第10話 再構築

少女はふと考えた

何故、呪いの桜と呼ばれていたのかを

何故、花びらが赤くなったのかを



(…私が精霊になる前は、普通の桜だった)



青年の墓の前で手を合わせながら首を傾げる

少女が作ったその墓も、少し角が欠けてきている

青年が死んでからもう千年が経過しているのだ



(なのに、私は他とは違う赤い花を咲かせる。黒い幹で地に立っている。もしかして、なにか意味がある…?)



少女は久しぶりに里へと向かうことにした

もう幼子も死んでしまい、この山に残されたのは少女と幼子の子孫のみ

しかし幼子の子孫は意思を持たないらしく、表に出てきたことはない

この寂しさにも慣れてしまっていた



「…書物…?」



千年が経過した今、紙自体は珍しくない

しかしこの里は少女が破壊した場所であり、人は住んでいない

しかし目の前に落ちている本は、ほとんど紙が流通していなかった千年前に作られたものということになる



「…呪いの桜の、正体…」



最初のページにはそう書かれていた

そして読み進めていくにつれ、自分が何なのかを理解する



「…そう。私は、世界の核なんだ」



本を閉じ、試しにと指を鳴らす

本が燃え始め、少女はそれに驚き取り落とした



「なるほど。なんとなく使い方はわかった」



核としての力を理解し、使う

少女の周りをいくつもの数字が流れては消え、また流れては消える



「世界の再構築を開始。今度は、私が死神を守る。そのためには、今この時代から世界を始めて、呪いや死神を伝承に変える」



伝承を信じる者は少ない

今までは広く周知されていたからこそ起きた、青年への迫害

それを失くせば、少なくとも青年が殺されることはなくなるはずだ



「…八雲。また生まれたら、守ってあげるから。だから会うまで、待っててね」



世界が消えたその瞬間、また新しい世界が生まれた

少女も青年も、新しい世界で転生し、千年ぶりの再会を果たす

しかし青年はかつての世界を覚えていない。それは仕方がないと割り切った



「あなた、名前なんて言うの?」


「…冬風。冬風、夜斗よると


「私は美月みづき。橘美月よ」


「そっか、よろしくね。そっちの子は?」



後ろで少女の陰に隠れる子に目を向ける青年もとい夜斗

ここにいる三人は、まだ10歳にもなっていない可愛い頃だ



「この子は私の妹!挨拶して、ほら!」


「…橘、弥生やよい。よろしく…」


「よろしくね」


「夜斗、ちょっと遊ばない?お父さんたち話してるし」


「そうだね。弥生ちゃんもくる?」


「ん…いく」



おどおどする弥生の手を引いて公園の中を走る夜斗を見て、少女――美月が笑う



(今度こそ守るからね、八雲。ううん…夜斗君)


「美月ちゃんはやく!」


「待って!」



笑顔で走る夜斗と慌てる弥生に駆け寄っていく

そして少女の青年を守りたいという思いは、最悪の形で達成されることになるのだが

それはまた別のお話



――そういうのも、味だと思わないかい?



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