第243話 帝都のギルドマスター

 翌日。


 カメリアの作ってくれた朝食を摂りながら、本日の予定をみんなと話す。


「それじゃあ今日も街の外に行く——でいいのかな?」


「わたくしは異存ありません」


「ノイズも問題ないです!」


「頑張って薬草を採取しますね」


「しっかりマーリン様の言うことを聞くのよ? ソフィア」


「私はマーリンさんに教えてもらった料理の練習でもしておきますね。帰ってたらすぐに食べられるように、取り置きも作ります」


「うん、ありがとうカメリア」


 どうやら全員問題ないらしい。


 こくりと頷いたアウリエルやノイズたちを見渡し、僕は席を立った。


 準備を整えて、今日はソフィアとアウリエルの二人を連れて外に出る。


 一応、何か情報がないかと冒険者ギルドに寄っていく。




 ▼△▼




 宿を出て通りを抜けると、大きな建物——冒険者ギルドの入口が見えてきた。


 出入りする他の冒険者たちを見ながら中に入ると、何やら室内は賑やかな様子だった。


「? 受付のほうに沢山並んでいますね」


「全員、冒険者でしょうか?」


 アウリエルの疑問の声にソフィアが首を傾げる。


 僕も視線の先を確認。ざわざわと複数の冒険者たちが騒いでいた。


「なぁ! いつになったら街の外にいる死霊系モンスターを狩り尽くしてくれるんだ?」


「早く倒してくれねぇと、まともに依頼が請けられねぇよ!」


「高位の冒険者はいないの? ランク2とか1の冒険者がいるはずでしょ!」


「上位個体が出たかもしれないんだ、さっさと討伐してくれよ!」


 これは……。


「会話を聞くかぎり、みんな死霊系モンスターには困ってるようだね」


 誰も彼もが同じ話を受付の女性にしていた。


 渋滞する死霊系モンスターの話に困惑を隠せない女性従業員。


 彼女に何を言っても困らせるだけだとなぜ解らないのか。


 声をかけて止めるべきか悩んでいると、二階へ続く階段から一人の女性が下りてきた。


 能面みたいな無表情をぶら下げ、氷のように冷たい声で集まった冒険者たちに告げる。




「——静かにしなさい」




 シィンッ。


 謎の黒髪の女性が声を発した瞬間、あれだけうるさかった冒険者たちの勢いが嘘のように消えた。


 ゆっくりと冒険者たちは声の主を見る。


 どこか恐怖の色が彼らの顔には滲んでいた。


 騒いでいた冒険者の一人が、震える声で呟いた。


「ぎ、ギルドマスター……帰っていたのか」


 ギルドマスター?


 その言葉に僕は首を傾げた。


 恐らく階段から下りてきた女性を差しているんだろうが、彼女がこの帝都の冒険者ギルドを任されているギルドマスターなのか?


 外見年齢はお世辞にも高くない。高校生以下、中学生くらいにすら見える。


 前世で地雷系と呼ばれていた服に似た物を着ている。張り付いた真顔は、薄幸ささえ感じた。


 不思議と不気味なオーラをまとう子だ。


 本当に荒くれ者たちが集まる冒険者ギルドのギルドマスターなのかな。


 まじまじと彼女を見つめていると、ふいに謎のロリは視線をこちらに向けた。


 誰もでもない、僕の顔を確かに見つめる。


「ッ⁉」


 まさか見られるとは思っていなかった。


 僕はびくりと肩を震わせ、視線を逸らさずに固まる。


 すると彼女のほうから視線を逸らした。もう一度、正面奥に見える複数の冒険者たちを視界に捉え、口を開く。


「あなたたちの不満は連日のように届いているわ。何度も言わなくても解る。いま、帝都近隣に発生した死霊系モンスターに関しては、対処を考えているわ。もう少しだけ待ちなさい」


 それ以上の文句は認めない、と言わんばかりに彼女の瞳がわずかに細められる。


 直後、彼女の話に耳を傾けていた冒険者たちが一斉に生唾を呑み込んだ。


 反論はない。


 それを確認すると、彼女はまたしても僕を見た。ちょいちょいっと右手の人差し指で「こっち来い」のジェスチャーを。


 僕は困惑する。


「え? ぼ、僕?」


「あの方が見てるのはマーリン様のようですね……後ろや周りに、他に人はいません」


「アウリエルかソフィアの可能性は?」


「どちらかと言うとマーリン様である可能性のほうが高いかと。それに……わたくしやソフィアさんであっても、一緒に行かざるを得ないでしょうね」


「だ、だよねぇ」


 多くの冒険者たちの前であんな真似されたら、彼女の誘いに応えないわけにはいかない。


 周りにいる冒険者たちからの視線も凄いし、肩をすくめて諦めた。


 アウリエルとソフィアを連れてロリっ子ギルドマスターの下へ。


 彼女は満足げに視線を逸らし、また階段を上がっていった。その背中を追いかける。


 果たして彼女は僕になんの用があるのか。こういう時、大抵いい思い出がないのは僕のせいだろうか?


 わずかに木製の階段を軋ませながら、二階——恐らくギルドマスターの部屋があるフロアへと足を踏み入れた。

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