第214話 バナナ?

 ソフィア、カメリアとともに外で買い物を行う。


 ソフィアは基本的に僕と一緒ならなんでも楽しいと思うタイプだ。そばで手を握りながらきょろきょろと無言で周りを見渡している。


 逆にカメリアは純粋に外に出るのが好きなタイプ。外にはたくさんの食材とか調味料とかそういうのが売ってるからね。


 今回、帝国に旅行に行こう——という僕の提案に最も強く賛成を示していたのも彼女だ。帝国にいけば王国では手に入らない食材や調味料があると考えたのだろう。


 非常食選びも誰よりも熱心である。


「マーリン様、マーリン様! あそこに面白い形の食材が売ってますよ! 星型の……フルーツでしょうか?」


「本当だ。たしかに面白いね」


 外見は完全に星。色も黄色だから野菜かフルーツかでかなり迷う。


 店先に置いてあるその謎の食材に顔を近づけて匂いを嗅ぐと……。


「すんすん……あれ? これ、もしかしてバナナか?」


「おや? お客さんこのフルーツのこと知ってるのかい?」


「ええまあ。形は違いますが、前に食べたことがあります」


 名前がバナナかどうかも知らないが、あの匂いは完全にバナナだ。僕が知ってるバナナより匂いが強い。


「そりゃあ凄い! 誰もこのフルーツのことを知らなくてね。帝国のさらに奥の国で採れるものだから、この国の人にはあんまり馴染みがないみたいでさ。よかったら買っていかないかい?」


 店主にバナナをオススメされる。


 ちらりと横を見ると、カメリアがまじまじとバナナを見つめていた。帝国のほうで食べられる物っぽいからね。カメリアも知らないフルーツなんだろう。


 僕はバナナが嫌いじゃないからいくつか購入しておくか。バナナは栄養価もあって美味しいし、決して無駄遣いにはならない。


 僕のアイテムボックスの中に入れておけば劣化もしないし。


 そう思って僕は、店主からバナナを数個購入した。


「ではバナナを五つください。アイテムボックスがあるので袋などは結構です」


「おお! 兄ちゃんいい買いっぷりだね。その子たちのためかい?」


「はい。可愛い女の子には健康でいてほしいですからね」


「ははは! あんたら愛されてるねぇ。羨ましいかぎりだ」


 店主から星型のバナナを五つ受け取って金を払う。バナナは全てアイテムボックスに入れた。


 店を離れると、カメリアが興奮した様子で話しかけてくる。


「あのバナナ? を購入したんですね! マーリン様はご存知のようでしたけど、どんなフルーツなんですか?」


「うーん……甘みがあって食べやすいフルーツかな?」


 少なくとも僕の前世でバナナが嫌いな人はあんまりいなかった。僕は好きでも嫌いでもないって感じ。ただバナナ味の食べ物は好きだったね。


「フルーツだから甘いのは解っていましたが……食べやすい……」


「あんまりイメージができないなら、帰って少し食べてみようか」


「いいんですか!?」


「もちろんだよ。みんなが食べるために買ったものだし」


 食べずに大事に保管していたら金がもったいない。バナナも意味ないしね。


「ありがとうございます! 俄然、楽しみになってきました~!」


 カメリアが上機嫌に鼻歌を奏でる。


 こんなにテンションの高いカメリアを見るのは久しぶりだな。彼女、周りの顔を窺って喋る傾向があるから、普段は割りと大人しい。っていうかアウリエルとノイズが特別元気なだけで、他のメンバーたちは軒並み静かではあるか。


 くすりと内心で笑うと、先に歩き出したカメリアの後を追う。


 僕たちの買い物は、その後数時間ほど続いた。




 ▼△▼




 数日後。


 買い物や準備も終わらせた僕たちは、とうとう帝国に向かうために早朝に屋敷を出た。


 まだ朝の七時くらい。恐ろしく早いが、全員楽しみだったのか問題なく起きれた。


 六人の男女が固まって静かな道を歩く。


 今日は珍しく周りに人がいない。そろそろ店を開けて通りが賑わう頃ではあるが、それが普段より遅かった。


「楽しみですね、帝国への旅行! やっぱり目的地は帝都ですか?」


 一番るんるんなカメリアが僕にそう訊ねた。こくりと頷く。


「うん。やっぱり帝都には行っておかないとね。そうじゃなきゃ旅行にならないよ」


 帝国へ行くなら首都にも行きたい。そう考えるのが人間の性だ。


 今回は時間も金もあることだしね。遠出しないなんてもったいない。


「さすがにわたくしも帝都に赴くのは初めてなので少し緊張しますね……ふふ。帝都にはどんな物があるんでしょうか」


 王国の王女たるアウリエルも、王女らしい興味の示し方をしていた。


 ソフィアは本を求めて。エアリーはそんなソフィアと観光したくて。ノイズは……たぶん、冒険者ギルドに行くんだろうなぁ、とか思ってる。


 あとは帝国でしか出てこない魔物と戦いたい! とか言いそう。付き合うことにはなるだろう。


 それぞれがそれぞれ異なる想いを抱きながら、見えてきた馬車の乗り合い所でとびきり大きな馬車に乗る。


 この日のために予約しておいた一番高くて広い馬車だ。これを使って帝国へ向かう。

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