第177話 勇者、しつこい

 目の前に現れた神様メッセージ。


 そこには、あまりにも衝撃的な内容が記されていた。




『勇者の加護を獲得しました。勇者の称号を獲得しました』


「…………」




 ど、どないせぇっちゅうねん……。


 反応に困って唖然とする。


 幸いにも、僕の動揺は他の子たちにはバレていない。みんな神への祈りを捧げている。


 しかし、それもほんの少しのこと。すぐにアウリエルたちは目を開けた。


「——うん? どうしました、マーリン様」


「あ……いや……なんでもないよ。みんなはしっかり神様に祈りを捧げられたかな?」


「はい! それはもう念入りにマーリン様と結婚できるように願いました!」


「俗っぽいよ……」


 というかそういう願いを告げる場なのかな、ここ。


 結婚式はだいたい教会で行われるイメージがあるし、意外とあり……?


「私は神様にひたすら感謝を送りました。マーリン様と出会わせてくれてありがとうございますって!」


「ソフィアらしいね」


「私はアウリエル様のようにお願い事を」


「エアリーのお願い?」


「ソフィアとマーリン様、それにノイズさんやカメリアさん、アウリエル殿下を含めたすべての人たちと、幸せになれますように、と」


「エアリー……」


 普段はふざけた態度も目立つ彼女だが、さすがソフィアの姉。


 ソフィアと共に苦しみながら生きていたはずなのに、それでも誰も恨まず、捻くれることなく成長した。


 ソフィアとエアリーは奇跡だな。


「マーリン様はなんてお願いしたんですか?」


「え? ぼ、僕?」


 まずいっ。この流れはそうくるよね普通!


 でも、勇者の加護のこととか話すわけにはいかない。かなり事態が面倒なことになる。


 やや動揺しながらも、適当に答えた。


「僕は……みんなと幸せに過ごしたいなって。あと、みんなと出会えてありがとう、とか?」


「さすがマーリン様ですわ! やはりわたくしともう結婚するしか……」


「しー。教会内で騒ぐのはダメだよ、アウリエル」


「では口を閉じてください。マーリン様のお口で」


 無敵だなコイツ。


 ハァ、と呆れながら顔を近づけてくる彼女の額を突いた。


「はいはい。いいからそろそろ帰るよ。ノイズたちのために何か買って帰ろうか」


「でしたら甘いものがいいかと。あとは……」


「カメリアのために何か珍しい食材でも買っておこうか」


「それがいいですね!」


 ソフィアの的確な意見を採用。僕たちは四人揃って教会を出る。


 ——その瞬間。


 扉の近くにいた、あの自称・勇者が話しかけてきた。


 コイツまだいたのか。




「おいお前」


「これはこれは……勇者様」


 一応、国王に認められた正式な勇者様だ。しっかりと頭くらいは下げておく。


「お前、国王から聞いたぞ」


 陛下をそんな風に呼ぶのはどうかと思いますが。


「なんでも救国の英雄らしいじゃないか。この俺様が活躍する前にたまたま活躍できた凡愚が……実に微笑ましいかぎりだな」


「なっ……!? 誰が——」


「アウリエル」


 ステイ。


 ブチギレかけた彼女を止める。


 まがりなりにも相手は勇者だ。その称号があるかぎり揉めるのは得策じゃない。


 特に彼女は王女様。勇者と王族が不仲なんて噂が流れたらことだ。


「勇者様に褒められるとは恐縮ですね。たしかに運がよかったのは間違いありません」


「……ふんっ。張り合いのない奴だ。まあいい。後ろの女はお前の奴隷か?」


「どれっ……え?」


「奴隷かと訊いているんだ。俺の質問には一回で答えろ。勇者をなんだと思っているんだ」


 いやいやいや! お前こそ人をなんだと思っているんだ!?


 どこからどう見たって奴隷じゃないだろ。つうか王国に奴隷制度ってあるのか?


「彼女たちは僕の大事な家族です。それがどうかしましたか?」


「なに、外見は悪くないからこの俺様の仲間にしてやろうと思ってな。どうだ? 悪くないだろ?」


「……はい?」


 コイツ、正気か? これが勇者とか頭沸いてるだろ。


 それとも勇者にたる資格……能力でもあるのか?


 そう言えば、聖属性魔法スキルがどうのこうのって……あれか。


「だから、その女を——!」


「すみませんが、彼女たちは僕の家族です。誰にも渡せません」


「ッ! 貴様……勇者に逆らうというのか?」


「そちらこそ僕に逆らうつもりですか?」


「な、なにっ!?」


 ぶちり、という音が聞こえた。


 この勇者、性格が最悪なら短気でキレやすいって感じか。見たとこもともとは平民かな? そんなにほしいもんかね、こんな奴。


「僕は国王陛下に認められた貴族でもあります。救国の英雄にして貴族である僕を敵に回す意味が……あなたにはわかりますか?」


 くすりと笑って言うと、勇者は顔を真っ赤にしてキレる。


「貴様ぁ! 勇者に舐めた口を利くなど、この俺様が許せるか!」


 勇者は腰に下げた剣の柄に触れる。


 まさか……街中で剣を抜くつもりなのか!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る