第203話 どうしてお前がここに⁉︎

 盗賊たちのいる洞窟の前にやってきた。


 村長が見せてくれた地図の通りに、そこには何もない。


 ——いや、たった一つだけある。


 村長が教えてくれた、かつて魔物が開けた大きな穴——洞窟が。


 その洞窟の入り口に、バンダナを付けた二人の男性が立っている。


 おそらく見張りだろう。腰にはカトラスのような特徴的な武器が下げられていた。


 わざわざこんな所に一般市民がいるわけがない。何より、魔力探知をした結果、洞窟の中には複数の魔力反応が。


 それは複数の人間がいることを意味していた。


「さて……どうやって洞窟の中に入ろうか」


「このまま正面から殴り込めばいいのでは?」


 ノイズが脳筋思考全開でそう言った。


 僕は苦笑しつつ首を横に振る。


「それだと僕たちが来たことが盗賊たちにバレるね。洞窟に隠し通路があるかもしれないし、逃げられないよう確実に奥まで行きたい」


 かと言って、彼らが盗賊じゃなかったら僕たちのほうが犯罪者だ。


 それを確かめるためにも、強引にいくかコソコソ迫るかでかなり悩んだ。


「うーん……とりあえず、私が魔物を呼び出して彼らの注意を引きましょう。その間に、マーリン様たちは横から接近してください」


「弱い魔物、出せる?」


「ええ。前に捕まえたハブール以外にもストックがいますので」


「じゃあエアリーの作戦を採用しようか。僕とアウリエルが右から。ノイズは左から男のひとりを無力化してくれ。ノイズのほうは気絶させていいよ。こっちで相手の様子を見るから」


「わかりました! ノイズにお任せください」


 ノイズはやる気まんまんで左側の茂みから男のそばへ近づいていった。


 それを見て、僕とアウリエルは逆方向から男たちに近づく。


 後はエアリーの合図を待つだけだ。少しして、茂みの中から二体のゴブリンが姿を見せる。


「あれがエアリーのスキルで呼び出された魔物かな?」


「おそらくは。ゴブリンなら応援を呼ばれる心配もありませんね」


 アウリエルの言う通りだ。


 わざわざ僕がエアリーに「弱い魔物」と制限を付けたのは、強い魔物だと応援を呼ばれる可能性があるから。


 それはそれで盗賊たちが外へ出てくる好機でもあるが、洞窟に隠し通路がないなら洞窟内にいてもらったほうが逃げられにくい。


 それに、リーダー格が閉じこもったままではバレるリスクも増える。


 結果、弱い個体を相手にしている間に僕たちは男の背後に回って——、




「ぐあっ!?」


 ノイズが男のひとりを無力化する。


 もうひとりの男が僕たちに気づいた。


「なっ!? お前ら何者だ!」


「そういうお前らは盗賊だな? こんな所で何してるんだよ」


 僕はあえて奇襲せずに男に迫った。


 正面に迫った俺を、男は反射的に剣を抜いて斬りつける。


 それを避けると、俺はにやりと笑って言った。


「反撃してきたってことは……図星だよね?」


「ッ!?」


 もういい。充分な証拠は得た。


 再び男に肉薄すると、ガラ空きの腹部を殴りつけて気絶させる。


 かなり手加減したつもりだったが、それでも男は吹き飛んで地面を転がった。


「あちゃー……やっぱり僕は手加減が苦手だね」


 これまで強すぎる連中とばかり戦っていたから、いざ普通の人間が相手だとレベル500でも殺しかねない。


 まあ、死ななかっただけでもよかったと割り切ろう。死んでも相手は盗賊だ。悲しむ必要はない。


 倒した盗賊たちをアイテムボックスから取り出した縄で縛り、僕が担いで運ぶ。


 正直、僕が前に出て戦うと人死にが出る。ノイズたちに任せたほうが利口だろう。


 そのまま薄暗い洞窟の中に足を踏み入れた。




 ▼△▼




「マーリン様、敵はどのくらいいますか?」


 洞窟内に足を踏み入れてすぐ、アウリエルが僕に訊ねた。


「十人だね。どれも魔力の反応からしてみんなより弱いよ」


「でしたら後はお任せください。私たちが無力化してみせます」


 エアリーもやる気だ。


 拳を握り締めて剣の柄に触れていた。


「そうだね。僕は下手すると殺しちゃうし、このまま荷物持ちを担当するよ。けど、油断しないように」


「はい! わかっています!」


 ノイズなんて尻尾をぶんぶん揺らしていた。


 ビースト種は戦闘狂な側面があるからね。ブレーキ役はアウリエルとエアリーに任せる。


 そして、しばし洞窟を歩いた先に人の気配が。


 こっそり近づいていくと、前方にひらけた場所が見えた。


「あれが……」


 中央に盗賊たちが集まっている。


 ランプのようなもので照らされた盗賊たち。近くには女性の声もする。


 すすり泣くような声だ。おそらく盗賊に攫われた誰かだろう。村には被害者はいないはず。ほかの場所かな?


 そこまで考えて、ふいに視線がある者を捉えた。盗賊たちの輪の中にいる、を。


 見覚えのあるその男性に思わず僕は目を見開き、呟いた。




「あれ? もしかしてあの金髪って……元勇者!?」

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