第196話 昨夜はお楽しみでしたね

「マーリン様」


「あ、アウリエル……」


 新たな勇者候補の件が終わった翌日。


 一緒に屋敷へ帰ってきたアウリエルが、ベッドの上で僕に跨っている。


 それはある意味で普通の光景ではあるが、いかんせん、今の彼女は——服を着ていない。


 僕もだ。


 下は履いているが、残念ながら上は裸。


 そんな状態で僕たちが何をしているのかと言うと……まあ、あれだ。いつものアウリエルの暴走だ。




「こんな早朝からおっぱじめるつもりかい?」


 じんわりと汗をかきながら僕は言った。


 対するアウリエルは、頬をわずかに赤く染めながら、


「はい。わたくし、我慢できません。昨日の熱い夜を思い出すと、もう……ね?」


 とてもとても危険なことを言った。


 ——そうですね、と内心で彼女の言葉を肯定する。


 たしかに僕はアウリエルに手を出した。具体的には、アウリエルに寝込みを襲われた、と表現するほうが正しいけどね。


 前の僕なら彼女からのアプローチを拒否してたところだが、それも関係性が深まったいまは不可能だ。


 思わず受けれてしまい、今に至る。


 シーツに付いた赤い汚れや、散乱した衣服を見れば、すべてがすべてを物語っている。


 それゆえに、僕はなんとかして朝から元気な彼女を止めにかかっていた。


「お、落ち着いてくれ、アウリエル。君、昨日が初めてだったんだからもう少し休んだほうが……」


「ありがとうございます、マーリン様。わたくしの体を気遣ってくれるのですね?」


「そうそう、そんな感じ」


「ですが問題ありません。わたくしは聖属性魔法スキルを持っています。治療はもちろん、痛みを抑制しすぐに問題は解決しました。それに……この興奮は、止められませんよ」


 がばりっ。


 さらにアウリエルが僕に近づき、完全に覆いかぶさる。


 彼女の大きな二つの塊が視界を覆い尽くし、僕は完全に諦めモードに入った。




 ——そっか。聖属性魔法スキルって、こういう場合でも役に立つんだ……。


 それは知らなかったなぁ、と思いながらも、彼女と唇を重ねる。




 ▼△▼




 朝からアウリエルと第二ラウンドをおっぱじめた僕。


 当然、早起きすることは叶わず、九時を過ぎてからリビングのほうへと向かった。


 すでにリビングには、数名の女性が。


 扉を開けて入ってきた僕とアウリエルを見て、真っ先に、


「おはようございます、マーリン様、アウリエル様」


 エアリーが声をかけてきた。


 その表情は、どこか楽しそうでもある。


「お、おはよう……エアリー、ノイズ」


「おはようございます、エアリーさん、ノイズさん」


「おはようです! 今日は珍しく遅かったですね、マーリンさんたちは」


 ぎこちない笑みを浮かべて僕が挨拶を返し、それにアウリエルが続く。


 すると、エアリーの対面に座っていたノイズが、元気よくなかなかえげつない質問をしてきた。


 なんて返そうかと一瞬悩み、その間にエアリーが答える。


「ふふふ。お二人とも朝から随分とお元気でしたからねぇ。どうでしたか、アウリエル様。初体験の感想は」


「なぁ!?」


 ば、バレてるぅ!?


 なんで!? たしかにみんな部屋は近いけど、壁は厚いから防音設計はしっかりしてるはずなのに……ハッ!? まさか……扉の隙間から覗いてた!? もしくは聞き耳を立てていたのか。


 どちらにせよ、そんな感想求められてもアウリエルだって——、


「最高、でした!!」


 困らないよねぇ。君は嬉々として答える人間だと思ってたよ……。


 ハッキリとそう断言したアウリエルを見て、僕はゲロ吐きそうになった。


「それは何よりです。本当は私も混ざりたいところでしたが、アウリエル様は初めて。さすがに邪魔できませんね」


「ありがとうございます、エアリーさん。おかげでもう……人生で最も幸せな瞬間を味わえました。あれが、愛しい人とのエ——」


「わあああああ! もういいから、その話! ノイズもいるのにぺらぺらと語らない!」


 問題発言しそうになったアウリエルの声を遮る。


 彼女はくすくす笑っていたが、話を聞いていたノイズは、


「~~~~!」


 顔を真っ赤にしてうつむいていた。


 意外とピュアなのだ、ノイズは。


 イメージ的には、ビースト種ってかなり旺盛な感じがするけど。


「そ、そうだ! マーリンさん! 話は変わりますが……」


 かなり強引にノイズが話を変えてきた。


 僕としては助かるのでその話に全力で乗っかる。


「ど、どうしたんだい、ノイズ!? 僕に何か話かな!?」


「食い気味ですね」


 うるさいよエアリー。


「実は、ノイズはまた冒険者ギルドに行きたいのです。依頼を請けて体を動かしたいのです!」


「あ、ああ! いいね! 実は僕も行きたいと思っていたんだ!」


 この空気を換えられるなら冒険者ギルドでもなんでも構わない。


 ナイスアイデアだと彼女を褒め称え、ノイズの提案を呑む。


 今日は実にいい冒険日和だと思わないかな!?

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