第202話 盗賊のアジトへ
「あー……フードのことですか。それは……彼女、シャイなので」
少女の質問に当たり障りのない返答をする。
「あなたのことですよ、マーリン様」
「……だよね」
対象をアウリエルにすり変えたけど、目の前の少女は困惑していた。
目が「あなたのことですけど……」と物語っている。
しょうがない。
今回は盗賊の討伐だ。フードを被ってるような怪しい人物は信用できないのだろう。
盗賊側の仲間で、盗賊をこの村に引き入れた可能性もあるしね。
魔物討伐とはわけが違う。村人たちもぴりぴりしていた。
ここは、素顔がどうこう言ってる場合ではなかった。
肩を竦めて、せめて僕だけでも素顔を晒すことにする。
フードをゆっくりと取った。
銀色髪の、黄金色の瞳が彼女たちの前に晒される。
それを見た少女の顔が一気に赤くなった。
「わ、わあっ!? すごい……カッコいい……!」
「そのお顔は……昔、王都の教会で見た神様!?」
タイミングよく戻ってきた村長が、僕を見て驚く。
「違います。たまたま似ているだけの一般人ですよ」
「マーリン様が一般人? 面白いジョークですね」
「え?」
僕、ジョークなんて一言も言った覚えはないんだけど……。
「この方は王都にて名誉貴族の位を持った伯爵様です」
「め、名誉貴族……様?」
「簡単に言うと、貴族としての仕事をしなくてもいい貴族のことです。王族が信頼を寄せ、その実力を買った相手——と認識していただければ」
「そ、そのような方がなぜこんな村に……!?」
「あはは……名誉貴族なんて関係ないですよ。僕はたまたまギルドマスターに指名されたので来ただけです。気にしないでください」
「このように、マーリン様は気さくで優しいお方です。ご安心を」
アウリエルの説明でなんとか村長さんたちは冷静さを取り戻した。
手にした簡易地図を僕に手渡してくれる。
それを開くと、
「えっと……たしかこの辺りに複数の反応がありましたね」
地図の一角を指差す。
村長がそれを見ると、
「ここは……たしか洞窟くらいしかありませんね」
「洞窟?」
「ええ。かつて穴を掘る魔物がいた場所です。いまは魔物は討伐されたのでただの洞窟ですね。中も深くありませんし、魔物がときおり巣にするくらいかと」
「なるほど……そこを盗賊たちが根城にしているのか」
雨風を防げるちょうどいい場所ではあるな。
何より、これで盗賊たちがいることがほぼほぼ確定した。
後はこの洞窟とやらに乗り込み、盗賊たちを全員縛り上げれば依頼は終わりだ。
「では僕たちは早速、この盗賊のアジトと思われる場所に向かいます」
「い、いまからですか!?」
「ええ。時間的に余裕もありますし、さっさと依頼を終わらせたほうが双方に得があるかと」
「そ、それはそうですが……先ほど戦ったばかりでは?」
「ご心配には及びません。僕たちはあの程度で疲れたりしませんよ。ね、みんな」
ちらりと隣に座る彼女たちへ視線を送ると、
「はい! ノイズはまだまだ戦えるのです!」
「お任せください。必ずや役に立ってみせますとも!」
「マーリン様のお心のままに」
ノイズ、エアリー、アウリエルの順番でそう答える。
僕は改めて村長のほうへ向き直ると、
「そういうことですのでお気になさらず」
とにっこり笑顔を見せた。
村長はしきりに頭を下げて感謝する。
「ああ……ありがとうございます!」
「いえいえ。それでは僕たちはこれで」
そう言って席を立つ。
すると目の前の少女が、顔を赤らめたまま、
「き、気をつけてくださいね! 絶対に……絶対にご無事で!」
と僕を応援してくれた。
「ふふ。ありがとうございます。任せてください。こう見ても僕、結構強いんですよ?」
ふんすっ、と力コブを作って見せると、少女は、
「素敵……」
と小さく独り言を呟いた。
踵を返し、僕たちは村長の自宅を後にする。
▼△▼
「相変わらずモテモテですねぇ、マーリン様は」
フードを被り直して村の中に出る。
歩きながら隣でアウリエルがいきなりそう言った。
「モテモテ? あの子、まだ小さい子供だったけど?」
「十歳も差はないでしょう? マーリン様は老若男女すべてを魅了するのですよ」
「恋愛的な意味で男性はちょっとね……」
僕は普通に女性と恋愛がしたい。
「女性ならいいんですか!? 子供でも!?」
「そういう揚げ足は取らないでほしいなぁ」
興奮するアウリエルを無視して、僕たちは村を出る。
地図で示した盗賊たちのアジトへ向かい、道中、談笑を楽しんだ。
しばらく歩くと、目的地であるアジトの前に到着する。
そこには、僕の予想を裏付けるように複数の男性の姿が。
まるで入り口を見張るかのように立っていた。
「あーあ。これは確定だね」
「確定ですね」
「間違いありません」
僕の呟きに、エアリーとアウリエルが口を合わせた。
あそこには間違いなく盗賊たちがいる。
あとは——討伐するだけか。
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