第242話 今後の方針

「それにしても……本当にいまの帝国近隣には、死霊系モンスターが多いらしいですね」


 ソフィアの話を聞いていたアウリエルが、口に手を当てて何かを考える。


「そうだね。今日は死霊系モンスターとしか遭遇しなかったし、たぶん、周りのモンスターが軒並み駆逐されている。このままだと、死霊系モンスターばかりが蔓延っちゃうんじゃないかな?」


「そうなんですか? マーリンさんがたくさん倒してくれたので、ノイズはてっきり数が減っていくと思ってましたが」


「死霊系モンスターが異常に数を増やしている場合、前に言ったリッチの存在が疑われます」


「リッチ……確か、死霊系モンスターの中でも上位の個体?」


「はい。よく覚えていましたね、ノイズさん」


「えっへん! ノイズは冒険者活動やモンスターに関しては忘れないのです!」


 アウリエルに褒められ、ドヤ顔で胸を張るノイズ。しかし、完璧に覚えていたら疑問符は付かないと思うぞ。


 まあ、本人が嬉しそうだから余計なことは言わないが。


「ふふ。そのリッチがいると、死霊系モンスターが増やされてしまうんです」


「し、死霊系モンスターが増える⁉」


 この話、前にもした気がするけどそれもツッコまない。


 微笑ましい表情でノイズを見守る。


「なので、悠長に構えていると、討伐する数より増える数のほうが勝って酷いことになる可能性はありますね」


「ひ、酷いこと……」


「リッチのせいで国が滅んだ——なんて話もしましたしね」


「じゃあまずいです! このままだと帝都が!」


 がたん、と椅子を倒してノイズが立ち上がった。


 僕はくすりと笑って諫める。


「落ち着きなよ、ノイズ。いますぐにどうこうなる話じゃない」


「マーリン様の仰るとおりです。それに、まだリッチが現れたと決まったわけじゃありません。リッチ以外にも死霊系のモンスターには上位の個体がいますし、可能性の話をしたらキリがないですよ」


「はっ⁉」


 そうだった、と言わんばかりにノイズが落ち着きを取り戻す。


 倒れた椅子を元に戻し、ゆっくりと腰を下ろした。


「まあ、ノイズの言うように注意は必要だけどね。今後も街の外に出るなら」


「うぅ……いまの話を聞いた後だと、死霊系モンスター以外とはあまり戦えそうにありませんね」


「すでに他のモンスターたちが死霊系モンスターに倒されているか、追いやられているなら、ノイズさんには厳しい状況ですねぇ。わたくしと待機を代わりますか?」


「それがいいかもしれないね」


 現状、ノイズは死霊系モンスターに対抗できる術を持たない。


 それなら、街中で待機しているカメリアとエアリーの護衛に回したほうがいいだろう。


 アウリエルなら僕と同じ聖属性魔法が使える。個人的には、治療できる彼女を護衛側に回したいが、ノイズがいてもしょうがないのは確かだ。


 金はあるし、最近、ソフィアは錬金術にも興味を示している。回復薬は余るほどあった。


「残念ですぅ。でも、足を引っ張るのはよくない! 大人しく自宅待機します」


 ノイズはこくりと素直に頷いた。


 本当は外で走り回ってたくさんのモンスターと戦いたかっただろうに。


 僕は彼女に近づき、頭を撫でながら言った。


「こんな状況だし、リッチみたいな奴を倒したら早く帝都を出ようか。王都へ帰る道すがら、モンスターを倒していくのも悪くないだろうしね」


「マーリンさん!」


 ふりふりふり。


 ノイズの尻尾が激しく左右に揺れていた。


 ビースト種の感情表現は解りやすいなぁ。


「ふふ。ちゃんとこの状況を解決してから帰るのがマーリン様らしいですね」


 エアリーがくすくすっと笑う。


 ソフィアやアウリエルもその意見には同意だった。


 僕はやや気まずくなる。


「そ、そうかな? 帝都の人たちだって迷惑してるだろうし、解決できるなら見逃せないよ」


「では、そんなマーリンさんのために、私が腕によりをかけて美味しい物を作りますね!」


「ん? またカメリアが作ってくれるの?」


「はい! それくらいしか私は役に立てませんから」


「そんなことないよ」


 今度はカメリアの頭を撫でる。


 彼女は頬を赤くして照れていた。


「カメリアの料理は、君が思う以上に僕たちを支えている。生き物は基本的に食べないと死んじゃうんだ。食は大事で、美味しいも大事」


「そうですそうです! ノイズは美味しくない食べ物は嫌なのです!」


「ほら、彼女もああ言ってるし」


 それに、カメリアには今後無限の可能性がある。


 聞いたところによると、料理に特殊な加護を付与できるスキルもあるんだとか。


 それがもし覚醒したら、もっともっと彼女は頼もしくなるだろう。


「え、えへへ……皆さんありがとうございます。今日も皆さんが満足できるような料理を作りますね!」


 すっかり気分をよくしたカメリアは、やる気を漲らせて部屋を出ていった。


 おそらく一階の厨房を借りにいったのだろう。


 ここは食事も摂れる場所だが、材料費や使用料などを払えば厨房を借りることもできるはずだ。


 いままで借りられなかった所はない。


 やはり金の力は偉大だった。

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