第4話
本来この世界では何らかの仕事をする必要があるが、青年は大した稼ぎがない
妹の父親は商人であり母親は元娼婦。今では妻として父親を支えながら経理を行う母親は、月に1度父親に隠れて金を持ってくる
「…すまないな」
「あの子のためだから勘違いしないで。貴方に施しを与える義理はない」
「それは…そのとおりだ。ありがとう」
「全く…。元気なの?あの子は」
「ああ。未だに、あんたらのとこに行こうとしないが…元気に過ごしてるよ」
久方ぶりに合う母は少しやつれていた
どうやら妊娠しているらしく、大きくなった腹を抱えながらここまで歩いてきたようだ
「…子を成したか」
「…そうなの。ほとんど、あの人に無理やりされたんだけど…」
「…親父が…?」
「貴方の妹が従わないから、商人を継ぐ男の子がほしいみたい。貴方に継がせる気はないそうよ」
「構わないさ。…体を壊さぬよう早めに帰った方がいい。送るか?」
「いいわよ、死神に連れ添われてるって笑われたくないし」
「そうか。なら、気をつけて帰ってくれ」
「そうするわ」
立ち去ろうとした母親が踵を返して青年の前に立ち止まった
そして力なく青年を抱きしめる
「死神と言われてても、本当に死神だとしても、私の子どもなんだから。元気にやんなさい」
「…ああ。ありがとう」
「じゃあ、またくるわ」
母親が離れていく
その背を見送りながら、小さくため息をついた
「母親、か」
「兄様…?」
「ああ。戻ろう」
背が見えなくなったのを確認してから、近くに隠れていた妹と共に家へと戻る
妹は姿を見せないだけで毎度ついてきて母の体調を気遣っているのだ
「何故大手を振って兄様と会わないのですか?母は」
「…親父は本当に俺のことを嫌ってるから気を使ってるんだろうな。商人の妻である以上、相応の体裁は必要だし」
母はあくまで外面でのみ青年を嫌っている
自分の腹を痛めて産んだ(と思っている)息子を無碍に扱えるほど冷たい心は持っていないのだ
「そんなプライド捨てればいいのに…」
「大人になるってのはそういうことだ。全部を天秤にかけて、最善の選択を選び続ける。子供のうちはいくらでも好きな方を選べばいい」
そう言って妹を撫で、手を繋いで家へと向かった
自宅のすぐ横を通っていると、自宅窓ガラスが割れているのが目に入った
妹が気付かぬよう体を割り込ませ、指を鳴らす
(『修復』起動)
黒い霧が窓を覆い隠し、すぐに消える
すると窓ガラスが元の状態に戻った
死神が有する『術式』と呼ばれるもので、世界の管理に使うためのもの
青年も私用で使うことはほとんどないが、妹が悲しまないためにはやむを得ない
(空き巣…いや、ガキのイタズラか。…ま、そういうこともあるよな)
こうしてイタズラにより、家が壊されるのはよくあることだ
親から『死神だ』と教えられた子供たちは、無邪気に死神を排除しようとする
親たちもそれがわかっており、青年が子供に手を出さないのを知っていてそういうやり方を取るのだ
(くだらん)
家に入り、妹が台所へと走っていく
青年のために料理を作り、机に並べて笑顔で感想を待つのだ
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