第197話 ピンク王女

 朝食を済ませ、準備を整えて外に出る。


 今日も今日とて空模様は晴天だ。まるで太陽が笑っているかのように日差しを放っている。


 そんな日差しの下、仲良く歩くのは——僕を除く三人の女性たち。


 ノイズ、エアリー、アウリエルの三人だ。


 ちょうど話を聞いていた三人が、本日の同行者になる。


 一応、他のメンバー達にも声はかけたが、ソフィアは読書。カメリアは料理の研究があって手を離せない。


 なので、最初に話を聞いていたメンバーが集まった。


 ちなみにアウリエルは健康そのものらしく、さすがに自重したほうがいいのでは? と僕が言ってもついてきた。


 元気ならいいが、あまり無理はさせられないな……。


「どうしました、マーリン様。お顔が優れませんが」


「あ、いや……アウリエルのことを考えていてね」


「まあまあ! もしかしてわたくしと往来で接吻を!?」


「アウリエルの脳内がピンク色で僕は安心したよ……違うけどね」


 彼女は僕のことをなんだと思っているのだろうか。


 いくらなんでも、こんな人通りの激しい道でいきなりキスなんてしないよ。


 ただでさえ僕とアウリエルは外套にフードを被っていてかなり怪しいのに、そんな二人がキスを始めたら普通に事件だ。兵士が飛んでくるぞ。


 その時、王国のお姫様がチューしてました! とか言うの? さすがに国民が可哀想だ。


「違うんですか……残念です」


 アウリエルは僕の返事を聞いてしょぼん、とテンションを落とす。


 逆に違わなかったほうがいいなんて彼女の教育はどうなっているんだ。直接国王に訊きたくなった。




 まあ、それはともかく。


「違う違う。僕が言いたいのはアウリエルの体調だよ。本当に大丈夫?」


「ああ、そのことですか。マーリン様は心配性ですね。心配されるのは嬉しいですが、問題ありません。聖属性魔法スキルで痛みも和らげましたしね。健康そのものですよ」


「だとしても心配になるよ」


「では見ますか?」


「見ません」


 キスよりヤバいことを言い出したので、この話はここまでだ。


 ちょうど中央広場に到着した。ここから少し歩いた先に、今回の目的地の冒険者ギルドがある。


 先頭を歩くノイズが、鼻歌まじりに言った。


「果たして今日は~、どんな依頼がありますかねぇ!」


 とても楽しそうだった。僕はくすりと笑って、


「そうだね。ノイズとしては……やっぱり魔物の討伐依頼が一番かな?」


「はい! でもでも、困ってる人がいたら素材採取でも構いません! 人の役に立つのは気分がいいですからね!」


「あはは。ノイズはいい子だ。でも、その通りだね。僕も同じ気持ちだよ」


 ビースト種の子は基本的に感情をダイレクトに伝えてくる。


 嘘偽りがないってこと。だから、ノイズの言葉は本物だ。本当に、彼女は誰かを助けることに楽しさを見い出してる。


 いい傾向だ。中には、犯罪に手を染める人も少なくないっていうのに。




「あ! 冒険者ギルドです! 到着しましたよ、マーリンさん!」


 尻尾をふりふりと左右に揺らし、ノイズがびしりと人差し指を向ける。


 僕は頷き、


「うん、じゃあ中に入ろうか。あんまり騒ぎ過ぎないようにね」


 ノイズに、念のために注意をしておいた。


 彼女は何度も首を縦に振ると、スキップしながら冒険者ギルドの中に入っていく。僕たちもそれに続いた。




 ▼△▼




「マーリン様!」


 冒険者ギルドの一階、受付のカウンターにて、僕の姿を見た女性職員が声をかけてくる。


 なんだろうと思って返事を返すと、


「はい? こんにちは」


「こんにちは! ちょうどよかった……実は、ギルドマスターがマーリン様に話があると」


「僕に……ディランさんが?」


 何やら珍しく呼び出しらしい。


 今日は一階にディランさんがいなかったなぁ、と思ったが、結局は顔を合わせることになるのか……。


 あの人のことは嫌いじゃない。むしろ人間性は好きな部類に入る。が、暑苦しい。


 たまに会うくらいがちょうどいい。


 しかし、せっかくのお誘いだし、ここで拒否しても外聞が悪くなるだけだ。話だけなら聞く分には問題ないだろう。


「ごめんね、ノイズ。僕はちょっとディランさんの所に行くから、みんなで依頼を選んでおいてくれないかな?」


「一緒に行きますよ。なんだか面白い予感がします!」


「お、面白い予感? 別にいいけど……何もないと思うよ?」


 ノイズがついてくる宣言をすると、自動的に残りのメンバーも同行する。




 職員の女性に案内され、二階のギルドマスターの部屋を訪れた。


 職員の女性が扉をノックして開ける。僕たちが来たことを告げると、ディランは大きな声で言った。


「おお! マーリンたちが来たのか! ベストなタイミングだな! まさに神に愛されてると言ってもいい! 実はお前たちに、ぜひとも請けてほしい依頼があるんだ!」


「……受けてほしい依頼、ですか?」


 急な話に、部屋に入った直後に僕は首を傾げた。


 ノイズの予感は、見事に当たったかも?

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