第220話 既視感

 アウリエルの要望で帝国領にある町の教会に足を運んだ僕たち。


 神像に祈りを捧げた。


 それはもうたっぷりと何度も祈りを捧げた。


 しかし、神様が僕の願いを叶えてくれることはなかった。


 前は頻繁に送られてきていた神様メッセージも、最近では一切こない。


 どうしたんですか神様? もう飽きたんですか? それとも僕の勇者の称号はいらない——という願いは叶えられませんか?


 ちくしょう。


 これはもはや呪いの類であった……。




 ▼△▼




 充分に祈りを捧げてから全員で教会を出る。


 次に向かうのは冒険者ギルドだった。


 依頼を請けはしないが、どんな依頼が張り出されているのかを見に行く。


 もちろんノイズのお願いだ。


「はぁ……! やっぱり教会のあの空気はたまりませんね。祈りをするほどに心が洗われていく……!」


「アウリエル様に同意しますッ! 私は神様に何度感謝してもしきれませんし!」


「そうね。私もおおいに感謝してるわ。いまではすっかり神様の敬虔な信者ね」


「まあまあ! ソフィアさんもエアリーさんも素敵な考えですね」


「私たちはマーリン様に救われましたから。その運命が偶然とは思えません。神様が縁を導いてくれたんだと思います」


「お姉ちゃんの言う通りだね。私なんてマーリン様に自分の命とお姉ちゃんの命、両方救ってもらっちゃったから……えへへ」


「あー……懐かしい話だね。僕とソフィアの出会いか」


 神様うんぬんの話は置いといて、僕がこの異世界に初めて転生した時のことを思い出す。


 森の中で迷子になっていた僕は、そこでゴブリンに襲われていたソフィアを助けた。


 あの時はステータスが1万だったからゴブリンを少し蹴っただけでも粉々の肉片に変えてしまった。


 本当に懐かしい。


 たしかにあれがただの偶然だと考えるより、神様の導きだと思うほうが自然ではある。


 なぜなら、僕自身がそういう力の導きによってこの世界に転生したからだ。


 それは僕しか知らない秘密ではあるけど、それだけに僕は確信を持って言える。


 神はいるのだと。


「私はその話を聞いた時、生きた心地がしなかったわ……。私のせいでソフィアに迷惑をかけていたから……」


「お姉ちゃんのせいじゃないでしょ! 病気が全部悪いんだから!」


「そうです! それに、お金に困った民を救えない王族の責任でもあります……歯痒いですね」


「王族だからって何でもできるわけじゃないだろ? アウリエルは責任を感じすぎる。もっと肩の力を抜くべきだ」


 たとえ年間でどれだけの死者が出ていようと、王族は神様でもその使徒でもない。


 同じ人間である以上、やれることに限りがある。


 その中でどれを優先してこなしていくのか。それが大事だと僕は思う。


「マーリン様……ありがとうございます。マーリン様はいつでもわたくしの味方ですね」


「恋人だからね」


「きゅんッ! いまので発情しました。宿に行きましょう!」


「落ち着いて」


 ぐいぐいっと腕を引っ張り出した彼女を止める。


 ノイズが後ろからアウリエルを羽交い絞めにしてくれた。


「ダメですよ~、アウリエル様! これから冒険者ギルドに行くんですから!」


「うぅ……残念です……」


 アウリエルはあっさりと諦めて歩き出した。


 最近、彼女は満たされているのか前より暴走することが少なくなった。


 いい傾向だ。人は満足すると成長していく。


 それが良い方向かどうかは……その人の性格によるだろうね。




 ▼△▼




 しばらく町中を歩いて冒険者ギルドに到着する。


 意外と大きな建物だった。


 アウリエル曰く、国境沿いの町には冒険者ギルドが必ずあるらしく、防衛的な意味でも割と力を入れてるとか。


 警戒してるのは魔物だけじゃないのかもしれないね。


 そんなことを思いながらも冒険者ギルド内に足を運ぶ。


 中に入ると、王都の冒険者ギルドで見た光景そのまんまが広がっていた。


 酒を飲むおっさんたち。


 露出の激しい服を着たお姉さんたち。


 美人の多い従業員。


 屈強な男たち。


 冒険者ギルドはどこでも変わらなかった。


「わぁ! ここが帝国にある冒険者ギルドですか! 王国とあんまり変わりませんね!」


 ノイズが感動してるようで当たり前のことを言ってた。


 それでも嬉しそうなんだから彼女も好きだよねぇ。


「冒険者ギルドは基本的に国に所属しているわけではないので、どこの国にある冒険者ギルドも似たような造りになっているらしいですよ」


「たしか、唯一皇国だけが国と連携してギルドを運営しているんだっけ?」


「ええ。あそこは他の国に比べて少々特殊ですからね」


「ノイズ、その皇国に行ってみたいです!」


「いやいや……まずは帝国で旅行を楽しんだらね?」


「はい!」


 ノイズは元気よく頷く。


 するとそこに、複数の屈強な男たちが現れた。


 世紀末風の……モヒカン? この世界にモヒカンなんて髪型があるのか!?


 やや特殊な髪型をした集団が、僕たちを囲んで言った。


「おうおう。かわいい子たちを連れているじゃねぇか。ちょっと俺たちと冒険しないか? 楽しい楽しい夜の冒険になぁ!」




 ……あ、これテンプレってやつだ。


 かつてセニヨンの町でもあった騒動を思い出す。

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