第5話 かりそめの彼氏、美人に出会う

「なに?自転車まで貸したのか?ホント、お前その香織って女にどれだけ尽くすんだよ。マジで顔見てみたいわ」

「見てどうするんだよ。説教でもするのか?」

「いや、ただ気になるだけだよ。でも向こうも仮の彼氏役だったんだもんな。昨日の件もあるしもう会わない方が良いんだが」

 そんな会話をしながらキャンパスを歩いていたら

 真正面から香織さんと涼花さんが歩いてきた。どうする?元々声をかけないでって言われてるし。もう振られた事になってるし。

「涼花ー。この前の講義、ノート取ってたり……。するわけ無いか。そもそも出てた?」

「出てないし。出てたとしもノート取ると思う?」

 僕の方を向かないようにするためか涼花さんの方を見ながらすれ違う。この前の講義ってなんだろう。同じ学部だしもしかしたら僕も受けている講義かも知れない。ノート、また貸したら香織さん、助かるのかな。

「おい、おいって」

「ん、ああ、悪い。ちょっと考え事してた」

「見たか?今の?超美人だったじゃねぇか。見てなかったのか?」

「ん、ああ」

「なんだよもったいねぇ。お前。彼女が出来る以前に女の子に興味持てよ」

「別に女の子に興味が無いわけじゃないさ。ただ……」

「ただなんだよ」

「なんでもねぇ。腹減ったからどこか飯食いに行こうぜ」

 香織さんはもう僕とは別れたって涼花さんに話したんだよな。だからさっき涼花さんとも目が合ったけども話しかけてこなかったんだろうな。ああ、もう。なんか調子が狂うな。

 

 僕たちは後藤が振られた祝いに焼き肉を食おう、なんていうから仕方なく付き合うことにした。今月は財布がピンチだってのに。まぁ、でもどうせ割り勘だし食い負けたら損だ。

「このカルビと豚バラセットに、キムチにサンチュ。あと飲み放題もつけて」

「はい。かしこまりました。ご注文を繰り返します……」

 (なんでここに香織さんが⁉)

「おい。一樹はなんか注文しないのか?」

「いや、とちあえず同じもので!」

 また舌を噛んだ。香織さんはなにもなかったかのように注文を取ってカウンターに戻っていった。気がつかなかった?いや、それはないでしょ。絶対に気がついてる。コンビニの次は焼き肉屋かよ!って、掛け持ちしてると言っていたな。コンビニだってあんなに遅くまで……。

「なぁなぁ見たかよ。さっきの店員さん!」

「ん?なんでだ?」

 ちょっと不自然かも知れない返事をしたが後藤がには伝わらなかった様だ。危ない。

「同じ大学の例の超美人さんだったじゃん。ここでバイトしてるのかぁ。彼氏いるのかなぁ。いるよなぁ……きっと」

「なんにしても後藤には高嶺の花だろ?」

「そう言うなよ。夢もへったくれもないじゃないか」

 

 (なんでここに一ノ瀬君?バイト先バレてる?ストーカー?いや、そんな人じゃないと思うけど……)

「ほい。これ。六番テーブルね。香織ちゃん」

「あ、はい。ちょっとトイレに行ってきますので他の人に頼んで貰っても良いですか?」

 (あー、なんで私が逃げなきゃいけないのよ)

「なんだよ。さっきの超美人ウェイトレスじゃなかったな。一樹にも見て貰いたかったのに」

「それは残念だな」

 ここまできて後藤のやつにさっきのが例のかりそめの彼女って伝えるか?いや、それで香織さんに迷惑かかっても。でもなんの迷惑もかからない?いや、後藤に僕が怒られる気がする。

「ふー、食った食った。一樹、今月ピンチなんだろ?振られた祝いで誘ったんだから今日は俺が奢るよ」

「マジ?助かるわー!後藤君マジ天使」

「なんだよ天使ってキモいな」

 レジに立ったときに隣を香織さんがお客さんに料理を運ぶために通り過ぎていったけど、目線を合わせることは無かった。やっぱり僕はかりそめの彼氏。それにもう振られたことになってる。関係ないじゃないか。でも、あー‼

「一樹さ、仮とは言え振られたんだろ?ってかいきなり彼氏にされて勝手に振られるってなんだよな。俺だったら無駄にへこむっつぅの。一樹は大丈夫なのか?」

「今回のことでか?別に。いつものことだよ。人助けになったから」

「ホント、いつもそれだよな。人助け人助け。いつか騙されるぞ」

「一応判断はしてるさ。何でもかんでもじゃねぇよ」

「だといいんだけど……っな‼」

「痛ってぇな!なにすんだよ」

「気合い入れてやったんだよ」

 後藤は僕の背中をちょっと強めに平手打ちを入れてから「じゃあな」といって帰って行った。僕はこれで香織さんのバイト先に家を知ってしまったわけだけど。まぁ、なにがあるわけじゃないし。自転車は……また買えばいいか。

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