第226話 秘密は秘密
襲いかかってきた盗賊たちをボコボコにして馬車の荷台に乗せる。
道中うるさいとアウリエルたちが困るだろうから、全員の意識は逐一飛ばしている。
え? 下手すると死ぬ?
その時はその時だ。
命を狙ってきた盗賊が死のうと生きようとあんまり興味がない。
彼らを生かして連行するのは、あくまでアウリエルたちに人死にを見せたくなかったからだ。
最悪、死んでも問題ない。
「マーリン様は相変わらずお強いですね」
「急にどうしたの、アウリエル」
「急ではありません。普段からマーリン様の強さには舌を巻きます。本当にどうしてそれほどの強さを……」
「ある日、突然神様に力を授かった——って言ったら、君は信じるかい?」
「信じます」
間髪入れずにアウリエルは答えた。
優しく微笑んだ表情に一片の曇りもない。
「即答すぎない?」
「マーリン様ですからね。天上の主に特別な役割と能力を授かっていても不思議じゃないです」
「ッ」
図星だった。
能力はもちろん、勇者の称号を得ている。
前者はともかく、後者の称号はまったく必要ない。
僕には宝の持ち腐れだ。
「あ、アウリエルは僕のことを過大評価しすぎているよ。たまたま容姿が神様に似てるってだけで、特別な役割なんて全然……」
「果たしてどうでしょうかね」
彼女は不敵に笑った。
「マーリン様は明らかに特別です。その容姿と圧倒的な実力は、他に聞いたことがないほどに」
「ぐ、偶然だよ……偶然」
「汗が出ていますよ、マーリン様」
「むぐッ」
こんな時は無駄に鋭いなアウリエル。
普段から僕のことをよく見ている証だ。
嬉しいような、辛いような。複雑な気持ちを抱く。
逃げるように視線を彼女から逸らした。
そんなことをすればより疑いは強まると言うのに。
「——なんて。冗談ですよ、マーリン様」
くすくすと隣からアウリエルの笑い声が漏れる。
彼女は口元を手で覆いながら続けた。
「アウリエルの冗談は分かりにくいよ……」
「でもでも、ノイズも不思議に思います! マーリン様の力の秘密!」
「力の秘密? そんなものないからなぁ……頑張ってレベル上げ。それしかないさ」
ノイズに詰め寄られるが、当たり障りない返事しか返せない。
転生しろって言えないし、ノイズに転生してほしくもない。
僕はワガママだ。彼女たちと離れたくない。
願わくばこんな風に平穏なスローライフをして過ごしていたい。
「レベル上げ……。いつか私たちもレベルを上げれば、マーリン様の隣で戦うこともできますかね?」
「もちろんだよエアリー。そのための協力は惜しまないつもりだ。みんなで強くなっていこう」
「わ、私はあんまり強くなることには興味ありませんけどね……あはは」
「カメリアは料理の腕だね。期待してるよ」
「はい! お任せください! 料理だけは誰にも負けない——ようになりますッ」
グッと握り締められたカメリアの拳。
彼女のやる気を見ているとなんだか微笑ましい気持ちになる。
その後もアウリエルたちと会話を交わし、のんびりと次の町を目指した。
▼△▼
朝から夕方になるまで馬車での旅は続いた。
世界がオレンジ色に染まる中、前方に次の町を囲む外壁が見える。
しばらくすると馬車は正門の前に停まり、そこで身分証明などを見せてから盗賊たちを引き渡した。
この世界だと盗賊たちは情報をある程度引き出されたら処刑される。
問答無用だ。
結果的に死ぬなら道中で殺してもよかったが、やっぱりアウリエルたちにグロいのはちょっと……。
そんなわけで盗賊たちを兵士に引き渡し、僕たちは僕たちで泊まるための宿を探しに町中を歩く始める。
「ここが帝国領にある次の町ですか~。前の町とあんまり変わりませんね」
「特徴がないって話だったからね。意外と町なんてそんなもんじゃないかな?」
きょろきょろと周りを見渡すノイズ。
彼女も落ち着きを取り戻しているのか、馬車から降りてすぐに町への興味を失っていた。
かくいう僕もあんまり興味はない。
アウリエルが言ったように、何か目覚ましいものがあるわけでもないし。
「宿はどうしますか、マーリン様」
「たくさん空いてる場所を探さないとね。場合によっては安い場所に当たるかも」
「お金はたくさんありますし、いっそのこと高い宿に泊まりませんか? 意外と利用する人はそう多くないはずです」
「この町にあるのかな、そんな宿」
「商業が割と盛んですし、一つくらいありそうですよ」
「じゃあ試しに、住民の人たちに訊きながら探してみようか」
「はい!」
意外とノリノリなアウリエルを先頭に、僕たちは広く清潔な宿を探すことにした。
急に彼女はノリ気になったが……どうしたのだろうか?
前の宿だって普通によかった。嫌気が差したってわけじゃないと思うけど……。
まあいいや、の精神でその背中を追いかける。
あちこちでアウリエルが住民たちに声をかけ、宿の情報を集めていた。
住民たちにとっては有名だったのか、宿の場所は思いのほかあっさりと見つかる。
それなりに大きな宿で、他にも利用者がいそうな感じがした。
そこへ全員で入っていく。
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