第12話 一夏の経験
凛ちゃんは調子の良いときだけ大学に通う様になった。その際は僕が付きそう事で凛ちゃんは承諾してくれた。
「そろそろ夏だなぁ。凛ちゃんは夏、大丈夫なの?」
「暑いのはちょっと苦手ですけど、今日ぐらいが続けば良いですね」
七月に入って徐々に暑くなる。今月末には前期試験があるので凛ちゃんは僕のノートを使って勉強に励んでいる。大学には事情を話して出席カウントは取ってもらっている。
八月。去年、三宅涼花の陰謀で落とした必修単元の単位も無事に取れそうだ。凛ちゃんも大丈夫そうだ。
「夏休みだな後藤お前は何か予定はあるのか?」
「ないな。それにしてもお前、本当に色々あるな。感心するよ本当に」
「まぁ、これは僕の選択だから」
「そうか。頑張れよ。凛ちゃん。幸せにしてやれよ」
後藤とそんな会話をしているのを凛ちゃんは満足そうな顔で僕の腕に絡みつきながら聞いている。
「一ノ瀬先輩、夏休みですよ夏休み。なにをしましょうか?」
「凛ちゃんは自分の身体を第一優先してもらわないと僕が困る」
「一ノ瀬先輩を困らせるのは私も嫌なので……。分かりました。でも行きたいところがあるんです。絶対に!」
「うーみー‼」
「凛ちゃんそんなに走っちゃ……」
「大丈夫ですって!」
僕たちは海に来ていた。凛ちゃんのやりたいことリストの重要課題だったらしい。そりゃあの身体で海なんてハードルが高いだろうに。
「悪いな後藤。車出してもらって」
「いいのいいの。俺は香織さんの水着姿が見られるだけで眼福だから」
「そうか。ありがとうな」
「でも本当に良いのか?凛ちゃんを海になんて」
「医者の許可も取ったし、病室に籠もりっぱなしも良くないって事らしいぞ。激しい運動は禁止されてるけどな」
「じゃあ、あれ、止めた方がいいんじゃねぇか」
凛ちゃんは砂浜を駆け回って海に飛び込んでいる。確かにあれは止めた方が良さそうだ。
「凛ちゃん‼準備運動とかしないと!」
そう言って僕は凛ちゃんのところに行ったら思いっきり押し倒されて僕も準備運動無しに海にダイブする羽目になった。
「はー、疲れた」
凛ちゃんはひとしきりはしゃいだ後に砂浜のパラソルに戻ってきた。パラソルの日陰には香織さんがパーカーを羽織って座っている。パーカーの上からでも分かるその存在感……。
「一ノ瀬先輩、なにを見てるんですか」
「あ、いや。これは男の性というか何というか……」
「今日は私を見てて下さい」
凛ちゃんは胸は控えめだがスタイルは良い。色も白いしどこから見ても美少女だ。香織さんと凛ちゃんの二人が座っているので砂浜を歩く男達の視線が集まっているのが分かる。そんな凛ちゃんの彼氏だなんて僕も成長したものだな。
「一ノ瀬先輩ちょっといいですか?」
「夕方になって帰る準備をしている時に凛ちゃんに呼び止められた。後藤に片付けを頼んで凛ちゃんについていく」
「一ノ瀬先輩、こっちです」
「凛ちゃんそっちに何かあるの?」
「いいから黙ってついてきて下さい」
僕たちのベースから結構離れてしまっている。振り向いてそんなことを思っていたら凛ちゃんの姿が見当たらない。
「凛ちゃーん。どこに行ったの」
先に進んでいるのは間違いないので足を進める。
「捕まえた!」
「わ‼びっくりしたなもう」
岩陰に隠れていた凛ちゃんが僕を羽交い締めにした。背中に胸が当たる。流石に水着と素肌だと大きさは関係ない。
「一ノ瀬先輩。ちょーっとだけ変なこと考えてません?」
「あーいや。その……な?流石にこれは」
「いいんですよ。凛は一ノ瀬先輩のものなんですから」
凛ちゃんは僕の正面にくるりと回ってきて正面同士になる。僕の背中に回された腕は首の方に移動してきた。そして凛ちゃんは僕の顔を見つめてくる。
「先輩……一ノ瀬先輩……私……」
これはあれか?アレだよな?夕陽が沈む海に視線を向けて気持ちを整える。下を向けば凛ちゃんの顔が迫っている。
「凛ちゃん……」
僕がキスをしようとした時だった。
「ブー!不正解です!」
「え?違うの⁉」
「正解はこれです!」
そういって凛ちゃんは僕を押し倒してキスをしてきた。
「ちょ……凛ちゃん⁉」
間髪入れずに唇が重なる。何度も。そう何度も。
「はい‼これでおしまいです!」
そう言って凛ちゃんは立ち上がって手足についた砂を払っている。
「もしかして、やりたいことリスト?」
「そうです。私が一ノ瀬先輩のファーストキスを奪う、が正解です」
「なんで僕がファーストキスって分かったの?」
「そんなの一ノ瀬先輩を見ていたら分かります。私以外に先輩をそんな風に想ってくれる人なんて居ません!香織さんは……ちょっと心配でしたけど……その……ファースト、キス、でしたよね?」
「も、もちろん。奪われちまった」
「ふふ。奪っちゃいました。それじゃ、みんなも心配すると思うので戻りましょう‼」
帰りの車で凛ちゃんが指折りをしている。きっと沢山のやりたいことリストが埋まったのだろう。体調も問題なく病院に到着したので、僕たちは安心して解散。と相成った。
「凛ちゃんと何してたの?」
帰り道で香織さんに聞かれる。後藤に家まで送ってもらっても良かったのだが、香織さんと同じ建物に住んでるとバレてしまうので病院で解散となった。流石に後藤には話しておいてもいいと思うんだが、成り行きでなかなか話せないでいる。
「ちょっとな。やりたいことリストの穴埋めを手伝ってた」
「無事にお手伝い出来たの?」
「ああ。とても無事に」
「どうせキスとかしちゃったんでしょ。凛ちゃんのリストにありそうだもんなぁ夕陽を眺めながらキスとか。あれぇ?図星?」
「まぁ、そんなとこ」
「なんだ。照れないの。つまんないの」
「香織さんはそういうの経験あるの?」
僕はなにを聞いているんだ。
「私?さぁて。どうでしょうか?そうだ当ててみて」
どうだろう。こんな美人なんだから当然モテるに違いない。でもそういうのはご免、と言うような雰囲気も感じる。
「多分、だけど経験は無し、かな」
僕の願望も混ざっていたかも知れない。
「正解は……内緒‼」
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