第201話 浅い男でごめんなさい

 少年からの質問に、僕は狼狽えた。


「えっと……強くなりたい?」


 少年は頷く。


「うん! 兄ちゃんたち、そこにいる盗賊を倒したんだろ? つまりそれだけ強いってことだよな!? だから、そんな兄ちゃんたちに訊きたいんだ。強くなるにはどうしたらいいのかって」


「う、うーん……参ったな」


 あいにくと僕は少年が求める答えを出せそうにない。


 なぜなら、僕はこの世界に転生したときにはすでに最強だった。


 レベル10000からスタートすればいいんだよ、——なんてこと、夢見る少年には言えない。


 かと言って実力を示したあとで少年の問いを無視するのも印象最悪だ。


 悩んだ結果、とりあえず少年の理想を訊ねる。


「君はどういう強者に憧れているんだい?」


「どういう強者?」


 少年は首を傾げる。


「要するに、どんな武器やスキルを使いたいのかなって」


 たとえ僕やアウリエルみたいに魔法攻撃系のスキルで強くなりたいのか。


 それとも、エアリーやノイズのように近接武器主体で強くなりたいのか。


 それによって教える内容も異なる。


 まずは少年の理想を聞いてみた。


「俺の理想……どんなものを使いたい、か」


 少年は悩んだ。


 たぶん、村のためにがむしゃらに強くなりたかったのだろう。


 まだ具体的な強者の理想像というものがない。


 漠然とした理想はダメだ。ひとつでもいいから確固たる理想を見つけないと。


 でなきゃ絶対に途中でブレる。それが人間という生き物だ。


 うんうんと何度も頭を捻った少年。その少年を後ろから羽交い絞めにしたのは、彼の父親と思われる村長だった。


「何を言っとるか! お前はまず、強くなる前に家の仕事を手伝いなさい!」


「うおっ!? 話せよ親父! 俺は絶対に強くなってこの村を救うんだ!」


「村の前に家を救え馬鹿者。盗賊たちはこの冒険者の方々が倒してくれる。だから、お前は仕事を……」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ少年と村長。


 村長は、


「すみません、冒険者様。この子の質問は忘れて、ひとまず我が家へ起こしください。盗賊たちは使っていない小屋にでも縛り上げて閉じ込めておきますので」


「わかりました。案内をお願いします」


 どうやら、なあなあで少年の質問は流れたらしい。


 よかった……僕に強くなる秘訣を訊いたところでろくな答えは返ってこない。


 自分の浅さが露呈せずに済んだしね。


「残念。わたくしはマーリン様のお話、聞きたかったのに」


「ノイズもです! マーリン様のように強くなるにはどうしたらいいのでしょう?」


 歩き出した村長の背中を追っている最中、背後からアウリエルとマーリンの声が飛んできた。


「さあねぇ……僕が聞きたいくらいだよ」


 適当に二人の問いを濁す。


 何の努力もしてない僕に、それは禁句だよ。




 ▼▽▼




 村長の後ろを少し歩くと、やがて大きな建物が見えてきた。


 割と立派な一軒家だ。横には広い畑もある。


 少年がサボッたのは畑仕事かな?


「ようこそ我が家へ。くつろいでいってください」


「ありがとうございます」


 村長にお礼を言って家にあがった。


 すると奥から女性が姿を見せる。二人。ひとりは村長の奥さんかな? もうひとりは村長の娘さんだ。


 僕たちは次々に挨拶をする。


「こんにちは。王都から盗賊たちを討伐するために来た冒険者のマーリンです。こちらは僕の仲間たちです」


 ぺこりとアウリエルたちは頭を下げる。


 僕とアウリエルはフードを被っているので、村長夫人とその娘さんはやや怪訝な視線を送ってくる。


「王都の冒険者……来てくださったんですね」


「聞いて驚け! もう何人もの盗賊を捕まえてきてくれたんだ。アジトも把握してるらしい。すぐに盗賊たちはいなくなるだろう」


 村長が少年を担いだままそう言うと、母と娘は同時に笑った。


「まあまあ! それはよかったわ……このままだと外に出れなくて、肉もまともに獲れなかったし」


「冒険者ってすごいんだね! ありがとうございます」


 遅れて母と娘が僕たちに頭を下げた。


「いえいえ。冒険者としての仕事ですからお気になさらず。それより、情報をもらってもいいでしょうか?」


「情報?」


 村長たちは揃って首を傾げる。


 わざわざ村長の家に来たのは、何も雑談を楽しむためじゃない。情報のためだ。


「はい。僕が探知スキルで複数の人間を発見しました。それが盗賊かどうか調べたいので、地図のようなものはありますか?」


「この辺りのものでしたら簡易のが」


「見せてください。近くに何も村や集落がなければ、そこが盗賊たちのアジトです」


「なるほど! わかりました。すぐに用意します」


「私が持ってくるわね」


 そう言って夫人が部屋の奥へ向かう。僕たちはリビングに集まり、そこでソファに腰を下ろす。


 なんだか娘さんが僕のことをじーっと見てるような……。


「何か?」


 彼女のほうを見ると、


「ッ! い、いえ……なんでフードを被っているのかな、と」


 彼女は素朴で当然の質問をした。




———————————

あとがき。


作者、風邪を引きダウン……

苦しいですが頑張って更新します。できなかった時は察してください←


よかったら反面教師の新作、

『悪役貴族の末っ子に転生した俺が謎のチュートリアルとともに最強を目指す(割愛)』

を見て『★★★』などで応援してくれると、体調がよくなるかも⁉︎(バカ言ってないで休め)

でも面白いですよ!

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