第207話 烏合の衆

 フードを取って洞窟の外に出る。


 見上げた先には、複数の宙に浮く生き物の姿があった。


「……お前ら、魔族か?」


 訊ねると一番前にいた男が答える。


「我々を見て魔族だと解るあたり、お前はやはり噂のマーリンとやらだな?」


「噂?」


「ああ。魔族を殺したことがあるんだろ? その話を聞いて、お前のためにこれだけの同胞を集めて来たんだ。感謝してくれ」


「わざわざ過剰戦力だな……そんなに僕が怖いのか?」


「ああ、怖いね。思わず多人数で囲んで一方的に殺したいくらいには、怖いね」


 ククク、と男が喉を鳴らして笑う。雰囲気から察するに、あの男はそこそこ冷静なタイプだ。筋肉より頭脳を使うタイプだろう。


 だが、これだけ魔族が集まれば様々なタイプがいる。中には、最初に喋った男とは違う脳筋タイプもいた。


「はっ! てめぇが恐ろしく強い奴がいるって言うからついて来てやったんだ。ここから先は俺の番だぜ!」


 後ろにいた赤髪の男が地面に降り立つ。


 やたら好戦的な顔だが、その顔に負けぬ闘争心を瞳に宿して地面を蹴った。一瞬にしてお互いの間にあった距離を詰める。


 魔力の込められた拳を振るう。


「ッ」


 見たことのない攻撃だった。体の一部に魔力が宿っている。それだけに油断できない攻撃だ。


 僕は相手の拳を避けてから腕を掴む。


「あ?」


 ぐいっとこちらのほうに引っ張り、ガラ空きの腹部に拳を叩き込んだ。


「ぐえ——!?」


 赤髪の男は衝撃を受けて吹き飛ぶ。後ろにある木々を粉砕しながら、数十メートル先まで転がった。


「馬鹿が……事前に油断するなと言っておいたはずなのに……」


「いまのが魔族殺しの力ね。びっくりするくらいパワーがあるわ」


「身体能力は我々より上か。油断できぬな」


 赤髪が吹き飛ばされたことでほかの魔族たちも動き出す。


 いつの間にか僕の後ろには美しい女性が。


「ふふ。その美貌は大したものだけど、憎い相手に似てるのが欠点ね」


「あっそ」


 お前に好かれたいとは思わない。


 相手に攻撃されるより先に攻撃をしようとして——ぴたりと動きが止まった。


「?」


 体が……動かない?


「ふふ。それはわたしの操る能力。匂いがあなたの思考力を奪ってじわりじわりと殺すわ。別に力比べをしに来たわけじゃないから許してね?」


「……なるほど」


 状態異常系か。一瞬だけ効果を受けたがそれだけだ。


 僕は目を見開き拳を女性の顔面に打ち込んだ。轟音を立ててもう一人の魔族が吹き飛ばされていく。


「あいつの能力を受けても動けるだと……?」


「あいにくと、状態異常には強いんだ」


 あの程度の能力なら効果は一瞬だ。それも次は通じない。


 これで残り八人。レベル自体はそんなに強くないな。事前にレベル3000になっておいたから苦戦するほどでもなかった。


 レベル5000や10000になってまとめて吹き飛ばしてもいいが、周りにほかに人がいないともかぎらない。


 それに、僕の背後には仲間たちもいる。高すぎるレベルは被害が大きすぎて調整が難しい。だからレベル3000で倒せるくらいの雑魚でよかった。


「さあ、次は誰だい? さっさと潰してあげるから来なよ」


 くいくいっと手を動かして相手を挑発する。かかっこいってな。


 すると背後からあの赤髪の男が現れた。


「てめぇ! 俺様を無視してんじゃねぇぞ! 俺はまだ——ぎゃ!?」


 言葉は最後まで続かなかった。


 最初からあの一発で倒れるとは思っていない。用意しておいた聖属性魔法スキルが赤髪の男の顔面を捉える。


 綺麗に頭部だけが吹き飛んだ。制御を失って肉体のほうは地面を転がる。


「……次」


 ちらりと上に浮かび続ける魔族たちを見ると、彼らは額に汗を浮かべて動揺していた。


「どうした? もうビビッてこないのか?」


「くっ! 複数人でかかれ! 絶対に一人で突っ込むなよ!」


「ああ!」


 今度は複数の魔族が同士に突っ込んでくる。


 悪くない選択だ。僕だって同じことを考える。だが、あいにくと相手が悪かったね。


 僕と相手のレベルにはそれなりの開きがある。鑑定スキルで調べた結果、一番高い魔族でもレベル2000。数さえ揃えれば勝てると踏んだのだろうが、それにしてはあまりにもお粗末だった。


 左右から挟み込んでくる魔族たちの攻撃を避けながら拳を振るい、聖属性魔法攻撃を撃ち込む。正確に。相手の頭部や心臓を貫く。


 一人、また一人と魔族は数を減らし、気づけばものの十分ほどでその残りが三体になった。


 腕を吹き飛ばされたリーダー格の男が、血を流しながら呻く。


「ぐぅ……! なんなのだ、この強さは……!」


 片や僕や無傷だった。誰も僕に攻撃を与えることはできていない。


 足許に転がる死体を一瞥してから、


「そろそろ終わりだね。時間がかからないようでよかった。人を待たせているんだ、解るだろ?」


 そう言って一歩前に踏み出した。


 魔族たちはピンチを悟って逃げる。

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