第210話 喧嘩するほど?
見つめ合うアウリエルとベアトリス。
二人はそんなに仲が悪そうには見えなかったのに、ベアトリスが僕に対して恋愛感情? を抱いた結果、こうも険悪な関係になってしまった。
「どうしてベアトリス様がこんな所に?」
「勇者として村に迷惑をかける盗賊たちの話が許せなくてね。ギルドマスターに許可をもらってマーリン様のお手伝いをしに来たの。王女様こそなんでマーリン様と一緒に? 王女様って戦えるの?」
ぷっ、とベアトリスが言葉の最後に笑い声を付け足した。それは明らかな挑発行為。
「蝶よ花よと育てられた王族が、冒険者の真似事なんてできるわけがない」と態度が物語っていた。
ひくひくとアウリエルの頬が怒りで痙攣する。完全に引き攣っていた。
「ふ、ふふ……あいにくとわたくしはそこそこ戦えるタイプなので問題ありません。先ほども盗賊たちを討伐して来たところです。ね? マーリン様」
「え? あ、うん……」
ちらりとアウリエルの視線が僕のほうに移った。
急に話題をこちらにぶん投げないでほしい。いつまでも修羅場を展開されるのは困るが、僕が巻き込まれるのもまた困る。
——当人なんだからしっかりと二人を止めろ?
いやいやいや。そういう人は解っていないだけだ。こういう状況で間に挟まれた男が喋っても良いことはなにもない。結果的に黙っているか求められた時だけ話している方が丸く収まるのだ。
女性は理性的な生き物だからね。きっと。
「へぇ……戦える王族とはまた珍しい。でもよかった。マーリン様に迷惑がかかっていないようで」
わざわざ「迷惑」の部分を強調するあたり、ベアトリスは確実に言い合いを避けるつもりはなさそうだ。
前に第3王女オリビアから聞いた話によると、彼女は王族が相手だろうと決して自分の意見や意思を曲げないらしい。それで何度も問題を起こしてなお、矯正されなかったとか。
まさに強者。圧倒的な強さを持つがゆえの傲慢さだろう。そういうのは僕、意外と嫌いじゃない。
「それよりマーリン様に怪我はありませんか? 先ほど、この辺りでもの凄い魔力を感じましたが……」
「あ、ああ……それは……」
きっとベアトリスが感じた魔力っていうのは、僕が戦った魔族が発したものだろう。それをこの距離からでも感知できるなんて、彼女の感知能力は大したものだな。
下手するとレベル500の僕より高いかも?
「魔族が出たんですよ」
ベアトリスに返事を返したのはアウリエルだった。
「魔族?」
「ええ。10体もの魔族が急に襲いかかってきて……それをマーリン様が討伐しました。安心してください」
「10体もの魔族をマーリン様お一人で!? さすがですぅ! マーリン様はお顔だけでなく、能力まで完璧とは!」
「あはは……ありがとうございます」
「この人、わたくしとマーリン様で態度が違いすぎませんか?」
アウリエルの言いたいことはよく解る。
王族であるアウリエルには敬語も敬意も皆無であるのに、なぜか僕には敬語も敬意もあった。
ジト目で睨むアウリエルに、彼女はさも当然のように鼻を鳴らして言った。
「はっ。当然でしょ。マーリン様は神のごときお方。それ以上はいない。それ以下なのよ、全ての生き物がね」
うーん……ベアトリスも
アウリエルは一人いればいい。もう一人増えたら僕の許容量に穴が開く。
「……ただの無頼漢かと思いましたが、話してみると意外と解りますね。いいでしょう。あなたのことを認め、マーリン様に関して語る許可を出します。村へ行きましょう」
「別に殿下の許可なんて必要ないけど……面白い。アウリエル殿下が知ってるマーリン様のお話、ぜひとも聞かせてもらおうじゃない」
なぜか最終的に意気投合した二人。仲良く? 門番の横を通り抜けて村の中へと入っていった。その後ろをぞくぞくと魔力操作の応用で運ばれていく盗賊たち。
その背中を見送っていた門番の二人が、
「えーっと……結局、あの方はどなたなんですか?」
と、もの凄く困惑した表情で僕に訊ねた。
僕は苦笑しながらも答える。
「あれでも一応は王国の勇者って呼ばれてる人ですね……」
村の入り口に、もう一度大きな叫び声が響いた。
▼△▼
僕たちの……というか僕の盗賊討伐の手伝いに来てくれた勇者ベアトリス。
残念ながらもう仕事は終わってしまったけれど、彼女は特に残念がる様子もなく「さすがマーリン様! すごく仕事が早いですね!」とむしろ僕のことを褒めてくれた。
いまでは僕を無視して、アウリエルたちと楽しそうに僕の話で盛り上がっていた。
その輪の中にノイズやエアリーが混ざっているのは当然である。
唯一僕だけが、村長たちと話して盗賊の受け渡しやら報酬の確認やらを行う。このあと王都に帰るってこと忘れてないよね? みんな。
さらなる盛り上がりを見せる四人を見ていたら、ちょっとだけ不安になった。
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