第182話 冒険者活動

「とりあえず……今後、あの勇者様とは関わらない方向でいこうか」


 話がひと段落したところで、僕がそう結論をつけた。


 他の女性陣たちは全員がこくりと頷く。


「そうですね。特にマーリン様とわたくし、それにソフィアさんとエアリーさんは目を付けられそうですし」


「つ、付けられますかね……? 私たち、仲間に誘われた? くらいですし……」


「付けられると思うわよ、ソフィア。あの手の人間は、逆恨みするのが常識なんだから」


「そうなの、お姉ちゃん?」


「そうよ!」


 はっきりとエアリーは断言しているが、さすがにそれは偏見がすぎる。


 彼も意外と捨て猫を拾って世話するくらいの優しさがあるかもしれないよ?


 揉めた貴族たちだって、悪いことに手を染めている可能性もある。


 僕は最後まで彼の栄達を祈っている。


「そっか……なら、私は今後、マーリン様やお姉ちゃんたちと一緒に行動するね。もともと外に出たい用事もそんなにないし」


「そうするのが一番かもしれませんね。せっかく魔族による騒動も落ち着いたのに……今度は味方であるはずの勇者に問題を起こされるとは……。やはり、マーリン様はトラブルに愛されているのでは?」


「僕かい? どちらかと言うと、全て巻き込まれているって意味じゃ、アウリエルも怪しいと思うよ」


「むっ……たしかに」


 アウリエルは自覚があるのか、そう指摘されると難しい顔をした。


 ソフィアとエアリーがくすくす笑う。


「私とソフィアも結構巻き込まれてますから、みんなそういうトラブルメイカーみたいなところがあるのかもしれませんね」


 ちょっと意味が違うと思うが……まあ、言いたいことはわかる。


 個人的には、やっぱり僕なのかなぁ、とか思いながらも、それを口に出すことはなかった。


 口に出すと、まるで物語の主人公みたいに事件に巻き込まれそうだからね。




 ▼△▼




 勇者との騒動から数日。


 何かしら彼が問題を起こすと思っていたアウリエルの考えとは裏腹に、割と平穏な日々が過ぎる。


 現在進行形で勇者のほうは問題を起こしているそうだが、それを聞いても特に誰も関心はなかった。


 話を聞いたアウリエルも、呆れた表情で愚痴をこぼす程度。


 いつものように日常が繰り広げられ、そろそろ何かしようかと思い当たったある日。


 エアリーがリビングの中で僕にあるお願いをした。




 ▼△▼




「……冒険者ギルドに行きたい?」


 エアリーの言葉をそのままオウム返しする。


 彼女はこくりと頷いて続けた。


「はい。最近、やりたいことがあまりなくて暇だったのと、体を動かさないと鈍っちゃいそうで……」


「ああ、たしかに。勇者の件もあったから結構大人しくしてたよね。でも、そうか……冒険者としての活動か。うん、大事だね」


 僕もたまにピクニック気分で外に出たくなるときがある。


 エアリーがそれを望むなら、喜んで一緒に出かけよう。


「はいはい! ノイズも一緒に行きたいのです!」


「あ、じゃあ私も……お姉ちゃんと一緒に行きたいです」


 ノイズがエアリーの話に乗っかる。


 おずおずと言った風にソフィアも手をあげていた。


 他の二人は特に反応がない。アウリエルはお疲れのようだし、カメリアはもともと戦闘には消極的だ。


 それを確認して……。


「了解。じゃあ僕とソフィア、エアリーにノイズの四人で冒険者ギルドに行こうか。何か依頼があったらそれを請けよう」


「ありがとうございます、マーリン様!」


 エアリーが花開くように喜ぶ。


 彼女のそういう顔が見れるなら、毎日だって冒険者ギルドに……行くのはちょっとむさ苦しいかな。


 僕が冒険者ギルドに行くと、暑苦しいあの人に必ず会うから……最強格の冒険者のひとり——ディランにね。


「それじゃあ支度をして行こう。三十分くらいあれば十分かな?」


「十分です!」


「わかりました」


「お任せください!」


 エアリー、ソフィア、ノイズの順番でOKが出る。


 僕もまた自室にいき、適当に準備をした。




 ▼△▼




 四人で屋敷を出て徒歩で冒険者ギルドに向かう。


 最近、運動ができなかったから足で稼がないと。


 人通りを過ぎて中央へ。そこから会話を挟みながら冒険者ギルドに入る。


 すると、


「——お。ようマーリン! なんだなんだ、今日は依頼を請けに来てくれたのか?」


「……ディランさん」


 僕にとってはやっぱりか、と思える人物と顔を合わせる。


 なんで僕が冒険者ギルドに行くと、二階で仕事してるはずのギルドマスターが、高確率で一階にいるんだ。


 しかも、中に入った途端に見つかる。早すぎるだろ。


「どうも。依頼を請けにきましたよ」


「ガハハ! そうかそうか。最近は勇者だなんだと周りがうるせぇが、お前がいてくれるほうが俺は嬉しいね」


「ディランさんも勇者はご存知ですよね、そりゃあ」


「もちろんよ。国王陛下から直接話を聞いたからな。けどよぉ……」


「ん?」


 急にディランさんが周囲を見渡してから僕に近付いて耳打ちをする。




「俺ぁ、アイツが嫌いだぜ。生意気すぎるし、ウザいし、依頼をえり好みやがるからよぉ」

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