第225話 盛り上がるヒロインたち

「ぐあぁぁぁッ!!」


「お、俺の腕がぁ!?」


「誰か助けてくれぇッ」


 次々に盗賊たちに悲鳴が響く。


 まるで歌うように彼らは叫んでいた。


 地面を這い蹲り、惨めに逃げようとする。


 だが、そんな速度じゃ僕からは逃げられない。


 足許に転がる男の一人を踏みつけると、残ったモヒカン軍団に告げる。


「さて……これで残るは君たちだけだ」


「ぐっ!」


「あの人たちがあんな簡単にやられるなんて……!」


「運が悪かったね。もう少し利口だったら生き残ることができたかもしれないのに」


 人にダル絡みするからこういう目に遭うんだ。


「ちなみに、君たちはなんで僕を狙ったのかな? 本当に遺恨があったから?」


「そ、そうだ! 俺たちはお前に恥をかかされたから……」


「そんな理由でこんな目に遭うんだ……自らの愚かしさを悔やんだほうがいい」


 男の背中から足を離す。


 モヒカン軍団の下へゆっくりと歩み寄った。


 モヒカンたちは逃げない。恐怖で体が硬直し、動けなくなっている。


「せっかくだし、どうなりたいか聞いておこうかな」


「ど、どうなりたい?」


「骨を折られるか。斬られるか、焼かれるか。味わいたい痛みを好きに選択してくれ」


「まっ、待ってくれ! 許してくれ!! もうお前たちには絶対に手を出さない! この通りだ!」


 モヒカンの一人が勢いよくその場で土下座する。


 他の仲間たちもそれに倣って頭を下げた。


「痛みを味わいたくないと?」


「あ、ああ……もう抵抗しない。大人しく捕まるから、頼む……!」


「ふむ……分かった」


「! 助かっ——」


「——嘘だよ」


 モヒカンの一人の腕に手を添える。


 力を込めて骨を砕いた。


「ぎゃああぁぁぁ!?」


 骨を砕かれた男は、暴れ回りながら地面を転がる。


 悲鳴と地面を擦る音が組み合わさって不快な音を奏でていた。


「どうしてこれまでの行いを顧みて、自分たちが許されると思っているんだろうね。理解できないよ」


 たとえここで僕が許しても、彼らがやってきた行いは許されない。


 わざわざ僕が気に喰わないだけで犯罪者を雇う連中だ。前から似たようなことをしていたんだろう。


 あの犯罪者たちとの会話から察するに、付き合いも長そうだし。


 だから僕は彼らを許さない。


 これまで被害に遭ってきた人たちのためにも、できるだけ苦しみを与えようと思った。


「悪いけど、容赦はしない。絶対に痛みは与える。君たちができるのは、ただただ自分の行いを後悔することだけだ」


 逃げようとした男たちの脚に、聖属性魔法スキルで生み出した光の弾丸を放つ。


 機動力を潰された男たちは地面を転がって逃げられなくなった。


 そこへ僕が近付き、刑を執行する。


 森の中に複数の悲鳴が響き渡った。




 ▼△▼




 馬車を襲撃しようとした盗賊たちを拘束する。


 一人も殺しちゃいないが、一人として無事な奴もいない。


 紐で縛りあげ、荷台の奥に突っ込んでから、はたと気付く。


「——あ」


 まっずい。


 僕、かなりやりすぎていたのでは?


 アウリエルたちが犯される、と聞いたあたりから割とプッツンいってた。


 普段は温厚な僕も、彼女たちが関わると容赦がなくなる。


 アウリエルやノイズはともかく、ソフィアやカメリアの前であんなことしたら……引かれるんじゃないだろうか?


 恐る恐る手伝ってくれた彼女たちのほうへ視線を向ける。


 すると、彼女たちは何やら集まってこそこそと話をしていた。




 ▼△▼




 マーリンがアウリエルたちからの印象を心配する中、アウリエルたちは先ほどの件で話をしていた。


「皆さん……先ほどのマーリン様、どうでしたか?」


 単刀直入にアウリエルが訊ねる。


 真っ先に反応したのは、ノイズとエアリーだった。


「とっても素敵でした……! まさか、自分たちのためにあそこまで怒ってくれるなんて」


「ノイズさんの言う通りです。守られる側はいつでもキュンキュンしますね」


「私も……最初はびっくりしたけど、凄く嬉しかった……」


「愛されてるって感じますよね」


 ノイズとエアリーの言葉に、ソフィアとカメリアもうんうんと頷いた。


 それを見てアウリエルは笑う。


「怖がってる方がいなくてよかったです」


「怖がる? マーリン様を?」


「先ほどのマーリン様は容赦なかったですからねぇ……一人も五体満足の方がいません」


「当然ですッ! ノイズたちに酷いことしようとしたんですから!」


「そうですよ! マーリン様は正しいことをしました。決して怖くありません。むしろ嬉しくて嬉しくて困っちゃうくらいです!」


 ノイズとソフィアがグッと拳を握り締める。


 くすくすとアウリエルはさらに笑う。


「ふふ。それなら結構。もしかするとマーリン様が気にするかもしれませんし、皆さんでマーリン様を褒め称えましょう」


「マーリン様を?」


「あの方はわたくしたちを心の底から気遣っています。きっと、やりすぎたと思うはずですよ、エアリーさん」


「じゃあそれを否定してあげればいいんですねッ!」


 ノイズが的を射た。


 瞳を輝かせてマーリンの下へ向かう。


「マーリンさん——! とってもカッコよかったです!!」


「おわっ!? の、ノイズ!?」


「あらら……ノイズさんったら、勢いが良すぎますね」


「でも、私たちもあれくらい積極的なほうがいいかもしれませんね」


「たしかに」


 エアリーの意見にアウリエルは同意を示す。


 そして彼女を先頭に、残りのメンバーたちもマーリンの下へ向かった。

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