最終話 妹と幼子と夜刀神の後日譚

「という感じだよ。思い出したかい?撫子」



そう問いかけるのはサイドテールの女子高生だ

目の前にいるのはサイドテール女子高生の後輩にあたる女子生徒



「…佐久間さくま先輩って突拍子もないこと言いますよね、いつも」



今佐久間がしていたのは前世の話だ

自分は青年が持つ「死神の鎌」だったという話

そして、目の前にいる女子生徒に向けて「君は青年の妹だったんだよ」と言い放ったのである



「かもしれないね。ま、信じるかどうかは君に任せるよ、神崎雪菜かんざきゆきな


「…そもそも、私が前世で先輩の妹だったって話もよくわかりませんけどね」



先輩というのは夜斗のことだ

最近生徒会に入って初めて夜斗に出会った雪菜は、酷く既視感を覚えた

そして夜斗に対し、異常なまでの強い執着を見せたのだ



「というか、佐久間先輩が夜刀神という神機だったのなら、口調変わりすぎです」


「ははは、それはそうかもね。ところで、今の話の「幼子」は誰だと思う?」



佐久間の問いかけに最適解を見つけられず首を傾げる



「幼子というのは、そこにいる君の同級生だよ」


「え…?うわぁ鏡花きょうか!?」


「…結構傷つくから、そんな大声で驚かないで」



すぐ背後にいた白銀の髪をもつ少女に驚き、悲鳴とともにパイプ椅子から落ちる雪菜

その少女――鏡花は冷静沈着といった様子で雪菜の正面にある自席につく



「…雪菜、本当に覚えていないの?」


「お、覚えてないよ!鏡花は覚えてるの?」


「覚えてる。母様は、自分に記憶操作をしなかった。だからその血脈を継ぎし者…つまりは私も、記憶を失わなかった」


「そ、そうなんだ…。ってその理論なら私に記憶ないのわかりきってるよね!?」


「当然。安心して、やーくんに執着する貴女は私の敵じゃない。それに、この世界でやーくんと結ばれるのはここにいる誰でもない」


「悔しいけどそうだね。ボクらはあくまで、オマケで転生したにすぎない。この世界はあくまで、呪いの桜とマスターのために作られたようなものだからさ」



佐久間がそう言いながら自販機で購入したコーヒーを一気に飲み干した

自分で言いながら納得はしていないようだ



「そ、そんなのわかりません!私が横取りしますからね!」


「…いいけど、母様に呪われても知らないから」


「うぐぅ…」



呪いの桜と言われた存在に呪われるのは明らかに危険だ



「ともかく、ここにいる三人は夜斗を好きで仕方がないということだね。いやぁモテモテで羨ましいよ、夜斗」


「さ、佐久間先輩はいいんですか!?桜にマスター取られますよ!?」


「構わないよ。好きではあるけど、一番はマスターの幸せだからね。君とは目指すものが違うんだよ」



言外に自己中だと指摘されて歯ぎしりをする雪菜

その時、生徒会室のドアが開かれて話題の渦中にいる人物が姿を見せた



「お、おぉう?やけに剣呑とした空気だな。じゃあ俺は帰るわ」


「夜斗、今日は会議だよ。帰ったら顧問になんて言われるかなぁ?」


「あいつまじで職権乱用酷くね?」


「それはたしかにそうだけど、帰るのはおすすめしないよ」


「はぁ…。白鷺早く来ねぇかな、犠牲にしてやる」



雪菜は未だに実感はない

それもそうだ。前世で妹だと言われても記憶にないのだから

それでもいま目の前にいるこの先輩が他人だとは思えなかった



「せーんぱい!」


「うおぅ!?なんだよ雪菜」



夜斗に抱きつき腕を絡め、見上げる



「先輩を手に入れるのは私です!」


「なんの宣言だよ…。お前は妹としか思えねぇよ、何故か知らんけど」



そう言って夜斗は雪菜の頭を撫でる

不思議と懐かしく感じて笑う雪菜だった

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ヒトリシズカ さむがりなひと @mukyo

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