第200話 期待の眼差し

 真っ先にアウリエルが攻撃を繰り出す。


 彼女の周囲に光の粒が浮かんだ。


 これまでに何度も見た彼女の得意技——聖属性魔法スキルによる遠距離攻撃。


 流れ星のように光の粒が盗賊たちへ放たれる。


 光の弾丸は不規則な軌道を描き、攻撃を回避した盗賊たちを追いかける。


 あれはアウリエルのもうひとつのスキル、魔力操作による追尾だ。


 自動で追尾してるわけではないが、アウリエルが軌道を操作してぎゅんぎゅん曲げている。


 盗賊たちは逃げ切れず、それぞれが被弾、ガードと異なる方法を選択した。


「ぐああっ!」


「な、なんだこれ!? 追いかけて——ぎゃあああ!」


「いてええええ!」


 盗賊たちは軒並みレベルが低い。


 魔族との連戦を経たアウリエルの攻撃を食らえば、死にはしないがそれなりにダメージを受ける。


 ある者は手を焼かれ。


 ある者は光の弾丸が腹部を貫通。


 ある者はガードに成功するが、衝撃を受けて吹き飛ばされてしまい、背後の木々に背中を打ちつける。


 ひとりとして無事だった者はいない。


 残った盗賊たちも、


「ノイズもいきますよー!」


 と言って飛び出していったノイズが、ナックルを装備した状態で物理的に殴る。


 しっかり手加減を守っているのか、殴られた男たちは意識を奪われる程度で済んだ。




 次々に倒れていく盗賊。


 状況の悪さを今更ながらに理解したのか、


「お、おい! コイツらやべぇよ……逃げろ!」


 慌しく盗賊たちは逃げ始めた。


 懐から煙幕を取り出して爆発させる。


「煙幕まで用意してたのか……意外と準備がいいね」


 視界が煙で満たされる中、僕は冷静に彼らの行いを分析する。


 煙玉なんてものを持ってるくらいだ、それなりに装備は充実していそうだね。ますます規模はもっと大きいと見て間違いないかな?


 思考を巡らせながらスキルを発動。


 探知スキルにより、視界を塞がれても賊たちの位置は視えている。


 アウリエルのように周囲に光の粒を浮かばせ、それを弾丸のように射出した。


 魔力操作スキルで軌道が曲がる。探知スキルで把握した敵のもとに、弾丸は吸い込まれるように盗賊たちの足許に。


 遅れて、


「ぎゃああああ!」


 男たちの悲鳴が響く。




 ▼△▼




 盗賊の討伐が終わる。


 煙が晴れた頃には、僕たちを襲撃しようとした盗賊が全員地べたに伏していた。


 その様子を見た荷台の御者と依頼主が、


「す、すごい……」


「あれだけの数の盗賊を相手に……」


 と感嘆の声を漏らす。


 僕は僕が撃ち抜いた盗賊のもとへ。


「うん、ちゃんと生きてるね。急所は避けて脚だけ攻撃したから治療もしなくて平気っぽい」


 聖属性魔法スキルによる攻撃は、言わば火属性のような熱。


 だから、光の弾丸が肉体を貫通してもあまり血は流れない。出血多量で死ぬこともないだろ。


 盗賊たちを引きずって一箇所に集める。


「ひとまずこれで盗賊退治は終わったね。まだ残りの盗賊がいるから、それを捕まえて終わりかな?」


「盗賊の場所がわかったんですか?」


「さっき探知スキルを使ったときにね。ここから北東に複数の魔力を探知した。たぶん、盗賊じゃないかな?」


 村の近くにもうひとつの村があるとは考えにくい。


 一応、あとで地図とかもらって確認くらいはするけど、ほぼほぼ盗賊で確定だろう。


 この盗賊たちのこともあるから、一度僕たちは村に入る。


 一番大変なのは、盗賊たちを運ぶことだった。




 ▼△▼




「いやはや! マーリン様は素晴らしい冒険者ですなぁ!」


 盗賊を連れて村へ入ると、村人たちから話を聞いたのか、遅れて村長のような男性がやってくる。


 男は倒された盗賊と依頼主の話を聞いて涙を流したあとに喜んだ。


 これで村が救われる、と。


「それほどでもありません。この程度の賊でしたらそこそこの冒険者でも相手になりますよ」


「そうなのですか? さすがに王都は違いますな。ここにもそのような強き者がいればいいんですが……」


 ハハハ、と村長は遠まわしに村の防衛力の低さを嘆いている。


 まあこの程度の盗賊も倒せないようなら、盗賊より魔物による被害のほうが怖いだろうね。


 誰か魔物や盗賊と戦えるような人はいないのかな?


 そう思っていると、集まってきた集団をかきわけてひとりの少年が村長のそばに近づいた。


 黒髪と前世を思い出させる風貌の、どこか大人びた表情を浮かべた少年だ。


 少年は、


「なに言ってんだよ親父! 俺がいるだろ! 俺がこの村を救ってやる!」


 と大変強気な発言をした。


「これ! 母さんの手伝いはどうした? お前は強くなるよりまず、家族の手伝いくらいまともにできるようになりなさい」


 村長が少年の頭に手を置きながら説教を始める。


 だが、少年は村長を無視してこちらを向く。僕をまっすぐに見た。


「?」


 首を傾げる僕に、少年は瞳を輝かせて言う。


「兄ちゃん! 俺、兄ちゃんみたいに悪人を倒せるくらい強くなりたいんだ! 強くなるにはどうしたらいい!?」




———————————

あとがき。


よかったら反面教師の新作、

『悪役貴族の末っ子に転生した俺が謎のチュートリアルとともに最強を目指す(割愛)』

を見て応援してくれると嬉しいです!

面白いですよ!

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