第209話 何度も見たやつ

 残った三人の魔族を仕留めた。


 そのあとは普通の顔して洞窟内に戻る。すると、僕がいない間にアウリエルたちが盗賊を縛り上げていた。


 もちろんその中には元勇者の姿も。


「ただいま、みんな」


「おかえりなさいませ、マーリン様。お怪我は?」


「してないよ。してても僕には聖属性魔法スキルがあるからね」


「そうでした。ではすぐにでも近くの村へ戻りましょう。盗賊たちを全員拘束したと報告すれば、村長さんたちも喜ぶはずです」


 そう言ってアウリエルが——ふわり。縛り上げた盗賊たちを宙に浮かせる。


「おお……! それも魔力操作の応用かな?」


「はい。縄にはわたくしの魔力が籠められています。それを動かせばこれくらいは」


「大変じゃない?」


「いえ。少し操作が面倒なくらいです。幸いにもまだ余裕はありますし、お任せください」


「……そっか。じゃあアウリエルに任せるね」


「はい!」


 アウリエルが自分からやりたいと言うのだ、その仕事を僕が奪うのは違うだろう。


 次に両手いっぱいに荷物を持った残りの女性たちがやってくる。


「マーリン様! これを見てください。おそらく盗賊たちが盗んだ品物でしょうね。かなりの量の硬貨や骨董品が」


「たくさんあってキラキラなのです!」


「集めてくれたんだね、エアリー、ノイズ。ありがとう」


 わざわざあの状況で僕の代わりにやってくれたのか。二人には頭が上がらないなぁ。


 受け取った硬貨と骨董品は全て僕のインベントリの中に収納される。


「これ、街に帰ったら衛兵に渡した方がよかったりするのかな?」


「いいえ。問題なくマーリン様のものでよろしいかと」


 僕の疑問に答えてくれたのは、背後にいるアウリエル。


 彼女は続けた。


「盗賊が奪った物の中に身元を特定できる物があれば別ですが、特に硬貨は誰の物か解りません。ですので、盗賊を倒したマーリン様に権利が与えられます」


「なるほどね……骨董品とか物の方はあとでよく見てみるよ。どこで奪われた物か解らない以上、元の持ち主に返すのは難しいけどね」


「それは街の衛兵たちがどうにかしてくれるでしょう」


 アウリエルの言うとおりだ。引き渡した盗賊たちがどのような目に遭うのか、それも考えるのは捕縛した僕たちの仕事じゃない。


 僕の役目はあくまで引き渡すまで。せめて骨董品くらいは渡そうかな? 別にいらないし。


 次から次へと運ばれてくる色々な盗品をインベントリに入れながら、ふとそんなことを考える。




 ▼△▼




 しばらくして盗品の回収が終わったので洞窟を出る。


 僕を先頭にアウリエルが複数の盗賊たちを魔力操作で運びながら村へと向かった。


 少しして、村の正門が見えてくる。


「……あれ? 正門に誰かいるね」


 村の正門を守る門番役は二人だった。それが三人に増えている。


 一人はそれなりに立派な鎧をまとった、髪の長い——って女性か。その髪色と後ろ姿にどこか見覚えがあって、よりまじまじと彼女を見てしまう。


 そして気づいた。彼女は……。


「ん? あれは……ベアトリス様?」


 アウリエルもまた遅れて彼女の存在に気づく。


 その声が聞こえたのか、門番と話をしていた女性はばっとこちらを振り返った。お互いの視線が交差する。


「あなたは……マーリン様!?」


 僕のことを知ってるその顔と声。やっぱり彼女の正体はアウリエルが言ったように——冒険者ベアトリスだった。


 ……いや、たしかアウリエルの話によると、なぜか彼女は勇者になることを決めたはず。つまりいまの彼女は勇者ベアトリス。


 いましがた拘束して連れ出した元勇者の後釜だ。


「奇遇ですね!」


 僕が思考している間に、気づいたらベアトリスが目の前にいた。


 恐ろしい速さだ。一瞬にして僕との距離を詰めて両手まで握り締めている。


「き、奇遇ですね……ベアトリス様」


「様だなんてそんな……わたしのことはどうかベアトリスと呼び捨てで!」


「いえいえ。勇者様を呼び捨てになんて……」


 なんだかすっごいグイグイ来る。


「構いませんとも! 聞くところによると、マーリン様は国王陛下より名誉貴族の位を授けられた伯爵なのでしょう!? それならわたしの方が敬語を使うのは常識! さあさあ! さあさあ!!」


 圧が凄い! なんか意味不明な理論を展開しながらどんどん顔が近づいてきた。


 その理論で言うとむしろ勇者のほうが貴族より偉い。だから僕のほうが敬語を使ういまの状況こそが正しいわけだが、もはや彼女の主張はただの感情によるゴリ押しでしかなかった。


 まずい。このままだと彼女のオーラに呑まれる。


 冷や汗をかきながらそう思っていると、僕とベアトリスの間にアウリエルが乱入する。救いの女神は言った。


「わたくしの旦那様に色目を使わないでくださいな、勇者様」


「……アウリエル王女殿下……」


 バチバチバチィッ!


 アウリエルは笑っているのに怒っているように見えた。逆にベアトリスは元から鋭い眼光をしていた。それがアウリエルをまっすぐに捉える。


 うーん……修羅場って奴だな。

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