暗雲と作戦会議

 ルナと一緒に私は彼の兄であるウィリアム様の部屋に来ていた。部屋の扉をノックすると、中から声が聞こえてきた。


「お兄様、アリアをつれてきました」

「ルナにアリアくん、来たか。入っていいぞ」


 その声に従って私とルナは部屋の中に入る。部屋の中に居たのは一人の青年だった。ルナと同じ金髪を持ち、綺麗な顔立ちで長身という人の目を引くような容姿をしている。

 彼がルナの兄であるウィリアム様だ。今の私のパトロンのような存在の一人でもある。


「二人ともわざわざ来てもらってすまない。アリアくんはルナから話は聞いているね」

「はい、おおまかには。しかしまだはっきりと誰が指示したか分かっていないとは言え、オスカー様が本当にこんな過激な行動に出るというのが私には信じられません」


 私の言葉にウィリアム様も頷いて同意を示す。


「君の意見に私も賛成するよ。しかしこれはきちんと調べた上での情報だ。まだ誰が計画したかまでは判明していないが私の暗殺計画があるということだけは確かだ」

「まあ、ウィリアム様がそうおっしゃられるのならば間違いはないのでしょうけど、このままにしておくわけではないですよね?」

「もちろんだ、私も死にたくはないのでね」

「お兄様、なにか対策でもあるのですか?」


 ルナが尋ねるとウィリアム様は不敵に笑って頷いた。


「それくらいは用意するさ。しかし相手も動くんだ、この際その暗殺者を捕らえて首謀者まで辿りつくことはしたい。オスカーが本当に首謀者なのかもね」

「しかしそれではウィリアム様の身に危険が及ぶのでは……?」

「そのためにルナと君を呼んだんだよ」

「ではお兄様の考えた対策をお聞かせください」

「そうだな。まず私は一週間程王都から離れ、所有している別邸のほうで療養するという情報を流す。この時私は本当に限られた人間しか連れていかないということも付け加えてだ」


 ウィリアム様はそこで言葉を区切ると私達のほうを見た。


「しかしそれは相手を誘き寄せるための偽情報だ。こちらは最強の護衛を連れていく。……それが君達二人だ」

「……つまり私達二人のことは伏せて狙うには絶好の機会をわざと作るということですか?」

「そうだ。二人の実力は信頼できる。なにせアリアくんは学年の武術の授業で優秀な成績を納めているし、ルナは……この国最強の神聖術の使い手だからね」


 嫌なことを思い出させてくれる。剣の腕に関しては親二人が冒険者で叩き込まれたからそこそこだったに過ぎないのに。あまりに学園の貴族の連中が弱すぎて倒してしまったからしばらく話題の中心になってしまった苦い記憶が私にはあるのだ。


「お兄様の考えは分かりました。その作戦は効果がありそうなので私も反対ではないのですが万が一のことを考えてお兄様自身も身を守れるようにしておいては欲しいと思います」

「それなら問題ない。ここには稀代の天才がいるのだから」


 ウィリアム様はそう言って私のほうを見る。


「はあ……ええ、出来ていますよ。お願いがあったあの武器に関しては」

「素晴らしい。君はやはり得がたい人材だな。私の神聖術は戦いに向いてないのでね。護身用として頼んでいたあの武器がもう出来ているとは」

「ちゃんと起動するのも確認済みです。すぐにでも使えますよ」

「凄いな。この後部下に取りに行かせるから渡してくれ」

「了解しました」

「よし、では作戦は今私が話した通りだ。二人ともよろしく頼むよ」

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