第213話 帝国へ旅行

「帝国……ですか?」


 盗賊討伐の依頼を終わらせた翌日、僕はリビングにいたアウリエルに言った。


「うん。たまには旅行とかどうかなって」


「旅行……マーリン様は王国に飽きてしまわれたのですか!?」


「違う違う! 別にそういうわけじゃないから!」


 なんでほかの国に旅行に行かない? っていう軽い誘いを、自国に興味がなくなったと解釈したのだろう。


 慌てて否定するが、アウリエルは、


「だ、だってだって……王国にもたくさん観光地が……」


 と涙目になる。彼女にとって王国は世界で一番の国なんだろう。いきなりよその国に行きたいと言った僕が悪かったね。


「王国内で観光するのが嫌なわけじゃないよ。王国には僕の家もあるし、それだったら遠くへ行こうかなって。ほら、いまは勇者とかいて面白いかもしれないだろ?」


「つまり……王国内で旅行するのはいつでもできるから、今回は遠くでしか見れない物を見たいと?」


「そのとおり。せっかく勇者がいるんだ、遠すぎる皇国はともかく、隣国の帝国なら悪くないだろ?」


 たしか地図上の端っこに皇国ってあるんだよねぇ。戦争になる可能性がかぎりなく低いって点ではありがたいが、そのせいで観光には適していない。だから選ばれたのは帝国だった。


 個人的には日本の文化が多くあるっぽい皇国にこそ行ってみたかったが。


「なるほど……マーリン様が仰る言葉の意味もよく解ります。その上で返事を出すなら、わたくしはいつでもマーリン様と婚前旅行に行きますよ!」


「婚前旅行」


 別に婚前旅行ではない……と言い切れないのが面白いね。


 今後アウリエルたちとは結婚したいと思っている。だから結婚前の旅行で婚前旅行だね、たしかに。


 字面がやばすぎてなかなか納得できないけど。


「アウリエルが行く気まんまんでよかったよ。ほかの子たちにも相談して——」


「もちろん行きますよッ!」


「……ノイズ?」


 背後から声が聞こえて振り返ると、入り口に四人の女性たちが。


 ノイズ、ソフィア、エアリー、カメリアの四人だ。タイミングよく入り口で話を聞いていたらしい。


「みんなは賛成なの? 帝国への旅行に」


「ノイズは外に出かけるのが大好きです!」


「わ、わたしも……帝国領にある薬草とか見てみたい、です!」


「ソフィアもこう言ってますしね。わたしも……マーリン様と一緒に婚前旅行が楽しみたいですわ」


「帝国に行ったらたくさん美味しい物が食べられますね! 賛成です!」


 ノイズ、ソフィア、エアリー、カメリアの順番でそれぞれ肯定的な意見が返ってくる。


 みんなの意見をまとめると、誰一人として否定的な言葉はない。もれなく「行きたい!」ってことらしい。


「よかった。みんながそう言ってくれると、提案した側としては安心するよ。じゃあ、今回の帝国への旅行は全員参加ってことで」


「はーい!」


 五人の女性たちが声を揃えて返事を返す。


 六人で旅行となると専用の馬車とかたくさんの荷物が必要になるね。幸い、僕には便利なスキルがあるから荷物の運搬には困らない。


 金も陛下からもらったたくさんの硬貨と、これまで手に入れた依頼の報酬があるから平気。


 あとは……。


「そうなると、全員分の日用品とか買わないとね。服とかはどうする?」


「せっかくですし、帝国領で購入なさってはどうですか? 向こうとこちらでは売ってる品にも変化があるでしょうし」


「あー、たしかに。悪くないね」


 食べ物や日用品の大半はどこで買ってもあまり変化はない。だが、服はその国の特徴が出る。


 アウリエルの意見を参考に、今日は全員で旅行のための荷物を揃えることにした。


 とはいえ、全員で買い物に行くと時間もかかるし通行人の邪魔にもなる。ここは代表を決めて三人くらいで買い物をすることに決めた。


 そして行われる恒例のじゃんけん大会。そのじゃんけん大会で見事勝利を収めたのは……。


「じゃあ買い物に行こうか、ソフィア、カメリア」


 ソフィアとカメリアの二人だった。


「はい! 楽しみですね、旅行」


「ふふ。いまから楽しみにしてたら眠れなくなっちゃうよ、カメリア」


 二人は元気よく答え、中でも子供らしいカメリアの返事に僕は笑ってしまった。


 彼女は顔をわずかに赤く染めて僕の手を握る。


「こ、子供っぽかったですかね……?」


「そうだねぇ……年相応ではあるかな? でもそれは恥ずかしいことじゃない。僕だって楽しみだし、カメリアがそう思ってくれると嬉しいよ」


「マーリン様……」


「それになにより可愛い」


「ッ! そんなハッキリと……~~~~!」


 カメリアは完全に顔を真っ赤にして俯いてしまった。その姿を楽しそうにソフィアも見ている。


「とりあえず買い物をしよう。みんなの荷物をまとめて、数日後にはこの王都を出るよ」


「解りました! 一生懸命選びます!」


「食べ物のことならわたしにお任せを!」


 ソフィアもカメリアもなんだかんだ張り切っていた。微笑ましい目で二人を眺めながら歩く。

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