ。
「それより『ヘラルド』さん、来ると思うか?一応行くって返信来てたけど」
僕は正直、来ないんじゃないかと思っていた。あんなことがあったし、僕自身はなんか会うのが気まずい。
「ううう……。あの人達かな……」
私は待ち合わせ場所近くまで来てカラオケショップの前に待ち合わせをしているとおぼしき三人組を目にしておじけづいていた
「やっぱり大学生だよね?私みたいな人が出て行ったら……」
「ねぇ、キミ、ひとり?ちょっと時間あるかな?」
いきなり声を掛けられた。知らない人だ。
「いえ。ひとり……ですけど、ひとりじゃ……ないので!」
「ええ?ようはひとりってことでしょ?俺と遊びに行こうよ。あそこのカラオケとか。奢るからさぁ」
怖い。この人なんなの。誰かに助けを……。
「なぁ後藤。あれ、ナンパかな」
「どこだ?」
「あれ」
「あー。多分な。女の子なんか困ってる風だけど助けに行くのか?人助け大好きちゃんの一樹君」
「まぁ、違ってもすみませんで済むし行ってくるか」
僕はちょっとだけ勇気をふりしぼって話の間に挟まった。
「やぁ。久しぶり。そちらの方は?」
「えっと……。しらない……人……です」
「ナンパですか?」
「まあな。おまえ、こいつの知り合い?一緒にどっか遊びに行かない?」
かなり場慣れしてるやつだな。こういうのはキッパリ断らないと面倒なことになる。
「いや、申し訳ないけど、この子、そういうの苦手なんで」
「なんだよ、ノリが悪いな。まあいいや」
そう言ってなんとか切り抜けた。
「大丈夫?」
「ありが……とう……ございます」
下を向いているがお礼を言われた。このままひとりにしておいたら、また絡まれるかも知れないな。でも僕たちと一緒にカラオケ行かない?っていうのもナンパと変わらないし。
「本当に大丈夫?」
後ろから香織さんが声を掛けてきてくれた。女性からの声かけがあれば安心できるだろうし助かった。
「はい……。あの!」
「ん?」
「もしかしてツブヤッキの!人たちです……か?」
「あ、もしかして『ヘラルド』さん?」
「は、はい……」
「なんだ。そうなら始めから言ってくれればいいのに。僕が『イッキ』で香織さん、っと、彼女が『おりりん』。それに向こうに立っているのが『サモンド』みんな同じ大学で」
「そうなん……です……か」
やっぱり大学生だった。私みたいな人が混ざっても良いのだろうか。でもさっきの怖い人達と違う。
「あの……、はじめまし……て。『ヘラルド』……です」
僕たちはカラオケボックスに入って再度自己紹介を始めた。ツブヤッキは匿名サービスだから実名は伏せて……ってさっき香織さんの名前出しちゃったな。どうしようかな。なんて思っていたら香織さんが実名で自己紹介を始めて後藤もそれにならって実名で自己紹介をしている。まぁ、隠しててもアレだしいいか。と思ったものの。
「『サモンド』さんはアカウント名だけでもいいよ?」
「いえ、大丈夫。です……。私は桜陽葵、高校三年生です。皆さんは大学生、ですよね?」
「ほら、俺の推察は当たってただろ?」
後藤の推察は当たっていた。女子高生。僕たちが比較的常識人だったから良いものの、やばい人たちだったらどうするんだ。なんて思ってしまった。自分のことを常識人とか。
「その……桜さん、この前はごめんね」
小説に書いた内容が悪かったと思って先に謝った。
「え?」
伝わってないかな。
「あのほら、友達とのことで……」
「あ。それの……ことなら……もう、だいじょぶ、です」
「そう?なんかアレがきっかけで何かあったのかなって。いつも感想くれるのに今回はなにもなかったから」
最初は遠巻きで確認して帰ろうと思ってたから、話す事なんてなにも考えていなかった。
「帰ったら感想、おくります……ね」
「無理しなくてもいいよ」
この人は優しい。さっきも助けてくれたし。小説でも優しい人が書いてるんだろうなって感じてた。でも私の事はどう思ってたんだろう。さっき後藤さんが言ってたけど、一ノ瀬さんも私の事、女子高生って分かってたのかな?だったら子供みたいだって思ってたのかな?
「桜陽葵ちゃん、だっけ?この人達、怖い人じゃないから安心して」
この人は確か本庄香織さん。とっても綺麗な人。小説に出て来るヒロインみたいだ。まつげも長くてサラサラの髪の毛。それにとってもいい匂いがする。
「はい」
短い返事しか出来ない。ツブヤッキならもっとちゃんとした返事が出来るのに。リアルの世界はこんなにも難しい。藤堂さんの件もあるし、下手なことを言ってこの人達からも嫌われたらどうしよう。そんな気持ちが私を支配する。
「ふいー。歌った歌った」
後藤は至極満足げだ。
「あなた歌いすぎなのよ。桜さん、大丈夫だった?」
香織さんは常に私の事を気に掛けてくれていた。私が曲を入れるのを困っていたらデュエットの曲を入れてくれたり。
「次どこ行く?」
後藤がそんなことを言い始めたけども、時刻はもう十六時。次に行ったら高校生の門限なんてあっという間だし、こんな性格の子を夜遅く歩かせるのは、なんか心配だ。ということで今日は解散と僕は切り出してそれぞれ家に帰ることにした。
「僕たちはこっちだけど桜さんは?」
「私もこっち……です」
「じゃあ、途中まで一緒に行こうか」
西鉄線に揺られて僕たちは自宅のある駅に向かう。
「私……ここ……なので」
「あれ?そうなの?僕たちもここだよ?一緒に行こうか」
「あ、はい……」
駅を降りて少し歩いていたら桜さんがこんな事を聞いてきた。
「あの……お二人は、どんな関係……なんですか?」
「私たち?そうね。雇い主と雇われ人。かな。私、一ノ瀬君の家のお花屋さんでバイトしてるの」
「そうなん……ですか。あ、私、こっち……なんで」
「そう?じゃあ、これで。これからもよろしくね」
「よろしく……おねがい、します」
昔、凛ちゃんが働いてたコンビニの角で別れて自宅に向かう。このコンビニを見る度に凛ちゃんのことを思い出しては、やりたいことリストのことも思い出してしまう「私の事をわすれること」しかし、現実的にはなかなか難しいものだ。
「ちょっといいかな。一ノ瀬君、陽葵ちゃんのことなんだけどね……」
香織さんは桜さんのことをこんな風に話してきた。まとめるとこんな感じだった
「あなたの小説、彼女に少なからずとも影響を与えてる」
そんなものだろうか。でも友達の件は確かに影響を与えてしまっているようだった。今度の作品、どうしようかな。
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