第8話

青年が処刑された翌日、里の人間は全員呪いの桜と言われた少女の下で宴会を行うべく歩いていた

周りの桜のざわめきは、まるで人々を責め立てるように煩い



「なんだうるさいな。死神もいなくなったことだし後で切り倒してしまおう」


「死神がいなくなることとなんの関係が…?」


「何だ知らんのか。あの死神はこの桜と呪いの桜を守るために存在していたんだ。いなくなった以上、あれを守るものはいない。やりたい放題だ」



自信満々に説明する村長と話す男が、なるほどと太鼓を叩く

無理やり引きずられるようにして連れてこられた妹が小さく呟いた



「下衆が…」


「あぁ〜?もういっぺん言ってみろや!」



村長が拳を振り下ろす

が、その手を指先一つで止めたものがいた



「妹様、こちらへ」



男の手を強引に振り払い、幼子が妹を連れ去る

一瞬のうちに見えなくなり、男たちは狼狽した。しかし



「あれ…何を持ってたんだっけ…?」



まるで妹のことを忘れたかのように、何もなかったと歩みを進める



「さて、どうしましょうかね」



幼子は妹を桜吹雪に隠したのち、母たる少女の元へと走っていった

いつもなら桜吹雪を経由して瞬間移動のように向かうのだが、今は妹を入れてしまっているためその方法は使えない



「母様」


「…撫子。走ってくるのは珍しい」


「…今から人間がここで花見をするそうです」


「そう。珍しい」


「…主様は、許してやれと」


「わかった。別に危害を加える気はないから、好きにさせてあげる」



少女は自身を見上げながらそう答え、赤い桜吹雪の中へと消えた

幼子が小さい拳を握りしめ、桜吹雪の中から妹を出して家に帰るよう言い含めた



「来てはなりません。主様…あなたのお兄様から、あなたをお守りするよう厳命されております」


「だ、れ…?」


「今は知らないままでいてください。またお会いしたときに、名乗ります」



桜吹雪を使って妹を家へと移動させる

そして幼子は自分の本体の中へと戻っていった



その頃、かなり遠くの村へと来ていた親友は



「…八雲に埋め込んだ式神が、消えた…?」


「お兄ちゃん、どうしたの?」


「…八雲が死んだらしい」


「お兄ちゃんの友達、死神でしょ?死ぬの?」


「おそらくは他殺だ。人為的な死に対しては不死性が作用しない。つまり、自然死しないだけで殺せるんだよ」


「ふーん。落ち着いてるね」



つまらなそうに横を歩く女学生に目を向ける



「落ち着いてる…というより、心が冷えたということだよ。殺されたなら、俺は俺を抑えられない。我が親友を殺したやつを、嬲り殺しにしてやる」



空気中に放たれた魔力なるものが燃え盛る

黒い焔を鬱陶しそうに手で払いながら女学生が指を鳴らした



「抑えてよ。八雲さんが作った草履を燃やしたいの?」


「そ、それは…。そうだな、これを売ったら里に戻ろう」



焔が消え、女学生はため息をついた

肩をすくめながら歩を早めた兄の後をついていく

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