襲撃

 それから何日か経過したが今のところウィリアム様に何か起こりそうな雰囲気はなかった。

 私は少し緊張が解けてしまってルナに愚痴を言っていた。


「ねえー、暗殺者はいつ来るのさー。こう何日もなにもないと暇なんだけど」


 もう夜も更けた頃、私はなにも起きない退屈さからくる苛立ちをルナにぶつけていた。


「まだ最後まで気は抜けません。そういうふうにこちらの気が緩んだところで襲ってくるかもしれないんですから」

「そうは言ってもさ、ここまでなにもないと気も抜けるよー」


 私の覇気のない返答にルナが溜息を付く。


「まったく、あなたのそのやる気が出ない時のわがままなところは学園時代から変わりませんね。少しくらい直したらどうですか?」

「いやー、人間はやっぱり嫌なことは嫌って言えないと駄目だよ!」

「誤魔化さないでください。そんなことだから学院に在籍していた時も苦手な科目は試験に合格できそうになかったじゃないですか。試験前にいつも私に泣きついてきたことを私は忘れていませんよ」


 ルナはそう言って私をにらみつけてくる。うう……それを言われると結構痛いなあ。


「む、昔のことはいいでしょう! 過去を掘り返すような人間は嫌われるよ!」

「ちゃんと自分の行いを反省してください。……まあ、確かに動きがないなかじっっとしているのはきついですけど」

「ほら、ルナだって嫌なんじゃん。本当いつ来るんだろうねえ」

「随分退屈してるみたいだね」


 いつのまにかウィリアム様が側に来ていた。ここに来てからは自室に籠もって本を読んでゆっくりされている。なんというか自分が狙われているのにそんなふうに余暇を楽しめるのは凄い胆力だと思う。


「お兄様、これは失礼しました」

「いや、確かに襲撃に備えてきてもらったのになにもないのは気が抜けてしまうのは無理がないよ」

「もしかして中止とかにしたんですかね? 向こうもこちらの対策に勘づいたとか?」

「いや、それはないだろうね。一応二人には普通の侍女みたいに振る舞ってもらっているわけだし、私の身を守る人間の数が少ないこの状況を逃さないと思うよ」

「……お兄様もアリアも軽口を叩くのをやめてください。このような油断している時が一番危ないのです」


 ルナがそう言った後、別荘の中にけたたましい音が鳴り響く。


「!? これは……」

「私が作った侵入者用の魔導器が発動した……! ってことは……!」

「侵入者がこの屋敷に入ってきたということだね」


 ウィリアム様が余裕のある声で語ると同時に私達のいる部屋のドアが蹴破られた。黒ずくめで顔を隠した男達が部屋に押し入ってくる。数は5人ほど。


「うーん、ルナが言った通りになっちゃった」

「アリア、そんな間の抜けたことを言ってないで早く構えてください!」

「うん、分かってるよ。早めに片付けようか」


 私はそう言って太股に隠していた2本の短剣を引き抜く。私が武器を構えたのを見て侵入者の内二人が襲いかかってきた。

 襲いかかってきた一人の短剣を私は受け流し、横っ腹に蹴りをいれる。短剣を振り下ろした後で隙だらけの刺客は蹴り飛ばされて壁に激突、意識を失った。

 生け捕りにしたまま捕らえて情報を吐かせるつもりだから殺さないように戦わないと。


「ウィリアムさん、多少荒事になりますけどいいですね」

「ああ、構わない。荒事になると思って君たちを読んだんだからね」

「それじゃ」


 私はウィリアムさんの言葉を受けて襲いかかってきたもう一人の刺客に向き合う。一気に懐に飛び込み、短剣を太股に突き刺した。

 私の動きが早かったのが予想外だったのか侵入者は対応できず、その場に崩れおちる。そのまま相手の顔に蹴りを入れて戦闘不能にした。 

 ルナのほうを見てみると自分に襲いかかった刺客を全員返り討ちにして気絶させていた。さすが武芸も出来る完璧な王女様。

 そしてウィリアム様も見事に襲撃者を倒していた。私が作った魔導器を使って。

ウィリアム様が持っている魔道器は起動させると魔力で刀身を形成する剣のようなものだ。 普段は持ち手の部分だけのため、持ち運びに便利なのだ。護身用になにか魔導器を作ってくれと頼まれ、制作したものである。ちゃんと武器として機能して良かった。


「アリア、そちらは終わりましたか?」

「うん。ルナ、流石だね。あの人数相手にして傷一つないなんて」

「まあ、このくらいの実力なら相手としてどうとういうことはありません。普段行っている魔物の討伐のほうが大変ですよ」


 ルナの言葉に私は苦笑してしまう。自分の友人ながら将来が末恐ろしい。


「お兄様、怪我はありませんか?」

「ああ、ないよ。二人がしっかり守ってくれたし、ルナ君の作ってくれた魔導器があったから身を守ることも出来た。しかし凄いな、この魔導器は。軽いし、きちんと威力も出ている。今後は量産を検討するに値するね」


 ウィリアム様も魔導器の使い勝手を批評しながら涼しい顔をしている。王族だからこういうことが起きるのは覚悟しているからだろうけど平民の私には理解は出来ても真似はできないな。


「さて侵入者を縛り上げておこうか。明日には王都に戻って尋問を始めよう」

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