第199話 哀れな盗賊たち

 冒険者ギルドを出た僕たちは、依頼を持ってきた男性とともに馬車に乗って件の村へ行く。


 荷台に乗った僕たちの中に特に会話はない。


 知らない人物が混じっているからか、珍しくノイズも口を噤んで外を見ていた。


 沈黙に耐え切れず、僕は依頼主の男性に訊ねる。


「あのー……すみません」


「あ、はい」


 依頼主の男性はびくりと肩を揺らして答える。


 そんなに驚かなくても、と思うが、彼のほうがこの状況は辛いだろう。たったひとりだ。


 気にせず話を続ける。


「依頼の件ですが、盗賊ってどんな連中でしたか?」


「ど、どんな?」


「装備とか、人数とか」


「えっと……装備は普通でした。ナイフとか剣とか。鎧はほぼ全員が軽装……だったかな。人数も十人くらいかと」


 なるほどなるほど。


 大きな組織が作られているわけではないと。


 装備と人数からしてそれなりに経験はありそうだが、たぶん、僕たちの敵ではないな。


 村ひとつ襲撃できなかったのは、人数の少なさが原因かな?


「ただ、アジトがどこにあるのかはわかりません。様子を見にくる盗賊もいたので、割と近くにあるとは思いますが……」


「それなら問題ありませんよ」


「え?」


「盗賊たちを捕まえて吐かせればいいんです。どうせ捕まえなきゃ終わりませんし、多少手荒い方法になっても、ね?」


 くすりとフードの内側で笑う。


 すると男性は、やや僕から距離を離した——ように見えた。


 酷くない?




「ふふ。マーリン様はやる気があるみたいですね、ノイズさんと同じで」


 隣に座るアウリエルが、同じくフードの内側で笑う。


「まあね。盗賊なんて害虫のようなものさ。人を苦しめて嬉々として楽しむ連中を許してはおけない。場合によっては殺すけど……ノイズ」


「? はい! なんですか、マーリンさん」


「あくまで殺すのは最終手段だ。手加減して、くれぐれも情報を吐かせる前に殺さないでね?」


「むむっ。また手加減の練習ですか……任せてください! ノイズは期待に応えるのです!」


「あはは。じゃあ期待しておくね」


 まあノイズなら大丈夫だろう。多少レベル差があっても相手を殺すような真似はしない——と信じてる。


 最悪、蘇生スキルもあるし、別に盗賊が何人か死んでも構わない。それで言うと僕が一番の不安材料だしね。


 一番レベルを低くしても500だ。どうせ100もないであろう盗賊を相手に、僕はまともな攻撃ができない。


 相手を捕まえるのが関の山だね。


「わかってるとは思うけど、僕は手加減しても盗賊を殺しちゃう可能性がある。女々しい話だが、みんなの活躍に期待してるよ」


「はい。精一杯、苦しめられるように努力します!」


「善人な村人たちを襲う盗賊たちに、神の威光を示して差し上げましょう。ええ」


 エアリーもアウリエルもそこそこ乗り気だった。


 エアリーは物騒だし、アウリエルは意味不明。


 だが、今の状況ではたいへん頼もしかったのもまた事実。


 ガタガタと揺れる馬車の中、僕はひたすら相手を無力化できるような戦法を考える。


 ……まあ、押さえつけるくらいだよね。




 ▼△▼




 しばらく馬車に揺られていると、前方に村のようなものが見えてきた。


 割と大きな壁に囲まれている。よほど優秀な人材がいるのだろう。一本道を進むと、タイミングよく、


「へへっ! ちょいと待ちな、そこの馬車!」


「ここは俺らのテリトリーだぜぇ? 運が悪かったなぁ!」


「荷物と女は置いていけ! 男は逃げなきゃ殺すぜ!?」


 と、件の盗賊たちが現れる。


 格好と人相の悪さ、それに口の汚さが盗賊にしか見えない。


 驚いた御者の男性は、慌てて荷台のほうに逃げてきた。


「お、お客さん!」


「はい。あとは僕たちに任せてください。ここで大人しくしていれば傷つくことはありませんよ」


 僕たちは馬車の荷台から次々に降りる。


 唯一、僕だけが荷台の前に陣取った。


 レベルが高すぎるから荷台の守りに専念する。




「——レベル30から50か。人間としては高い部類に入るのかな? みんな、やっぱり雑魚だ」


 スキル鑑定で見た相手のレベルをノイズたちに伝える。


「レベル30……もしかして、人を殺してもレベルは上がるのでしょうか?」


「恐らく集団で狩りをしているのでしょう。優秀な統率者がいる可能性はありますね」


「なら、それも踏まえて情報を取りにいこう。手加減、大丈夫? ノイズ、エアリー」


「「問題ありません!」」


 二人は同時に答えた。


 アウリエルのほうも僕の近くでこくりと頷く。


 すると、盗賊たちのほうで動きがあった。


「ひゃっはー! こりゃあ上玉の女共が三人もいやがるぜ! 最高だなぁ!」


「捕まえて夜通し楽しもうぜ!」


「俺はあのビーストの子がいいなぁ」


 武器を片手にもう品定めしてやがる。


 今しがた雑魚認定したの聞こえてないのかな? それとも、僕たちのレベルも同じか自分たちより低いと思ってる?


 なら、余計にレベルをしっかり上げたってことだ。リーダーの存在は濃厚、と。


 心にメモを取り、近づいてくる盗賊たちを——アウリエルたちが攻撃し始める。




———————————

あとがき。


本日早朝、新作、

『悪役貴族の末っ子に転生した俺が謎のチュートリアルとともに最強を目指す(割愛)』

を投稿しました!


このあと20時頃に2話目を更新します!

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