第167話 爵位と神託

 アウリエルたちと共に国王陛下のもとへ向かった。


 そこには陛下だけじゃない。王妃様や他の王女様の姿があった。


「おお、マーリン殿。よく来たな」


「本日はパーティーへのお誘い、ありがとうございます」


「なに、此度の主役は余ではない。お主であるのだから当然のことよ。むしろよくパーティーに参加してくれた」


「陛下のためとあらば」


 恭しく頭を下げながら挨拶をする。


 他の王女様たちからの視線がすごいが、あえて気付かないフリをした。


「マーリン殿には是非、余の命を救ってくれたお礼をしたい。他にも国を救ってくれた功績に見合う爵位を用意するが……」


「それには及びません、陛下。爵位など私には身に余る。自由の身だからこそ、私は陛下を救えたのです」


「ふっ……やはり辞退するか。マーリン殿ならきっとそうすると思っていた」


 陛下の声は優しかった。


 思えば、最初に会った頃に比べたら棘も抜けたものだな。


 アウリエルに近づくならお前とて殺す! という勢いだったのに。




「——しかし、余にも国王としての体裁がある。命の恩人を、救国の英雄になにも報いてやらねばその名が失墜しよう。そこで、やはりマーリン殿には爵位を渡したい」


「え?」


 ま、まずい。


 国王陛下から爵位を強制されたら、王国民の僕には拒否する権利はない。


 よくよく考えると僕は転生者なので、厳密には王国の民ってわけでもないが……王都に屋敷とかあるし、王国民と言えばそうか。


「爵位は伯爵の席を用意した。いきなり大出世だな、殿


「いや、爵位は私には……うん? 名誉貴族?」


 聞きなれない単語に首を傾げる。


 その瞬間、国王はにやりと笑った。


「うむ。名誉貴族とは、我が国ではほとんど使われない制度だが、此度はマーリン殿の意思を汲み取って採用してみた」


「なんですか、その名誉貴族とは」


「名誉貴族は従来の貴族とは違い、領地や役目を持たぬ貴族のことだ」


「領地や役目を持たない貴族……?」


「言ってしまえば爵位——権力だけを持つ貴族だな。悪用されると厄介なことになるためこの制度が使われることは滅多にない。が、その機会が訪れた」


「権力だけ……って、かなりまずいのでは?」


「なに、余はマーリン殿を信頼している。権力を持てばマーリン殿は今以上に動きやすくなるだろう。しいて言うなら、王国のピンチには助力を願いたい」


 たったそれだけのことで伯爵という地位を与えるのか?


 権力だけ持つ無能がどれほど危険な存在か。それは僕でもわかることだ。


 しかし、それを考えても僕を伯爵にする道を陛下は選んだ。


 驚きすぎて顎が外れそうになる。


「そ、それはもちろん……僕も王国が大切なのでいくらでも力は貸しますが……」


「伯爵では不服かね? 侯爵までならまあ今すぐにでも……」


「いやいやいやいや! そういう問題ではありません! 平民には過ぎた贈り物かと」


「余の気持ちだ。それを否定することは許さぬ」


 ぴしゃりと国王陛下が言った。


 それを言われると僕は何も言えなくなる。


 もはや確定事項っぽいし、僕には何のデメリットもない。


 むしろメリットだけの提案だ。渋々受け入れることにした。


 結果的に言えば、なりたくなかったはずの貴族入りである。




「……謹んでお受けします」


「うむ。これからもマーリン殿には期待している」


「おめでとうございます、マーリン様!」


 隣ではアウリエルが満面の笑みを浮かべていた。


 気のせいだとは思うが、やたらにっこにこなので訊ねてみる。


「ねぇ、アウリエル……殿下」


「はい。なんでしょうか」


「もしかしてなんですけど……名誉貴族を出したのって……」


「わたくしですね」


「だと思った!!」


 ですよねぇ!


 どうせ陛下と二人きりになったときにでも画策したのだとわかったよ!


 平民のもとに王族がどうやって嫁ぐのかとずっと疑問ではあった。


 この問題をどうやって解決すればいいんだろう……やっぱり僕も貴族にならないとダメかな?


 そんなことを思っていた時期もありました。


 同じくアウリエルもこの問題を解決するために動いていたのだ。


 それが名誉貴族の伯爵。


 わりと中堅上位に位置するくらいの爵位・伯爵ともあれば、第四王女の嫁ぎ先としてはギリギリセーフっぽいしね。


 おまけに僕は、国王陛下曰く「命の恩人」「救国の英雄」だ。


 恐らく身分云々を言ってくるものもいないだろう。


 完全にやられたね……。


「さすがだね……アウリエル殿下は」


「えへへ。それほどでもありません」


 謙遜しないでいいよ。もう最強の一撃だった。


 僕は肩を竦めて諦める。


 彼女と結ばれることができれば、まあこれもいいかと思った。




 ——そのとき。


 パーティー会場入り口から、ひとりの男性が走ってくる。


 服装が他の参加者たちとは違うのですぐに警備の者だとわかった。


 男は息も絶え絶えに陛下たちの前で膝を突くと、絶望に染まった顔で言った。




「ご、ご報告、します! 聖女様からの神託で……魔王が世界に生まれたと!」




———————————

あとがき。


これにて三章終了!

四章では物語が大きく動く……のかな?

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