第187話 新たな火種
「聖属性魔法スキルを持った……女性冒険者?」
オリビアを言葉に、アウリエルは面食らった表情を作る。
それを見たオリビアが、くすくすと笑って続けた。
「はい。それなりに強い方だそうですよ。少なくとも冒険者ランクは2あるとか」
「冒険者ランク2! とても高いじゃないですか!」
アウリエルが希望を見つけたかのようにテンションを上げる。
逆に国王陛下は、嫌な予感がしてアウリエルに訊ねた。
「あ、アウリエル? どうしてそんなに盛り上がっているのだ?」
「もちろん、その女性冒険者の方をお誘いするのです! 新たな勇者に!」
「やっぱりそうくるか……だが、お前はわかっていない。歴代の勇者様はすべて男性だ。女性では問題が起こる」
「そこは男装してもらえば解決です! それに、もしかすると女性の勇者だって生まれるかもしれないじゃないですか! 時代錯誤です!」
「そういう問題じゃないだろ……」
やれやれ、と国王陛下は呆れてしまうが、そこにオリビアの声がかかる。
「よいではありませんか。問題を起こす勇者を国の代表にするくらいなら、女性冒険者を男装させて勇者にしたほうがよほど健全です」
「お前まで何を……仮にバレた場合、我が国の威信は失墜するぞ」
「すでに失墜するような人間を勇者に選んでいる時点で問題かと」
アウリエルが鋭いツッコミを入れる。
そう言われるとさすがの国王陛下も唸らざるを得ない。
件の勇者は、あまりの素行の悪さに苦情があとを立たないくらいだ。
たしかに他の勇者候補がいるなら、国王だってそちらを優先したい。
だが、相手は女性だ。
勇者はそれぞれが集まってパーティーを組み、やがて魔王討伐のために旅に出る。
その際、寝食を共にする他の勇者たちに性別がバレれば、結果的に国の評価は下落する。
その責任を国王自身が負うにはあまりにもデメリットが大きすぎた。
「ううむ……」
「そんなに深く考えないでください、陛下」
にこりとオリビアが微笑む。
そもそも自分をここまで追い込んだのはオリビアのもたらした情報だったのに……と思ったが、決して口にはしない。
オリビアはこういう人間だ。
皮はとても清楚で口調も柔らかいが、ナチュラルに相手を刺してくるタイプの人間。
それを知っているから、国王は余計な口は挟まない。
「仮の話です。件の勇者が更生し、大人しく協調性を持てば何の問題もありません。そちらは陛下にお任せしますので、アウリエルは女性冒険者と話してみたらどうでしょうか」
「わたくしが……その女性冒険者と、ですか?」
「はい。オリビアも協力しますよ。話してみたい気持ちは同じなので」
「そうですね……では今度、マーリン様を連れて様子でも伺いにいきましょうかね」
「まあまあ……やはりマーリン様もご一緒するのですね」
両手を合わせてオリビアは喜びの感情を浮かべる。
アウリエルと仲が良い彼女は、何度もマーリンの話を彼女から聞いていた。
顔を合わせたこともある。
最近だと国王が開いたパーティーにオリビアとマーリンが出席し、遠巻きではあるがその顔を見た。
そのとき彼女は思った。
——ああ、この人は……。
「オリビアお姉様? お姉様もマーリン様にご興味が?」
「……え? あ、はい。アウリエルから聞くマーリン様のお話は、どれも目を見開くほど素晴らしいですからね」
「それはもう! マーリン様以上に素敵な人間はいません! 本当はマーリン様こそが勇者に相応しいとわたくしは思いますが、本人にやる気がないので我慢します。……それに、マーリン様が旅に出るのは寂しいですからね」
「ふふ。なら一緒についていけばいいんですよ。アウリエルも」
「わたくしが……一緒に?」
オリビアの言葉に、アウリエルは天啓を授かる。
そうか! その手があったか! と徐々に表情が笑みへと変わった。
しかし、直後、
「ならん! それだけはならんぞ! 私は反対だ!」
国王陛下がアウリエルの想いをかき消した。
「酷いです、陛下! わたくしの邪魔をするなんて!」
「私はさっきも言っただろ! アウリエルを危険な場所にやることなど許さん! ただでさえ、最近は生き残っていた魔族に襲われて大変な目に遭っているのに……!」
「ああ、その件はたしかに憂うことですね。オリビアもこの街から逃げるハメになりましたし……マーリン様には、ぜひとも王国を守ってほしいですね」
「うむうむ! マーリン殿に勇者になる気がないのなら、やはりこの街にいてもらうのが一番だろう! うむうむ」
オリビアの言葉に、国王を何度も頷いて話を終わらせる。
アウリエルが不満そうに頬を膨らませるが、たしかにマーリンがいてくれれば平和は保たれる。
それもまた事実なため、怒るに怒れなかった。
「とりあえず、マーリン様の勇者の話は置いといて……女性冒険者の件、日程が決まりましたらオリビアにも声をかけてくださいね? 仲間外れは嫌ですよ?」
「わかりました。マーリン様と相談してみますね」
それだけ言って、用事があるとオリビアは退室していった。
また、勇者騒動に新たな火種が……?
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あとがき。
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『もしも悲劇の悪役貴族に転生した俺が、シナリオ無視してラスボスを殺したら?』
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