第198話 盗賊討伐

 冒険者ギルドの二階、ディランの部屋に入ってすぐ、ディランは僕に依頼があると言ってきた。


 首を傾げてオウム返しすると、ディランは続ける。


「おう! いわゆる指名依頼ってやつだな」


「指名依頼」


 何やら知らない単語が出てきた。


「ギルド側が冒険者個人に依頼を出すことだ。普通は誰でも受注できる形にするが、指名依頼はその名の通り、こちらが請ける冒険者を指名する」


「それで僕に? どんな依頼なんですか」


「実はな……王都近隣にある村の村長からの依頼なんだ」


「村長さんの」


「なんでも、村の近くに盗賊が出没するようになったとか。村には柵とか壁があるから中にまで入ってこれないが、このままでは非常にまずいらしい。近くにアジトでもあるのか、盗賊たちが立ち去らないんだとよ」


「緊急事態じゃないですか!」


 なんでそんな冷静でいられるんだ。


 僕は驚き声を張り上げる。だが、依然ディランは冷静さを失わない。


「まあ落ち着け。たしかに文面だけを見るとかなり切羽詰っているが、まだ犠牲者は出てない。これから出るかもしれないが、今はまだ……たぶん、安全だ」


「確証がないでしょ。わかりました。僕が請けますよ。でもなんでわざわざ指名依頼なんて……」


「有名な賞金首がいるわけじゃねぇ。ただな……今は、ちょうど他に請けられる冒険者がいねぇんだ」


「え? 下に結構な冒険者いましたよね?」


「アイツらはランクの低い新人や、口は悪いが上を目指すのをやめた連中だ。今回の依頼は対人戦闘が含まれる。魔物が襲ってくるかもしれねぇし、ランクの低い奴には振れねぇよ」


「なるほど」


 だからまだ依頼が出せない状況だったのか。


 落ち着いているように見えて、ディランだって早く仕事を振りたいに決まっている。彼の正義感はたしかだ。


「わかりました。僕に任せてください」


「助かるぜ。いやぁ、ちょうど依頼が舞い込んできてどうしようかと思ってたが……神様は俺を見捨ててなかったな!」


「まさに神の采配ですね」


 隣でアウリエルが適当なことを言う。


 僕は特に返事を返さず、ディランに手続きをお願いした。


「あ、そういえば……」


 ふと気になったことが一つ。


「依頼を出した人はいまどこに? 盗賊がいて村から出れない状況なら、村に戻ってませんよね?」


「ああ。なんとか馬を使って王都まで来たらしい。滞在予定で、今は——冒険者ギルドに残ってると思う。声をかけてくるから少し待っててくれ」


「わかりました」


 席を立ったディランを見送る。


 部屋が静かになると、アウリエルたちが揃って会話を始めた。




「次の相手は、魔物ではなく人間ですか」


「大丈夫ですか、ノイズさん。無理しないでここは私たちに任せても……」


「大丈夫です、エアリーさん! ノイズは正義の味方です! 悪いことをする盗賊を放置できません!」


 ふんすっ、とノイズがやる気を見せていた。


 それで言うと僕は、ノイズよりエアリーのほうが心配になった。


 一応、声をかける。


「個人的にはエアリーのほうが心配かな。大丈夫? 人を殺す可能性もあるよ」


 訊ねると、しかしエアリーは首を横に振った。


「問題ありません。今の私には優先順位がありますから」


「優先順位?」


「はい。一番に守りたいマーリン様やソフィア……そして、もう家族と言えるノイズさんやアウリエル様、カメリアさんたちのために、それ以外には容赦しません。人を苦しめる外道なんてもっての他です!」


「エアリー……そっか」


 少しの間にずいぶんと成長したね、彼女は。


 それがいいことか悪いことかは僕にはわからない。だが、エアリーが自分の命を守るためにも必要な覚悟だ。いいことだと思っておく。


 アウリエルも、


「素晴らしいお考えです、エアリーさん! わたくしも皆さんのために悪を討伐しましょう! 盗賊なんてのさばらせては、神への冒涜です!」


 めらめらと瞳に闘志の炎を燃やしていた。


 やる気があるのは構わないが、気をつけてほしいね。


 まあ、僕とアウリエルがいれば万が一の事故も起こらないとは思うけど。


「みんな気をつけてね。相手は犯罪者。何をしてくるかわからないんだ。ピンチになったら僕を頼る。忘れないで」


「「「はい!!」」」


 三人とも僕の言葉に素直に頷いた。




 ディランが帰ってくるまでの間、残りの時間は談笑をして過ごす。


 主に、盗賊をどうしてやろうかという物騒な内容だったが。




 ▼△▼




 しばらくすると、ディランが依頼主と思われる男性と一緒に戻ってきた。


 依頼主の男性は、僕たちを見て若干不安そうにしたが、ディランが、


「コイツは俺より強いから安心しろ」


 と言ったら一応は信じてくれたっぽい。まあ、見てくれは怪しいフードの男だからね。


 それに、周りは若い女の子ばかり。不安になるのも解る。


 だが安心してほしい。彼女たちは——かなり強いよ?


 それに僕も、盗賊たちに彼女たちを傷つけさせはしない。場合によっては容赦なく殺す所存だ。




 全員で外に出ると、馬車を使って村まで移動することになった。




———————————

あとがき。


明日、新作投稿予定!

初日は2話だゾ☆

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