第212話 一件落着

「全て……終わった、だと?」


 椅子に座り直したディランが、もの凄く渋い顔で訊ねた。


 僕はこくりと頷き説明を行う。


「ええ。まず盗賊たちは普通に捕縛しました。兵士たちに引き渡して、こちらが確認書類です」


 懐から兵士にもらった紙を出す。ディランが紙面に書かれている文字を読むと、


「……ふむ。たしかに盗賊たちを受け取ったことが書かれているな」


 納得せざるを得なかった。


「ほかにもこれが村長から受け取った依頼達成の証明書です。サインがあるのでご確認ください」


 もう一枚の紙も出す。そちらは村長から依頼達成の確認ができている、という証拠の物だ。少なくともこれで完全に盗賊を倒しました、という証明になる。


 二枚の紙を受け取ったディランは、


「ま、マジで終わってやがる……魔族はどうしたんだよ……」


 と困惑していた。もちろんその説明もする。


「魔族は盗賊たちを捕まえたすぐあとにやってきました。僕が全員倒しましたよ。殺したので死体は後ほど手渡します」


「あんまり受け取りたくねぇけどしょうがないな……。さすがマーリン。普通、魔族を10体も相手にできる奴なんざいねぇっての。本当にお前が勇者じゃないのか?」


「違います」


 嘘です。本当は僕が勇者っぽいです。勇者っぽいっていうか勇者の称号が送られてきました。あのタイミングで勇者にするとは神様許さん。


「残念だねぇ。お前が勇者ならウチも安泰なのに」


「それは失礼じゃない? なに? 不満なの?」


 じろりと僕の隣にいたベアトリスがディランを睨む。ディラン並みに彼女も強いから、ディランは汗を滲ませて首を横に振った。


「いやいやいや! お前に不満があるわけじゃねぇよ。いや不安はあるけどな」


「あぁん?」


「だってお前女じゃん。今後、ほかの勇者たちと一緒に冒険することになるんだぞ? 着替え見られただけで終わるだろ」


「……そこはまあ、上手くやってみる」


 さっとベアトリスは視線を逸らす。彼女からしてもその責任の重さと、ことの面倒さは解っていた。解っていても簡単には解決できる問題じゃない。


 誰か協力者などが必要になる。


「そうかい。陛下もなにかしら考えているだろうから、俺が口を出す問題じゃないけどな」


 ガハハ、といつもどおりのディランに戻り、二枚の紙をテーブルに置いて彼は、


「とりあえず依頼達成を確認したぜ! サンキューなマーリン。お前のおかげであの村は助かった。俺からも感謝する」


 深々と頭を下げた。


 その感謝を僕は素直に受け取る。人に感謝されるのは心地良いものだ。


「どういたしまして。またなにかあったら相談してください。確約はできませんが、手を貸すのもやぶさかではありませんので」


「ああ。その時はぜひとも頼むぜ!」


 グッと親指を立てたディランから視線を外し、僕たちはギルドマスターの部屋を出た。


 階段を使って一階に降りると、そこでベアトリスともお別れだ。


「それじゃあまたどこかでお会いしましょう、ベアトリス様」


「はい! マーリン様が呼べば全力でどこにでも駆けつけます! 得意なのは魔物討伐です! いつでも呼んでください!」


「あ、あはは……解りました」


 やたらグイグイくる彼女と別れ、僕たちは屋敷の方へと戻った。


 最後まで積極的な人だったな……。




 ▼△▼




「ふう……さすがにちょっと疲れたね」


 屋敷に戻ってきた僕たちは、リビングにて全員がソファに座ってくつろいでいた。


 両サイドをアウリエルとエアリーに挟まれた僕は、膝の上にノイズを乗せている。


 こうなった原因は、誰が僕の隣を取るかで激しい言い合いとじゃんけんになったからだ。最終的に全員が僕のそばにくっついてきた。


 やや暑苦しい点を除けば、みんなと一緒で意外と悪くない。


「あの元勇者は処刑されるでしょうし、盗賊たちも軒並み処刑。なにか有益な話でも見つかるといいんですがねぇ」


 僕の肩に頭を置いたアウリエルが、心底どうでもよさそうに呟いた。


 処刑……か。少しだけ彼の末路に同情してしまう。いろいろやさぐれた結果なんだろうね。


「せっかく勇者っていう地位に上ったのに、最後には盗賊の一員として処刑される……か。彼も報われないね」


「同情ですか? あのような男に同情をする必要はありません。あれがなにをしたのか、マーリン様はその目で見たでしょう?」


 アウリエルが言ってるのは、元勇者が僕たちに攻撃してきた件と、人質を取った件だろう。たしかにあれは許されることではない。


「……そうだね。自業自得と割り切って僕も攻撃したし、最初から処刑されることが解ってて兵士に引き渡した。同情はしても、情状酌量なんて望んでいないさ」


 それが彼のためにもなる。僕は本気でそう思っていた。


 ちなみに捕らえられていた女性は元々奴隷だったらしい。帝国から商人に買われ、その商人をまえにあの盗賊たちが襲って奪い取ったとか。


 帰るあてのない彼女は、王都で手厚く保護され、今後は一人で生活していくことだろう。めでたしめでたし。




 それにしても帝国か……一度は行ってみたいものだね。

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