第241話 気まずいなぁ
モンスターを倒しながら森の奥へと入っていく。
道中、街中で聞いたとおり複数の死霊系モンスターと遭遇した。
ノイズの苦手なゴーストまで姿を現し、僕がほとんど倒すことになる。
「うぅ……死霊系モンスターは本当に嫌いですぅ。倒せないからストレスが溜まります!」
ぶんぶんと怒りを表すように尻尾を立てながら、ノイズがぐるると唸っていた。
僕は彼女の頭を撫でながら、
「どーどー。今回ばかりはしょうがない。たぶん、死霊系モンスターのせいで他のモンスターも狩られてるっぽいし、ノイズはお休みかな?」
「くうん……踏んだり蹴ったりですぅ」
「まあ、帝国にはまだ滞在する予定だし、また何度でも外に出ればいいさ」
「! ありがとうございます、マーリンさん!」
ぱぁっとノイズの表情が明るさを取り戻した。
今度は違う意味で尻尾が激しく動く。
すると、僕たちの会話を聞いていたソフィアが、両手いっぱいに薬草を抱えて戻って来た。
「マーリン様、この薬草をお願いします」
「はい、任されました」
ソフィアから渡された薬草を素早くインベントリの中に入れる。
「それにしても……なぜ急に死霊系モンスターが増えたんでしょう? 本当に、この辺りにリッチや上位種が生息しているとか?」
「その可能性は高いね。日中にも関わらずゴーストやゾンビが平然と歩き回っていた。できれば遭遇したくないけど、そういう時にかぎって顔を合わせるんだよねぇ」
「い、嫌な経験則ですね……」
そう言いながらもソフィアの顔色は悪かった。
これまで、僕たちは何度も危険な状況に陥っている。
ある時は魔族に襲われたり。ある時は王都が襲撃され犯罪者たちに襲われたり、ある時は魔族に襲われたりと……正直、悪運の強さは尋常じゃない。
おまけに今回はアウリエルが傍にいない。この状況で何かしらの問題に遭遇したら、アウリエルではなく僕が悪運を引き寄せていると思われる。
それはできればやめてほしいな。
「でも、そろそろ陽が傾いてきます。街に帰らないと門が閉まりますよ、マーリンさん」
「確かに。ソフィアの薬草採取もキリがいいし、早めに帝都へ戻ろうか」
「解りました」
ノイズの言葉に僕が提案をし、最後にソフィアが頷いて帰路に着く。
不安な道のりとは裏腹に、——僕たちはその後モンスターと遭遇することなく街中へ入ることができた。
▼△▼
「——あ、おかえりなさいませ、マーリン様」
冒険者ギルドにて依頼達成の報告をしてから仮宿に戻ると、タイミングよく廊下でアウリエルと顔を合わせた。
「ただいま、アウリエル。二人は?」
「わたくしの部屋にいますよ。先ほどまで仲良く談笑してました」
「へぇ。どんな話?」
「主にマーリン様についてですね」
「ぼ、僕?」
話を振っといてなんだが、これ以上聞いたらまずい気がしてきた。
「はい。わたくしたちの恋人がいかに素敵か。素晴らしい存在かを語っていました。よければ内容を聞いていきますか?」
「い、いや! 遠慮しておくよ。僕たちは冒険で疲れているからね……」
ニコニコと微笑むアウリエルから視線を逸らし、気まずい思いで自室に逃げ込んだ。
「もう。冗談ですよマーリン様。ローブを脱いでわたくしの部屋に来てください。二人ともマーリン様がいなくて寂しかったと思いますから」
扉の外から聞こえてきたアウリエルの声に、僕はくすりと笑って返した。
「アウリエルは?」
「わたくしですか? もちろんマーリン様の帰りを心待ちにしていましたよ。いますぐ襲ってしまいたいくらいに」
「か、勘弁してください……」
いま襲われたら僕の体力が本当に底を尽く。
「ふふ。それも冗談です。ではまた後で」
アウリエルの気配が遠ざかっていく。
僕はふぅ、とため息を漏らしてからローブを脱ぐと、数分ほど窓の外を眺めて部屋を出た。
アウリエルの部屋をノックし、中に入る。
すでにソフィアとノイズは部屋の中にいた。あの後、アウリエルに続いて部屋の中に入ったらしい。
「ずいぶん早かったですね、マーリン様」
「ローブを脱ぐだけだからね」
「それもそうですね。どうぞおかけになってください。お茶を用意します」
「それくらい僕がやるよ」
「任せてください。お仕事を終えた旦那様を労わるのも妻の仕事です」
「僕は旦那じゃないし君も妻じゃないでしょ」
「いずれそうなるのですから、遅いか早いの違いです」
「……」
確かにそのとおりなんだからなんとも言えない気持ちになった。
僕のその反応に、アウリエルは満足そうに笑う。
素直に、大人しく席に座った。
その際、ソフィアがエアリーに告げる。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん」
「ん? どうしたの、ソフィア」
「今日ね、本当に死霊系のモンスターがたくさん出たんだ。それしかいなかったくらい」
「そうなの? 大丈夫だった?」
「うん。マーリン様が聖属性魔法スキルで全部倒してくれたから」
「さすがマーリン様。安心して妹を預けられますね」
「それほどでもないさ」
にこりと笑って謙虚に返す。
ソフィアは姉へ今日あったことを話した。その内容には僕やノイズも含まれるため、自然とお茶を持ってきたアウリエルも混ざってみんなで談笑を始める。
やっぱり話題の中心は僕だった。
少しだけ気まずいのは秘密だ。
———————————
あとがき。
新作投稿したよ~。
『冤罪で追放された元悪役貴族は、魔法で前世の家電を再現してみた~天才付与師はスローライフを所望する~』
毛色の異なる悪役転生もの?だからよかったら読んでね!
応援してくれると嬉しいどす!
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