第218話 プチ観光
僕たち六人は帝国領にある町に到着した。
王国領に近い一番端の町ではあるが、一度も帝国領に入ったことのない僕たちからしたらそこは未知の世界。
珍しく僕を含めた全員が興奮していた。
きゃっきゃっと騒ぐ彼女たちを連れて、ひとまず宿を探す。
六人分の部屋が空いてる宿はなかなか見つからないかな? と思っていたが、意外と簡単に見つかって安堵する。
誰がどの部屋に泊まるかでじゃんけん大会が行われ、部屋割りが決まった後は観光が始まるのだった。
▼△▼
「ほ……本当によかったんですかね? 私の提案が一番最初で……」
僕の隣を歩くソフィアが、おっかなびっくりと言った。
「もちろん。みんなが異論なしってことで決まったんだ、胸を張って本を買いに行こう」
最初の観光目的はソフィアの本選びだった。
道中、周りを見渡して景色を楽しむのも忘れない。
「どうせみんなの意見は通るんだから、遅いか早いかの違いでしかないわよ、ソフィア」
姉エアリーもそう言って妹ソフィアの肩を叩く。
「う、うん。ありがとう、マーリン様、お姉ちゃん」
「どういたしまして。……それで、本を売ってる店はあるのかな? 町に一つくらいはあると思うけど……」
「本は意外と高いのであんまり店の数は多くないんですよね……ん? あそこ、あの店に本が売ってありませんか?」
「どれどれ……」
びしりとエアリーが指を向けた方角を見る。
そこにはたしかに、店前に何冊かの本が置いてあった。間違いなく売っている。
「うん。あれは本を売ってるみたいだね。ナイス、エアリー! 行こうか、ソフィア」
「は、はい! どんな本が売ってるんだろう……」
きらきらと瞳を輝かせるソフィアの手を取って、僕たちを先頭に全員でその店に向かった。
通りの壁際にある店だ。六人並んでもスペースには余裕がある。
急に団体客が来たものだから店主のおばあさんは少しだけ驚いていた。
「お……おぉ。なんだいあんたら。客かい?」
「ええ。この子に本を買ってあげたいんですが、どんな本が売ってますか?」
「この棚に置いてある本ならどれでも。いろいろあるからぜひ見てってくれ」
「分かりました!」
言われるがままにソフィアは手を上げて周りの本へ視線を落とす。
完全に意識が本に向けられていた。いま話しかけてもたぶん会話にならないだろうな。
意気揚々と本を選ぶ始めるソフィアの背中を眺めつつ、隣に並んだエアリーがくすりと笑った。
「ふふ……あの子、もの凄く楽しそうですね」
「うん。最近ソフィアは本ばっかり読んでたから、完全に趣味になっちゃったね」
「本は高くて普通は平民は読みません。でも、マーリン様の屋敷にはたくさん本が置いてありましたから」
「何言ってるんだか」
「え?」
エアリーは一つだけ勘違いをしている。僕の屋敷ではない。
「僕たちの屋敷だろう? あそこはもう、みんなが帰る場所だよ」
「マーリン様……」
うるうる、とエアリーが僕の言葉に感動して泣きそうになっていた。
「え、エアリー!? 大丈夫!?」
「へ……平気です。ただ、マーリン様と本当の意味で家族になれたようで……私は嬉しいです」
「さすがマーリン様。こんな往来であんな言葉を言えるなんて……エアリーさんが羨ましい!」
「ノイズにも同じ言葉を言ってほしいですッ!」
「わ、私にも……」
なぜかアウリエル、ノイズ、カメリアも僕たちの会話に混ざる。
一応、さっきの言葉はみんなが含まれているんだけどなぁ……。
「マーリン様! この本を見てください! 王都にある薬草の本とは違って、帝国に自生してる薬草の種類まで載ってますよ!!」
アウリエルたちの願望を切り裂いて前方のソフィアが声を荒げる。
ずずいっと見せてきたのは、僕もあんまり興味がない薬草関係の本だった。
彼女は本当に薬草が大好きだね。
「いいね。一冊目はその本に決めたら?
「はい! 私もこれがいいと思いました」
「もちろん他の本も好きなだけ選んでいいからね。お金には困ってないし、遠慮しないでね?」
「ありがとうございます!」
ソフィアは本を持ったまま深々と頭を下げてから再び本を選び始める。
それを見た店主のおばあさんがにやりと笑った。
「ははは! 若いのに豪気な男だねぇ。あたしがあと五十
「光栄ですね」
さすがに五十歳も下がったら若すぎるのでは? と思ったが、彼女が六十歳以上ならまあ妥当か。
相手の年齢を詮索するつもりはない。気にせずソフィアが見せてくれる本を眺めながら時間を潰した。
結局、後ろではアウリエルたちが僕の甘い言葉を欲したり、ソフィアが五冊ほど気に入った本を購入したりと、それなりに充実した時間を過ごした。
本を売ってくれたおばあさんも大喜び。全員が幸せになったとさ。
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