第11話 三宅涼花と三宅結菜

「あーあ。バレちゃった」

「そんなこと言ってないでちゃんと横なって」

「一ノ瀬先輩には隠しておきたかったんです。普通の彼女で居たかったんです」

「大丈夫。普通の彼女なくて今度から特別な彼女に変わったから。凛ちゃんは」

 凛ちゃんのご両親も来て、後から香織さんから聞きつけたのか三宅さんもやってきた。香織さんは僕と一緒に居るのを凛ちゃんに見せるのは良くないと判断したのだろう。来ていない。

「凛。本当に大丈夫なのか?」

「だから大丈夫だって。今朝早起きしてちょっと疲れただけだから。そんなに心配しないで」

 そうは言ってるけども、ご両親の表情を伺うとそうでもないと分かる。ちょっと飲み物を買ってくると言って病室を出たら後ろから凛ちゃんの母親が後を追ってきた。

 

「悪いんですか。凛さん」

「ええ。子供の頃から心臓が弱くて入退院を繰り返してまして。大学に入ってから毎週検査を受けている状態なんです。だから凛に彼氏が出来たって聞いたときとても嬉しくて。あの子、ずっと彼氏が欲しい、って言ってて。人並みな大学生活を送りたいからと」

 心臓の病か。それでジェットコースターとかお化け屋敷とかを避けていたのか。それに。僕に抱きついたりするときに意を決してという感があったのもそのせいか。

「あの子。正直なところ今年の春が山場って言われてたんです。それを超えられたのは……」

「一ノ瀬です。一ノ瀬一樹と申します」

「一ノ瀬さんのおかげかも知れないです。家に居るときもずっと一ノ瀬さんの話ばかりしてましたから」

 そうか。僕はそんなに彼女にとって大きな存在だったのか。

「ところで、何ですがちょっとよろしいですか?」

「なんでしょうか」

「こちらの病院に先日来られてませんでしたでしょうか?」

 例の香織さんのおばあちゃんへのお見舞いの時かな。僕は正直に答えた。香織さんのことも話した。

「そうなんですか。その香織さんとそういう仲であると凛は知っているのでしょうか?」

「その香織さんは僕の実家の生花店でバイトをしていて、事情があって僕の実家の上にある賃貸マンションに住んでます。そのことは凛さんも知っています」

「そうですか。少し安心しました。それではこれからも凛のこと、よろしくお願います」

 深々とお辞儀をして凛ちゃんの母親は病室に帰っていった。

「よろしくお願いします、か」

 こんな時に僕は凛ちゃんのことではなく香織さんの事を考えてしまっていた。香織さんならどうするだろう。

 

「で、どうだったの?」

「なんか相当悪いみたい。小さい頃から心臓が弱くて入退院を繰り返している状態で、大学に入ってからは毎週の検査が欠かせない感じ。それと、この前のおばあちゃんへのお見舞い、凛ちゃんのお母さんに見られていたみたい。事情は説明した」

「そう。凛ちゃんには伝わっていないのね?」

「今のところは」

「分かったわ。今後はちょっと控えましょう。おばあちゃんには上手く言っておくわ」

「助かる」

 

 それからというもの、凛ちゃんは入退院の頻度が上がってついには病院からの通学となってしまった。無理しなくても僕がノートを届けると言っても聞かなかった。多分僕と一緒に居たいのだろう。授業が終わったら病室に戻る。僕も一緒に行って面会時間ギリギリまで色々話をした。小さい時の事、三宅さんとの出会いについてとか。僕のことを最初に見つけた時のことも教えてくれた。話の流れ的に三宅涼花のことが見えかくれしたので、やっぱり三宅結菜さんがノートをもらっていたのは三宅涼花で間違いがなさそうだ。幸いにして三宅結菜さんは僕たちの味方のようなので少し安心したけど、確認はした方が良さそうだ。

「やっぱり三宅結菜さんとあの涼花さん、なんか繋がりがあるみたい。ちょっと話を聞きに行こうと思うけど香織さんも一緒に来る?」

「そうね。私も聞いておきたいかな」

 翌日、凛ちゃんとの面会時間後に結菜さんに時間をもらって駅前のファミレスで香織さんと合流して話を聞いた。香織さんが一緒に来た件については理解しているという顔だったのでやはり関係があるのだろう。

 

「もっと早くに話しておくべきだった」

 僕たちが要件を切り出す前に結菜さんはそう言ってきた。

「聞きたいのは涼花のことだろう?」

「はい」

 珈琲を一口飲んだ後に結菜さんは全てを語ってくれた。

「涼花は私の親戚でね。昔からの知り合いなんだ。ちょっと性格がよじれてるからなにをしでかすのか分からなくて昔からヒヤヒヤしてたものだよ。それで君たちにひどく迷惑を掛けてしまったようで。私からも謝罪する」

「いや、結菜さんが謝る必要は……」

 結菜さんは香織さんの方を向いて、コンビニバイト先でクビになったことについて話し始めた。

「例のコンビニに池田って居たでしょ?あれ、私の彼氏なんだ。それで涼花に頼まれてあなたをコンビニから追い出したのは池田なんだ。だから私にも責任がある。改めて謝罪する。それと今回の件もあって涼花にはこれ以上二人には手を出さないと約束もさせてある。一ノ瀬君に何かあったら凛に影響が出るからね。凛はわたしにとっても大事な存在だから」

「そうですか。お話し頂きありがとうございます。あの件についてはこちらとしましても終結したものと捉えてますし、元はと言えば僕が高校時代に蒔いた種ですから」

「そう言ってもらえて少し荷が軽くなったよ。ありがとう。それと別件なのだけれど。今後の凛についてなんだが」

「はい。それも話そうかと思ってました」

 このまま一緒に大学に行っても良いのかどうか。容態については結菜さんの方が詳しいだろうから確認しておきたかったのだ。

「私から言うのはなんだが凛を説得してもらいたい。凛の今の体力で大学に行くのは少々辛いと思ってる。一ノ瀬君から言ってくれれば凛も承諾するかと思うんだ。それと。香織さんも一緒にお見舞いに来てもらえないか」

「私もですか?」

「そう。凛は恐らく自分が大学に行かないと君たちの仲が進展してしまうと考えてしまうと思うんだ。だから一緒に来て欲しい。二人きりになりたいときは凛はちゃんと言うと思うから」

「分かりました」

 

 まさかまた二人で病院に行くことになるとは。香織さんのおばあちゃんへのお見舞いも一緒に出来るかも知れない。先に凛ちゃんにはそのことを話しておいた方が良いとは思うけど。

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