第224話 盗賊?たち

 僕たちを乗せた馬車がゆっくりと次の町を目指して移動する。


 またしても大型の馬車だ。


 手足を伸ばしても誰の迷惑にもならない。


「次の町は普通だといいですね」


 僕の手を握りながらアウリエルが言った。


「うん。冒険者ギルドはないらしいけど」


「ガーンッ。ノイズは何を楽しみに行けば……」


「食事とか? ノイズは食べるのも好きだろ?」


「たしかにッ! ノイズはたくさんお肉を食べたいのです!」


「お肉かぁ……肉はどこでも食べられるし、何か珍しい料理とかにすれば?」


「珍しい料理、ですか?」


「そ。まあ、次の町は平凡な町みたいだから期待薄かな」


 特産品とかあれば話は違うんだろうが、たぶん何もないと思う。


 ノイズにとってはつまらない場所かもね。


「でもでも! ノイズはお肉食べられれば嬉しいですよ!」


「あはは。安上りだね」


 ノイズは良い子だ。


 あんまりワガママ言わないし、嫌いものもほとんどない。


 こうして空気を盛り上げてもくれるし、欠かせない存在だ。


「わたくしも退屈ですわ。次の町には教会がないらしいので」


「よく知ってるね、そんなこと」


「事前調査は完璧です。ふふふ」


「さすが信者様……」


 僕としては教会がないのは朗報だね。


 神様に祈るだけなら心の中でも充分だ。


 勇者の称号を取ってくれるなら、喜んで教会でもなんでも行くけど。




「私は珍しい物が食べたいので、早く帝都に着くと嬉しい——」


「——ひゃっはあぁぁぁ!! そこの馬車止まれぇ!!」




 カメリアの台詞を遮るように大きな男性の声が聞こえた。


 馬車が停まる。


「なんだ? いまの声……」


「もしかして盗賊ですかね? 冒険者がいないからと狙ってきたのでしょうか?」


「だとしたら浅はかな……護衛がいないってことは、乗ってる人が戦えるってことなのに……」


 アウリエルの推測にエアリーが深いため息を吐く。


 僕たちはひとまず相手の顔を拝むために荷台から降りた。


 すると、正面の道を塞ぐように複数の男性たちが周りに展開している。


 たぶん、アウリエルの予想通りだね。


「——って、あれ? あの特徴的な髪型は……冒険者ギルドで僕に絡んできた男たちだ」


「本当ですね。まさか盗賊くずれだったとは……」


「誰が盗賊だ! 俺らは舐められたまま終われねぇんだよぉ! ここでお前らをボコボコにしてあの時の屈辱を晴らす!」


「それが盗賊まがいの行いだっての……ハァ。つくづく、あの町の冒険者たちは終わってるね」


 彼らの責任であって他の冒険者たちは関係ないが、イメージが悪い。


 全体的にこんな感じの馬鹿ばっかしかいないようが気がする。


「黙れ! てめぇの目の前で女共を犯してやらぁ!」


 次々に賊たちが武器を構える。


 前はいなかった手練れっぽい連中がいるね……僕を倒すためか。


「しょうがない……みんな下がってていいよ。ここは僕がやる」


「マーリン様が?」


「うん。相手の数が多いし……何より、ちょっとカチーンときた」


 僕の前でアウリエルたちに手を出す——なんて言われて、黙っていられるはずがない。


 一歩、また一歩と前に歩み、盗賊たちの前に出た。


「あぁん? こいつがお前らの言ってた超強い男か?」


「ええ。そいつを倒せれば後は女だけ。頼みますぜ!」


「チッ。見るからに雑魚じゃねぇか。こんな奴に苦戦するとは、お前たちも弱くなったもんだな」


 男の一人が僕の傍に近付いてきた。


 頭にバンダナを巻いた男だ。


 手にした剣を僕に向ける。


「おいてめぇ。あいつらが勝てないくらいには強いんだろ? けどなぁ、俺はもっと強い。痛い目に遭いたくなきゃ、尻尾巻いて逃げることをオススメするぜ?」


「俺を殺さなくていいのか? そういうお願いなんだろ?」


「ああ。でも面倒事はなるべく避けたいだろ? 分かったらさっさと消えろ」


「断る」


「あ?」


「だから、断る。彼女たちには手を出させないし、僕は君たちを許さない。死なない程度に怪我させるけど——いいよね?」


「……ハァ。たまにいるんだよな、自分の実力を過信した馬鹿が」


 バンダナの男は深くため息を吐いた。


 次いで、右手に持った剣を振る。


「もういい。死ね」


 剣身が俺の首を捉えた。


 攻撃が当たる。


 ——キィンッ。


 バンダナ男の剣が、僕の首に当たる前に止まる。


 僕は彼の剣を片手で摘まんでいた。


 指の力だけで男の攻撃を止める。


「なっ!? て、てめぇ……」


「分かったかな? 実力を過信していたのは……君のほうだよ」


 空いてる左手で男の腹を叩いた。


 かなり力加減をしたが、男はあっさりと後ろに吹き飛ぶ。


 木の幹にぶつかって地面に落下すると、二度と立ち上がることはない。


 意識を手放していた。


「一撃か……鑑定スキルでレベルを見てたから分かってたけど、——弱いね」


 摘まんだままの剣を地面に放り投げる。


 さらに前に歩き出すと、残った盗賊たちがびくりと肩を震わせる。


「な、なんだあいつ……たった一撃でお頭を……」


「あ、いまの君たちのリーダーだったんだ。弱いから区別できないな」


 レベルにそんな差はない。


 たぶん性格とかで選ばれたリーダーなんだろうね。


 とにかく、僕は拳を握り締めて言った。


「とりあえず……全員、骨折くらいは覚悟してね?」


 一人も逃す気はないよ、僕。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る