第223話 外はまずいって!
馬車が並ぶ乗り合い所にやって来た。
そこで空いていた大きな馬車の席をすべて予約すると、御者のおじさんは喜んだ。
やっぱり一番大型の馬車は人気がないんだね。
全員で馬車の荷台に乗り込むと、御者のおじさんが「お客さん荷物は?」と訊ねて来たので、「アイテムボックスに入れてます」と答えた。
おじさんは驚いていたが、アイテムボックスくらいもう普通のスキルのように感じている。
ソフィアたちによると結構レアなスキルらしいが。
「ではお客さんたち、出発までもう少々お待ちくださいね」
「分かりました」
御者のおじさんは他の御者の人たちと時間の調整をしに馬車から離れた。
その間に僕たちは次の町の事を話し合う。
「次の町はどんな所だろうね」
「わたくしが前に調べたかぎりだと……正直、何も特徴がない町ですね」
「特徴がない?」
「ええ。この町以上に何も。ただ人口はそこそこ多く、商業に力を入れてるようですよ」
「なら商いの町かな?」
「いえ、そこまで規模は広くありません。あくまで住民たちが便利な程度かと」
「ふーん……なら、その町もすぐに超えていこうか。次の次くらいが帝都かな?」
「はい。この地図によるとそのようですね」
そう言ってアウリエルが懐から一枚の地図を取り出した。
彼女が用意してくれたこの世界の簡易的な地図。
基本的に三つの国の地理などが記されていた。
「もうすぐ帝都ですかぁ……楽しみですねぇ」
エアリーからの説教を終えたソフィアが、視線を荷台の天井に向けて妄想に浸る。
たぶん、帝都に売ってるであろうたくさんの本を夢見ているに違いない。
「帝都の冒険者ギルドはさすがに期待してますッ。依頼とか受けてもいいですかね、マーリンさん!」
「いいよノイズ。帝都にはしばらく滞在する予定だからね。時間を作って一緒に魔物討伐でもしようか」
「私は薬草採取がしたいです。この本に載ってる薬草がたくさん採れるかも……!」
「では私がソフィアの護衛ですね」
「もちろんマーリン様がいく所にはわたくしも。ふふ。楽しみですわ」
ノイズの提案を僕が受け入れ、それに三人の女性たちが反応を示す。
ソフィア、エアリー、アウリエルの順番で喋る。
「薬草採取は大事だね。エアリーがいてくれるなら安心だ」
「お任せください。ソフィアもマーリン様も私が守る……といつか言いたいです」
「充分に強いよ、エアリーは」
魔物を操るスキルだってあるし、後はレベルを上げればどんどん成長していくだろう。
「わたくしは逆にマーリン様に守られたいですけどね。お姫様のようですし」
「何度も守ってるしアウリエルはお姫様だろ?」
「マーリン様だけのお姫様になりたいんです! それが乙女心でしょう?」
「乙女心……そうだね。でも、アウリエルは僕だけのお姫様だよ、とっくに」
言葉通りの意味でね。
「マーリン様……キュンッ!」
あ、まずい。
アウリエルの瞳に一瞬だけハートマークみたいなものが見えた。
背筋が冷たくなる。
同時に、アウリエルが席を立って僕を見下ろした。
ふしゅー、ふしゅーと鼻息が荒い。
「あ、アウリエルさん……?」
「ぎょ、御者の方が戻ってくるまでに済ませますから! 何卒、ご慈悲を!」
「何をするつもりだい!?」
まさかこんな人目のある所でおっぱじめるつもりじゃないだろうね!?
「だ、大丈夫です……エアリーさんたちが隠してくれれば——」
「ダメに決まってるじゃないですか」
暴走寸前のアウリエルをエアリーが後ろから羽交い締めにする。
「え、エアリーさん!? 放してください! わたくしの邪魔をしないでくださいぃぃ!!」
じたばたとアウリエルは暴れる。
だが、アウリエルは遠距離攻撃タイプの魔法使い。
剣を使って戦うエアリーより筋力は劣っていた。
あっさりと押さえ込まれて席に座らされる。
「抑えてください、アウリエル様。そういう事は宿でやらないと。いくらなんでも恥ずかしいです」
「うぅ……わたくしの滾る想いが……」
「本当にエアリーの言う通りだから。我慢してね、アウリエル」
「分かりました……続きは次の町の宿で行いましょう」
「その際は私も混ぜてくださいね」
「の、ノイズもやりまーす!」
「お姉ちゃんと一緒に私も……」
「私も混ぜてほしいなぁ……なんて」
アウリエルの注文に他の子たち全員が乗ってきた。
エアリーもノイズもソフィアもカメリアもやる気満々だ。
僕……次の町で干からびたりしないよね?
精のつく物を用意しないといけないな。
そう思いながら戦々恐々としていると、馬車の御者が戻って来た。
「お客さんたち、そろそろ出発します。忘れ物はありませんか?」
「大丈夫です。よろしくお願いしますね」
時間にして数十分。
他の馬車が客を乗せている段階で僕たちを乗せた馬車は出発した。
西門を抜けてさらに西へと向かっていく。
▼△▼
マーリンたちが町を出て移動している時。
森の中に潜む複数の男たちが、武器を手に下卑た笑みを浮かべていた。
「ひひひ。あいつらもそろそろここを通る頃だぜ……絶対に、昨日の恨みは晴らしてやる!!」
男たちの中に、数名のモヒカン野郎がいた。
その瞳は、酷く殺意を漲らせている——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます